CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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そして彼は歩き出す

 コタローはロゼとジイジを気球型にした「(フロート)」に乗せて、アルトリウスの玉座を脱出し、イズチの村までどうにか避難しおおせた。

 

 最初、気球などというグリンウッドにはない利器で現れたコタローに、村人らが恐れる気配が読めた。

 だが、コタローがジイジを、視えないなりに努力して気球から下ろすと、それは歓迎の気配に変わった。

 

 それからコタローは、ロゼを背中に担ぎ、カムランを見下ろせる村の崖の突端まで足を運んだ。

 

 アルトリウスの玉座もカムランの村も、跡形もなくなっていた。

 

「空が……」

 

 青い。

 初めてグリンウッドに降り立った時も青空だったが、もっとくすんだ青だった。

 それが今はどうだ。これほどに鮮やかな青をコタローは知らない。

 

(世界ってこんなに綺麗だったんだ)

 

 マオテラスの神殿があったであろう位置を見下ろせば、狼煙のように細く長く天へと昇る、白い二つのらせん。

 

「あーあ。スレイだけじゃなくコタにまでおんぶされちゃった」

「あ、ロゼさん。気がつきました?」

「とっく。――デゼルがいたら妬いちゃったかな」

「そうですね、きっと」

 

 コタローはロゼを地面に下ろした。

 

 さくらカードを全て出した。さくらカードたちが宙に自ら浮かび上がり、躍る。この世界の清浄さを寿ぐように。

 

「ロゼさん、前にアリーに言いましたよね。姫だろうが国だろうが捨てて付いてけばよかったんだって。その結果がこれです。おれは、よかったって思います。救われない形かもしれませんけど、これでアリーとスレイさんは永遠に一緒です」

「それって皮肉?」

「どうでしょうね……」

「あんたさ。アリーシャが好きだったの?」

 

 藪から棒に聞かれてきょとんとした。

 

「友人としては大好きでしたよ。アリーはおれの初めての友達だったから。ロゼさんこそ、スレイさんのこと好きだったんじゃないんですか?」

「んー、わからん! 最後までバカな奴~とは思ってるけど」

「ならそれでいいんじゃないですか?」

「ん。そだね」

 

 ロゼの目尻に光ったものを、コタローは見ないフリをした。

 

「さってと。んじゃ行くか。問題はまだまだ山積みだよ」

「お供します。せめてハイランドとローランスの戦争が回避できるまで」

 

 コタローは胸に拳を当て、目を閉じる。

 

(そういうわけだから。ごめん。まだ帰れないみたいだよ、お母さん)

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 瞼を開ければ、水面に立っている自分と、少し離れた正面に立つ母の姿。

 別れた日から何一つ変わらない、懐かしい、母の面差し。

 

 

 “それは虎太郎が心からやりたいことなのね?”

 

 

「やりたいっていうか、やらなきゃ、って感じ? イヤイヤやるんじゃないけど! でも、アリーが『アリーシャ』としてできなかったこと、他の誰かに投げたくない、おれがやってあげたいって感じたんだ」

 

 すると、コタローが主となったさくらカードたちが、ふわふわとコタローの周りを舞い踊った。

 

「みんな……」

 

 

 “……そう。わかった。がんばりなさい。でも、一つだけ”

 

 

「え?」

 

 

 “辛かったら、いつでも帰ってきていいのよ”

 

 

「――っうん! おれ、がんばるから! だから……!」

 

 

 “いってらっしゃい”

 

 

「いってきます。お母さん」

 

 …

 

 ……

 

 …………

 

「……ロー、コタローってば!」

「うあ! はい!」

 

 目を開けると、両手を脇に立てて仁王立ちするロゼが目の前にいた。

 

「立ったまま寝るなっつーの。もたもたしてると置いてっちゃうわよ」

「すみません。今行きます」

 

 歩き出すロゼに続こうとしたコタローは、一度だけふり返った。

 

 

(おやすみ。アリー。スレイさん)

 

 

 

                                    ~Fin~




 自分の中で一編をこの日数で書いたのは最短記録です。

 というわけで、「CCさくら×テイルズ」の第一弾を幕引きとさせていただきます。お読みになってくださった皆様、本当にありがとうございました。

 次も読んでくださるという方には、予告です。
 次はさくらと小狼の長女編で、TOX2をやります。

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