CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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両国の“希望”

 パン! パン!

 

「……え?」

 

 ジュードはふり返った。たったさっきまでいた事務所から銃声がした。

 ドアのガラスが内側から割られ、破片が路地に落ちる。

 

「おいこらずいぶん荒っぽい代行業者じゃねーか!」

「じゃないよねどう見ても!」

 

 ジュードはアルヴィンともども駆け戻った。ツバサも一拍遅れて彼らを追ってきた。

 

 事務所の床にはガラスが散乱し、棚にあった段ボールがいくつもなくなっていた。

 

「精霊の化石がごっそり消えてやがる……」

「大丈夫ですか! しっかり」

「くそ……あいつら、俺が差し押さえられるって気づいて……」

「おたくの取引先か! 誰だ!?」

「ブラート……ドヴォールの」

 

 ツバサが青くなって両手で口元を覆った。

 

 ――ブラート。アルクノアに源霊匣(オリジン)の材料を横流しし、暴走させてテロに利用しようとしていた組織。

 

 ジュードは男の腹の傷に手をかざした。何はともかく男の傷を手当せねばならない。

 治癒の白光が少しずつ傷を塞いでいく。

 するとツバサがジュードの横にしゃがみ、自分の手をジュードの手に上から重ねた。

 

「ツバサ、治癒術使えるの?」

「自分対象にならね。これはジュード君の術を補助してるだけ」

 

 二人でやったからか、男の傷は完全に塞がった。

 

「今のがリーゼ・マクシアの精霊術ってやつか。便利なもんだな」

「向こうの人ほど僕も上手ではないんですけどね。ハーフなんです。リーゼ・マクシアとエレンピオスの」

 

 男は何とも言えない顔をしたので、ジュードは苦笑でもって応えた。

 

「ジュード君」

 

 ツバサが耳打ちしてきたので、ジュードは身を傾けた。

 

「わたしもね、元いた世界ではハーフなの。あんまり仲の良くない国同士の」

 

 気遣ってくれたのだと分からないジュードではない。それでも礼を言うのは違う気がして、ジュードは苦笑でない、ちゃんとした笑みで応えた。

 

「で、どうする、ジュード」

「止めたい。まだ間に合うかもしれない」

「だよな」

 

 ジュードはこれを自身の責任だと捉えた。源霊匣(オリジン)の構造的な不安定さを解消できていないから、アルクノアに悪用を許してしまっている。

 

「俺はトリグラフで流通ルートのほうから連中の動きを探る。合流は、ま、ドヴォールだろうな、流れ的には」

「うん、アルヴィンも気をつけて」

「わたしも行くよ、ジュード君」

「ありがと、ツバサ」

 

 ジュードとツバサは裏口から路地裏に出るなり、走り出した。

 

 道は構造的に一本道で、かつ、どこか遠くに精霊の化石を持ち出そうとしているならば、駅を利用するために広場に出ざるをえない。おのずとルートは限られる。そのルートをジュードは走った。

 

「ジュード君、いた!」

「分かってる!」

 

 前方に男が3人。ジュードを見ての焦り様からブラートの人間と見て間違いない。

 

 ジュードは問答無用で、まず二人の男の背後に回り込み、両者のうなじに掌底と蹴りを食らわせた。

 

「精霊の化石は……!」

 

 残る一人が、3つのアタッシュケースを持って路地から出る方向へ走っている。

 男はポケットから何かを出して投げた。

 

「お前たちがどんな物を押しつけてるのか、自分で体験してみやがれ!」

 

 ――それは、起動済みの源霊匣(オリジン)だった。

 

 ジュードは地面を蹴って源霊匣(オリジン)を掴もうとした。

 制御を失った源霊匣(オリジン)は爆薬以上の危険物だ。ここで暴走したらディールの人々が巻き込まれる。

 

封印解除(レリーズ)! (タイム)!」

 

 宙を舞っていた源霊匣(オリジン)が空中で静止した。

 

 ジュードはふり返る。路地の向こうの広場の人々も静止している。まるで時間が止まったかのように。

 動いているのは、星の長杖を一枚のさくらカードにかざしたツバサのみ。

 

 こんなことが前にもあった。シャウルーザ越溝橋の暴動で、ツバサは時を停めてアルクノア兵の銃弾を――

 

「ごめんね」

 

 ツバサは悲しげに、レッグホルダーからもう一枚のさくらカードを取り出した。

 

(ソード)

 

 星の長杖がファンシーな鍔の剣に変わった。ツバサが剣を持ち、無造作に袈裟切りにする。

 斬撃はジュードをすり抜け、空中に縫い止められた源霊匣(オリジン)を真っ二つにした。

 

 音が溢れ返り、景色が元に戻った。

 

 ジュードの目の前に落ちた源霊匣(オリジン)は、起動することなく命を終えた。

 

「ごめん。あのままだったらジュード君、絶対、自分の体で防ごうとすると思ったから」

 

 ――いいんだよ。心配してくれてありがとう。おかげで誰も傷つかずにすんだ――

 そうツバサに言えたら、どんなによかっただろう。

 

 ジュードはしゃがんで、源霊匣(オリジン)の残骸を拾った。

 

(起動していたってことは、リーゼ・マクシア人が化石にマナを注いだっていうことで。マナを生み出せないエレンピオス人には不可能なプロセス。両国民が協力しなくちゃ成立しない技術。それがこんな、こんな形で使われるしかないなんて)

 

 叫びたかった。誰に、何をかは、分からない。ただジュード・マティスは心の底から咆哮したかった。




 読み込めば読み込むほど、この「双極のクロスロード」って外交とか政治とかテロとか、社会派な感じが強い気がしてきます。
 もはやテイルズの名を借りた社会派漫画。

 そして地味にモブの顔がそこそこイケメンに描いてあるのは作者様の趣味でしょうか?

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