CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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凍てついた「矢」

「見つけたぁ……」

 

 レディレイクを出て南西にあるガラハド遺跡の奥。コタローは長く息を吐いてその祭壇の前に座り込んだ。

 

 羅針盤の光の線は、まっすぐに、祭壇に置かれた弓――正確には、その弓を持つ少女に向かっている。

 

「探したよ、『(アロー)』。一緒に帰ろう?」

 

 コタローが「(アロー)」と呼びかけた少女はしかし、にやりと笑うと、祭壇の弓を取り上げて弦を引いた。弦にはいつの間にか矢が番えられている。――「(アロー)」は好戦的なカードだと教わった。

 

「傷つけたくなかったんだけどなあ」

 

 コタローはコートの内ポケットから2枚のカードと、丸いキーホルダーを出した。

 

「星の力を秘めし鈴よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、虎太郎が命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 紙垂(しで)が翻り、「星」と刻印された鈴がコタローの手に握られた。

 

 かつては「月の鈴」と呼ばれていたそれを、母の属性である「星」に造り変えた、虎太郎専用の魔法の杖だ。

 

「我に纏い我と共に戦え。『(パワー)』。『(ファイト)』」

 

 使い手のあらゆる力を増強するカードと、使い手を闘士へ変えるカードが、同時にコタローを包み込んだ。

 

 コタローにはかの女師匠直伝の拳法がある。だが、カードの攻撃力と防御力はその上を行く。

 剣も攻撃魔法も持たないコタローには、自ら戦うしかカードを鎮める手段がないのだ。

 

 「(アロー)」が矢を宙に放った。矢は宙で分裂し、雨あられとコタローに降り注ぐ。

 コタローは矢の軌道を読み、全ての矢を躱した。

 

 躱して、気づいた。床に突き刺さる矢が、尽く凍っていたのだ。

 

(氷の矢? 『(アロー)』が放つ矢はあくまで魔力で出来た物のはずじゃあ。ならこの矢は――あのでかい弓のせいか)

 

 看破したコタローは、慌てず構え直した。「(アロー)」もまた巨大な弓に矢を番えた。

 再び氷の矢が放たれ、分裂してコタローへ襲いかかる。

 コタローは、今度は矢を避けず、真正面から正拳突きで打ち砕いた。

 

 「(アロー)」が驚きを浮かべる。

 

 もしこれが魔力の矢ならコタローは避けるしかなかったが、物質の矢ならば、「(パワー)」と「(ファイト)」をまとったコタローには恐れるに足らない。拳に多少の傷は出来るが、それだけだ。

 

 少しずつ、じわじわと、氷の矢を拳で砕き、蹴り落としながら、「(アロー)」へと迫っていく。

 

「っ、汝の、あるべき……」

 

 あと3歩。徐々に氷の矢が体の端々を傷つけていく。

 

「……姿に戻れっ」

 

 あと2歩。「(パワー)」と「(ファイト)」を解除する。

 

「さくら――カードッッ!!」

 

 あと1歩。コタローは星の鈴を「(アロー)」に突き出した。

 

 弓を持つ少女の姿が魔力へと還元され、鈴の前にカードの形を象っていく。

 やがて1枚の桜色のカードになったそれは、コタローの手にふわりと収まった。

 

(母上。母上のトモダチ、また一人、取り戻せたよ)

 

 がらん。大きな音を立て、巨大な青い弓が床に落ちた。

 

(このまま放っとくのも寝覚め悪いし。戻しておくか)

 

 コタローが巨大な弓を拾い上げ、祭壇に上がった時だった。

 

「コタロー?」

 

 するはずのない声に、コタローは勢いよくふり返った。

 アリーシャと、導師スレイが入って来たところだった。

 

「アリー! 何でここに」

「コタローこそ! てっきりレディレイクにいるものとばかり……どうしたんだ!? 傷だらけじゃないか!」

 

 アリーシャは駆け寄り、胸に拳を当てて顔を歪めた。

 

「ちょっとカードとやり合っただけ。これがそのカード」

 

 コタローは「(アロー)」のカードをアリーシャに見せた。だが、アリーシャの顔は晴れない。

 

「とにかく傷の手当てをしないと」

「い、いいよ。このくらい」

「『このくらい』じゃないから言ってるんだ!」

「あのー、ちょっといいかな」

 

 スレイが恐る恐るというふうに手を挙げた。

 

「ライラが、オレが神依化すれば、コタローの怪我、一気に治せるって。オレに任せてもらっていい?」

「ライラ様が?」

「そこに天族がいるんですか」

 

 いるよ、と朗らかにスレイは応えるものの、コタローの視界にはアリーシャとスレイしかいない。いないモノに治療を任せるのは躊躇われた。

 

「いいですって、本当に。それに、そういう存在に一度頼ったら、後から対価が怖いですから」

「ライラは対価なんて求めないと思うけどなあ」

「すいません。おれのいたとこでは、それが常識なんです」

 

 恩恵には、相応の対価を。貰いすぎても与えすぎてもいけない。魔術師の鉄則だ。

 

「それより、アリーはここに何しに?」

「あ、ああ。実は――」

 

 アリーシャの説明に納得する。地の主。器。祀り人。この世界はこの世界で、ややこしいシステムがあるらしい。

 

「導師さん。おれも一緒に行っていいですか?」

「いいけど、どうして?」

「アリーがいるから。アリーの手伝いしたいんです」

 

 スレイはアリーシャを顧みる。

 

「って言ってるけど。アリーシャはそれでいい?」

「……無茶してこれ以上、怪我を増やさないって約束してくれるなら」

 

 約束はできない。アリーシャが危険な目に遭えば、おそらく自分は我が身を盾に彼女を庇う。なので。

 

「善処します」

 

 日本での「いいえ」の定型句を、真剣に自分を見上げるアリーシャへの返答とした。




 水の神器の弓+「矢」=氷の矢
 ……安直だと責めてくださって結構です。作者の頭ではこれが精一杯でした。

 これのために久々にCCさくら劇場版を観ました。
 さくら可愛い=可愛いは正義=さくらちゃんマジ正義
 これについては譲りません。

 追記。
 「矢」を「弓」と間違えていました。修正しました。

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