CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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人と人の「錠」を開くカギ

 トリグラフ中央駅で待っていてくれたのは、ローエン一人だった。

 

「アーストさんはいないんですか?」

「緊急の案件で一時帰国されたんです。来られないことを残念がっておられましたよ」

「そう、ですか」

 

 自分も残念だ。どうしてだろう。ツバサは本気で分からなかった。

 

 

 

 

 ヘリオボーグ研究所は、エレンピオス国内最先端の黒匣(ジン)源霊匣(オリジン)の開発研究を行う施設だ。列車の中でローエンはツバサに軽く予習を行った。さらには黒匣(ジン)源霊匣(オリジン)の違いも教えた。

 

「エネルギー資源問題って、どこの世界でも共通だなあ」

 

 口では明るく、しかし車窓から曇り空を仰ぐ翡翠色の目は、寂しげな色に染まっていた。

 思い出しているのかもしれない――遠い故郷を。

 

 

 列車を降りてすぐ、ローエンとツバサはヘリオボーグ研究所に足を運んだ。

 

「ほえ~。おっき~」

「国内最大手ですからね」

 

 きょろきょろしながら付いてくるツバサ。

 

 ローエンは研究所に入ってすぐの受付で、修理業者のフリをして、ジュードらが閉じ込められているという資料室がどこかを聞き出した。

 

 受付嬢の説明と館内見取図を照らし合わせて歩いて行き、彼らはついにジュードらが閉じ込められているという資料室前まで辿り着いた。

 

「人、いっぱいですね」

 

 物見高い白衣の職員が半分、業者らしき作業着姿の人間が半分。資料室のドア前に密集している。

 

 ツバサは目を伏せ、あらぬ所を見るような様子になった。

 

「感じる――さくらカードの気配。あそこに確実にいる」

「では、人が散るのを待たねばなりませんね」

「はい。――『(スリープ)』のカードがあったら楽だったのになあ。あれはルミナシアに飛んじゃったからなあ」

 

 やがて職員がちらほらと帰って行った。残るは修理業者だけとなったので、ローエンは動いた。

 

 ローエンは業者に、自分たちは別の修理会社から呼ばれて来た者だと名乗った。

 業者は一様に安心していた。自分らでは開けられず途方に暮れていて、下手をすると責任問題になるところだったのだから、渡りに船と思ったのだろう。あっさり交替を受け入れて去って行った。

 

「ツバサさん」

「はいっ」

 

 ツバサはペンダントトップの星の飾りを外した。

 

「星の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、つばさが命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 赤い宝石を囲む星のモチーフから、ツバサの背丈より長い柄が伸び、長杖となってツバサの手に収まった。

 ツバサは太腿に巻いたカードホルダーから、一枚のカードを抜いた。

 

「ごめんね。ほんのちょっとだけ手伝って」

 

 「(ソード)」のカードを投げ、長杖を手の中で変幻自在に回す。

 

「木之本桜の創りしカードよ。我が杖に力を貸せ。カードに宿りし魔力を杖に移し、我に力を。『(ソード)』!」

 

 長杖が、ツバサにも持てる程度の長さの、両刃の剣に変化した。

 

「人様を困らせるイケナイ子には、ちょっときつめのオシオキだよっ」

 

 揮うは一閃、放たれたのは三斬。資料室のドアはサイコロステーキのように綺麗な切れ目をつけて崩れ落ちた。

 

 ドアの向こうには、それぞれに身を庇う男が一人、女が一人、少年が一人。

 

「ジュードさんっ。皆さん、ご無事ですか」

「は、はは、すごい助け方……うわ!?」

 

 室内から風が――魔力の波動が吹き荒れる。

 波動はやがて一点に集約し、羽根の生えた錠前の形となった。

 

 

 

 

「何これっ……すごい量のマナが……!」

 

 ツバサは「(ソード)」を解除し、ジュードらを抜き去って資料室に飛び込み、剣から星の長杖に戻ったそれを錠前に向けた。

 

「汝のあるべき姿に戻れ! さくらカード!」

 

 錠前は魔力となって溶け、長杖の先端に一枚のカードを象った。

 ツバサの手に舞い降りたそれには、錠前の絵が描かれたカード。ツバサはしばしそれを見下ろしてから、ジュードらに向き直った。

 

「ご迷惑をかけて、本当にごめんなさい」

 

 ツバサは大きく頭を下げた。頭上では困惑の気配。

 

「このカードがこういうことしたのも、4分の1はわたしのせいなんです。ごめんなさい。閉じ込めちゃって、怖い思いさせて、ごめんなさい」

 

 これに対し、困惑冷めやらずとも答えたのは、ジュードと呼ばれた少年だった。

 

「えと、これは君が望んでやったことじゃないんだよね」

「はい。今回のことは『(ロック)』の意思です。でも、元は封印されてて無害だったのに、封印を解いたのはわたしたちです」

「じゃあ、君が全面的に悪いことにはならないと、僕は思うんだけど。むしろ責任を感じて、その責任を果たそうとして遠くからわざわざエレンピオスに来た君は、えらいと思うよ」

「わたしが……えらい?」

「僕も僕なりに“責任”があるから、エレンピオスに渡った。分かるんだ、君の気持ち。少しだけどさ」

「……怒ってない、んですか?」

「かもしれないけど、一晩経ったら忘れちゃった」

 

 鼻の奥がツンと痛んだ。泣くな。ツバサは己に言い聞かせた。

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はジュード・マティス」

「ツバサです。ツバサ・キノモト。よろしくお願いします、ジュードさん」

「呼び捨てでいいよ」

「そ、それはさすがに……あ。じゃあ、ジュード『君』って呼んでもいい?」

「どうぞ」

「うん、よろしく、ジュード君」

「よろしく、ツバサ」

 

 ジュードは笑ってくれたので、ツバサも笑い返すことができた。




 違う国の相手、違う世界の相手。それでもジュードはツバサを受け入れてあっさり仲良くなってしまいました。この辺はジュードの人徳かな?

 ツバサの他人の呼び方は、原作さくらを意識して「ちゃん」「君」を多用したいと思います。

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