CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

80 / 180
「移」ろいの書 2

 ツバサはトリグラフの図書館に入るなり、開架図書の棚を手前から順繰りに一冊ずつ辿り始めた。

 

「『クルスニク年代記』、『クルスニク年代記』……」

「エレンピオス語が読めるのか」

「ちょこっとだけ勉強しました。まだ全然ですけど」

 

 するとガイアスが踵を返した。

 

「反対側から探す。『クルスニク年代記』でよかったな?」

「はいっ。あ、ありがとうございます」

 

 ガイアスがツバサから一番遠い書架に入って見えなくなった。

 

(アーストさんが手伝ってくれるんだ。わたしもがんばらなきゃ!)

 

 

 1列目を、目を皿にして検めて、2列目の書架に移った。

 その書架を4分の1ほど検めたところで、ツバサはお目当ての本を探し当てた。

 

(あった! 『クルスニク年代記』)

 

 ツバサが手を取ろうとしたところで、本に――ピンク色の羽根が生えた。

 

「ほえ?」

 

 本に生えた羽根はパタパタと羽ばたき、本ごと姿を消した。

 

「ほえええ!?」

 

(何今の! 本、どこ行っちゃったの!? てかあの羽根……羽、根……)

 

 ツバサは目を閉じ、精神を研ぎ澄ました。

 

(さくらカードの気配?)

 

「どうした」

「ひゃ!?」

 

 飛びのいた。さくらカードの気配を追うのに集中していたせいで、ガイアスの接近に全く気付かなかった。

 

「す、すみませんっ。えと、本、本は見つけたんですけど、カードの気配がして、本に羽根が生えてっ」

「……落ち着いて順を追って説明しろ。言いにくいならここを出る」

「ごめんなさい……」

 

 ツバサはガイアスに連れられて図書館を出た。

 すると図ったようにミュゼが舞い下りた。

 

「調べ物はもう終わり?」

「一時中断だ。――ツバサ、何があった」

 

 ツバサは目当ての本を見つけたが、本に羽根が生えて目の前から消えたこと、その時にさくらカードの気配がしたことを、つっかえつっかえ説明した。

 

「多分、『(ムーブ)』のカードです。物をあっちこっちに移動させるさくらカードです。あんまり大した距離は移動できないし、大きな物や生き物は運べません。ただ、すばしっこくて。お母様は次の出現ポイントの気配を読んで封印したそうなんですけど、わたしに同じことができるかは……あ!」

 

 図書館の芝生の上に、一冊の本。

 ツバサは慌てて駆け寄って本を掴もうとしたが、寸前で本にピンク色の羽根が生えて、本はその場から消えた。ツバサはスライディングして顔面を擦った。

 

 次に本が移動したのは、図書館出入口のアーチの上だった。

 これはミュゼが飛んで本を取ろうとしたが、再び寸前で本は消えた。

 別の屋根に移った本をミュゼが追った時も同様に逃げられた。

 

「本当にすばしっこいのね」

 

 常と変わらないミュゼの口調に、ツバサは何故か背筋が粟立った。

 

 次に本が現れたのは街路樹の上だった。

 ツバサは急いで駆け寄り、街路樹の添え木に登って枝の上の本を取ろうとしたが、これまた逃げられた。しかもすぐ足下に。

 飛び降りて手を伸ばしたが、手が本を掴むことはなかった。

 

 次はどこに。ミュゼと揃って辺りを油断なく見回していた時だった。

 

 ガイアスが動いた。何もないはずの道へと歩いて行き。

 

 

 ばしっ

 

 

「「あっ」」

「こいつか」

 

 ガイアスの手には大サイズのハードカバー本。

 

(お母様がやったみたいに、次の出現地点を読んだんだ! アーストさん、すごすぎだよ!)

 

「手こずらせてくれちゃって。さあどう料理してあげようかしら」

 

 ふふふ、とミュゼが口元に手をやって優雅に、恐ろしく、笑った。

 本気で「(ムーブ)」を()()されたら大変だ。

 ツバサは急いでペンダントトップを外し、星の長杖を封印解除(レリーズ)した。

 

「汝のあるべき姿に戻れ! さくらカード!」

 

 本に生えていた羽根が魔力へとほどけ、杖の星モチーフの先端に桜色のカードの形を成していく。

 完全にさくらカードに戻った「(ムーブ)」を手に取り、ツバサは快哉を上げた。

 

「……『要するは五つの標と光の架け橋』」

「アーストさん?」

 

 ガイアスは無言で、開いたページをそのままツバサに差し出した。

 

「『旅路は隔世の器に阻まれ、越えること能わず。わずかに分かれた枝に希望をつなぐ』――分かれた枝って、分史世界のことでしょうか」

「隔世の器はきっと断界殻(シェル)のことね」

 

 横からミュゼが書を覗き込んだ。

 

「マクスウェル様がリーゼ・マクシアを閉ざされたから、まずリーゼ・マクシアと繋がった分史世界を探して“道標”を持ち帰らなきゃいけなかったってとこかしら」

「この光の架け橋って何のことでしょう? 他のは分かりやすいのに、どうしてこれだけこんなに抽象的な書き方なの……?」

「カナンの地に辿り着くまでの架け橋、か。どんなものか追って調べたほうがよさそうだ」

「はい。わたしもそう思います」

 

 ツバサは書を閉じて胸に抱き、踵を返した。

 

「これ、図書館でちゃんと貸出手続きしてきます。勝手に持ち出したら犯罪になっちゃう」




 ツバサたちのほうがほんの少しだけ早く「橋」の真実に辿り着きそうなフラグが立ちました。

 ここで「移」の行く先を予見できるとしたらガイアスしかいないっしょう!

 ところで、さくらカードって分史世界にもあったほうがいいんでしょうか? それとも正史世界のみにあったほうがいいんでしょうか? ちょっと悩み中の作者です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。