CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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想い谺す海沿いにて 2

「ちょ、ルドガー!?」

「待て! まだ話は……!」

 

 ミラとユリウスが後ろから追ってくる気配。だが、止まれない。とにかく走った。

 

 不思議がるミュゼを追い抜き、気づいてこちらをふり返ったエルとエリーゼの上へとジャンプし、骸殻に変身した。

 

「だあ――りゃあ!」

 

 ルドガーのジャンプと同時に現れた、黒いイソギンチャクのような魔物――海瀑幻魔に向けて、全力で槍を突き立てた。

 

 

 きぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 

 

時歪の因子(タイムファクター)――!」

「これは、海瀑幻魔!?」

「エル、エリーゼ、下がりなさい!」

 

 ルドガーは海瀑幻魔から槍を抜かれまいと必死で柄にしがみついていた。

 波打ち際から離れたエルたちがミラの後ろに庇われたのが見えた。

 

(『夢』じゃエルが呪霊術をかけられてた。距離があるからみんなとユリウスは心配ない。もし今、呪霊術をかけられるとしたら、その犠牲のすり替えは多分……ッ)

 

 

 ぱんっ

 

 

 海瀑幻魔の一つ目がルドガーを捉え、何かを放った。

 途端に全身にひどい痛みが生じた。

 

(ごめんな、『(ドリーム)』。せっかく教えてくれたのに。お前の心配に応えてやれそうにない)

 

 ルドガーは肺いっぱいに空気を吸い込み、叫んだ。

 

「ユリウスーーーーーーッッ!!」

 

 この場でこの怪物への一撃必殺技を持つ、兄の名を。

 

 ついに槍から手が離れ、ルドガーは砂浜に投げ出された。

 そのルドガーを追い抜いて骸殻のユリウスが双刀を持って海瀑幻魔に迫るのが見えて、ルドガーはほっとした。

 

「祓砕斬――――十臥!!」

 

 最初の数撃からの、十字の斬り込み。

 海瀑幻魔を切り裂いた刀の片方には、時歪の因子(タイムファクター)が刺さっていた。

 

「ルドガー!」

 

 ユリウスが刀を振って、歯車の外装の剥げた“カナンの道標”を投げた。

 ルドガーは倒れたまま“道標”を器用にキャッチした。

 

 一つの世界が割れ、崩れ落ちて行った。

 

 

 

 

 

「馬鹿か、お前は! 自分からやられに行く奴があるか!」

 

 正史世界のキジル海瀑に戻るなり、ルドガーはユリウスに怒鳴られた。

 

 ぽかんとした。こんなに本気で怒られたのはいつ以来か。引き取られた頃以来だから、十数年ぶりだろうか。

 

「えーと……ごめん」

「『ごめん』ですむと思うな!」

 

 ユリウスはルドガーの両肩を掴んだ。怯えと不安に染まった蒼眸。初めて見る顔、初めて見る目。

 

「お前がいなくなったら……俺がどう思うかくらい考えろ……っ」

「――ごめん」

 

 本当にそれしか言葉が出て来なかった。

 

「でもすごいタイミングのよさだったわね。まるで幻魔がエルたちを襲うのを事前に知ってたみたい」

 

 心臓が大きく一つ跳ねた。

 

「そういえばユリウスとの話を中断してまで行ったわね。まさか……」

「ない! ないから。俺にそういう特別な力とか! ただの偶然だよ、偶然!」

 

 エル以外の全員が胡乱な目をルドガーに注ぐ。視線の暴力だ。

 

 それを一番にやめたのはユリウスで、彼はコートのポケットから“カナンの道標”を出してルドガーに握らせた。

 

「これって」

「大切なら守り抜け。何に替えても」

 

 ルドガーがとっさにエルを見たのと同時に、ユリウスは立ち上がった。

 

「どこ行くんだよ」

「指名手配中の人間が教えると思うか?」

 

 皮肉げな笑みを残し、ユリウスは海瀑を去った。

 

 

 

 

「いいの、ルドガー? あのリドウとかいうのにネチネチ言われるわよ」

「言い訳くらい用意してる。――帰ろう、みんな」

 

 全員が立ち上がり、歩き出す。

 最後になったルドガーは、こっそり斜め上を向いた。

 

(ごめん。でも、ありがとな、『(ドリーム)』。おかげでエルを守れた)

 

 「(ドリーム)」は応えず、ルドガーの視界から姿を消した。




 あらかじめ起きることを知っていても難しいものは難しい。
 ルドガーはエルを助けるために予知夢を利用しました。自分の犠牲覚悟で。

 CLAMP作品は「夢」が重要ファクターですので、今後もばんばん出てくると思います。

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