CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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わたしの本当のキモチ

 ツバサが夜のカン・バルクの門を潜ると、ローエンが立っていた。

 

「ようこそ、リーゼ・マクシアの統一新都へ。及ばずながらエスコートさせていただきます」

「ありがとうございます」

 

 ローエンが差し出した腕に、ツバサは素直に掴まって街を歩いた。

 

 ――ついにツバサはガイアスにカン・バルクに招かれた。ツバサ自身の心に決着をつけるために。

 

(王様として、“ガイアス”さんとしてのアーストさんを見て、わたしが好きなのは“アーストさん”か“ガイアスさん”なのか。ちゃんと答えを出さなきゃ)

 

 

 正面から入ると目立つという理由で、夜ではあるが、関係者専用の出入口を使って城に入った。

 

「広いですね。ちょっと圧倒されちゃいます」

「王の城ですから」

 

 ローエンは一つの扉の前まで行くと、扉をノックして開いた。

 

「遅くまでお疲れ様です、アーストさん」

 

 条件反射で心臓が一つ跳ねた。初めて見る、ガイアスの後ろ姿。机に座って書類と向き合っている。

 

「今はガイアスで構わん」

「おや、これは失敬。最近はエレンピオスに入り浸りでしたからね」

「おかげで目を通さなくてはならん書類がこの有様だ」

 

 ガイアスは机の隅の書類の山を示した。目測で30センチ以上はある。軽く引いた。

 

「ツバサさんをお連れしました」

 

 ローエンと話す時でさえ動き続けていた羽根ペンが、ぴた、とわずかな間だけ止まり、また動き始めた。

 

「では私のほうの用事は明日にでも」

「構わん。どうせ俺がそう答えると承知で来たのだろう」

「恐縮です」

 

 ツバサは息を殺した。これから始まる会話は、「王」と「宰相」の会話だ。つまり、今こそが彼の“ガイアス”としての顔を見るチャンス。

 

「今しがた、エレンピオスのレイアさんから連絡がありました。我が国から輸出された増霊極(ブースター)が輸送中の自己で消失。裏でアルクノアが関与している疑いが強く……こちらで何か怪しいことは起こっていないかと」

 

 増霊極(ブースター)。ツバサは頭から人づての知識を引っ張り出す。確かこちらでいう魔力、マナの出力を高める品だ。

 

 するとガイアスが手元の書類の束を持ち上げた。

 

「10件ほどある行方不明者捜索の嘆願書だ。まあ、すでにお前も目を通しているだろうが。行方不明者の発生はマクスバードのリーゼ港に集中している。――源霊匣(オリジン)の起動にはリーゼ・マクシア人の力が必要なのだったな?」

 

 はっと思い出す。図らずもルドガーと初対面を果たしたドヴォールでの出来事。

 ブラートの人間は、源霊匣(オリジン)の暴走をテロに利用するために材料を集めていた。

 

「――度し難い」

 

 机の上、ガイアスの拳がきつく握られているのを見て、ツバサは思わず縮こまった。怖いと感じてしまった。

 

「ええ。しかもタイミングは最悪です。マルシア首相との和平調印式を間近に控えた今、こちらから下手に追及してしまうと重大な影響が出かねません。いかようになさいますか」

「政治的アプローチができなくとも真実を問う術はある」

 

 ガイアスは机の抽斗から、一つの新聞を取り出した。タイトルは「デイリートリグラフ」。

 

「レイアからの連絡と言ったな? あいつの勤め先が出している新聞は遠慮のない切り口が評判なのだそうだ」

「なるほど。外堀から攻め、エレンピオス側から自発的に」

「こちらが出せる限りの情報を渡しておけ。レイアの勤め先が有益なスクープを掴みやすくなるようにな」

 

 ――終わった。

 

 彼らの会話が終わったことはもちろんだが、この時、ツバサの中でガイアスに向けていた感情の中にあったものが終わりを告げたのを、ツバサははっきりと自覚していた。

 

 

 

 

 

 再びローエンに連れられてツバサは執務室を出て、城の中を歩いた。

 

「ツバサさん、これからのご予定は?」

「今夜は街のお宿に泊まって、明日にはエレンピオスに戻ろうと思います」

 

 ローエンは驚いたような顔をした。

 当然だ。他人から見れば、たったあれだけの時間でガイアスの何を見たというのだ、と批判されてもしかたがない行動だ。

 

「ローエンさんならもう知ってますよね。わたしがアーストさんに『好きです』って言ったこと」

「――はい」

「その時、言われたんです。わたしが好きなのはアーストさんとガイアスさんのどっちなのかって。その時のわたし、“アーストさん”は知ってても“ガイアスさん”は知らなかったから、分からないって答えました。それで今日、ガイアスさんを見て思ったんです」

 

 ツバサは自分の胸の中心を押さえた。

 

「わたしが好きだったのは、さくらカード集めとか調べ物を手伝ってくれて、わたしだけ助けてくれて、わたしだけ見ててくれたアーストさんのほうだったんだって。リーゼ・マクシアの人全部を見て守ろうとしてるガイアスさんじゃないんだって」

 

 リーゼ・マクシアの民が害されたからこそわずかにでも怒りを見せた、そのガイアスを見て思ってしまったのだ。――さびしい、と。

 

「わたしって実は独占欲強かったみたいです。恋に恋して、一国の王様を困らせて、本当に悪い子」

 

 城に入った時に使った扉が見えてきた。ツバサはローエンの隣を離れ、扉へと駆けて行った。

 

「真夜中なのにお邪魔してごめんなさい。本当に、本当にありがとうございました」

 

 ふり返って満面の笑み。そして深く頭を下げて、ツバサは一人、雪降る夜の街へとくり出した。

 きっと自分は上手く笑えていたと、信じて。




 フラグせっかく立てたのに折っちゃいました。
 お前何がしたかったんだ! と怒られたら、やりすぎましたすみません、としか応え様がありません。

 ただ自分の背中を見つめて話を聞いていたツバサにガイアスが何を思ったかは、読者様の想像に委ねます。自分の中では一応決めてあるのですが、それを披露するのも無粋ですので。

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