CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
目を見開いたスレイの上から、まるで天使のように、ふわりとアリーシャは降りてきた。
スレイは慌てて腕を広げ、アリーシャを抱き止めた。
「アリーシャ、何で」
「私は追いかけると言った。君はいいと言ってくれた。這いずってでも付いて行く。その先がどこへ繋がっていても」
「アリーシャ……っ」
――独りで終わるのだと思っていた。仲間を皆、犠牲にし、夢より友情より世界を選んだ自分には、そんな死に様しか許されていないのだと。
なのに、彼女は来てくれた。
「――マオクス=アメッカ」
「え?」
「笑って、アリーシャ。オレ、笑顔のアリーシャ、すっげー好き」
アリーシャは満面の笑みを浮かべた。
感極まったスレイは、腕の中のアリーシャをきつくきつく抱き締めた。アリーシャもまた、両腕を背に回して応えてくれた。
アリーシャをそっと床に下ろす。
目の前には、最初に相対した時よりは穢れの放出が減ったヘルダルフ。
「もはや語るまい」
アリーシャが槍を構えた。
「――星の力を秘めし槍よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、アリーシャが命じる。
槍が星のような煌きを放ち、元に戻った。
「コタローの真似。これで何が変わったかはわからないけど」
スレイは首を振り、アリーシャの槍を横から共に掴んだ。ふたりで一本の槍をヘルダルフに向けた。
「アリーシャ、合わせて」
「わかった」
セルゲイの教えを改めて頭に思い描く。闘気を撓めて、撃ち出す。
軸足を引き、固定する。闘気は槍の穂先に。
「我らの幕はその技か。よかろう!」
ヘルダルフもまた軸足を引き、左手に闘気を撓めて振り被った。
「獅子!」「獅子!」
「戦!」「戦!」
「吼!」「吼!」
槍から放たれた白い闘気と、ヘルダルフの左手から放たれた闇色の闘気がぶつかり合った。
莫大な闘気のぶつかり合いは、自身にも反射する。スレイのマントは焼けて破れ、アリーシャの鎧もまたひび割れて崩れ落ちていった。
闘気は相殺した。
「ぬぅ!?」
「――これが!」
「まさかっ……!」
スレイとアリーシャは共に槍を引き、再び穂先に闘気を撓めた。
「オレたちの全てだッ!!」
今度の白い闘気は、ヘルダルフの全てを砕き、後ろへと吹き飛ばした。
ヘルダルフは玉座に体を叩きつけ、動かなくなった。衝撃で、溢れるように最後の穢れが煙となって抜けて、吹き抜けた。
玉座にもたれているのは、人間だった頃の姿のヘルダルフだった。
息を切らしながら、互いに寄りかかる。
「導師の服……せっかくアリーシャから貰ったのに」
「いいんだ。導師じゃなかった時のスレイだね」
「アリーシャも。お姫様でも騎士でもないアリーシャだ」
ふたりはこんな状況なのについ笑い合った。
玉座の頭上に、巨大な竜が形を成していく。真白なる神聖の、竜。
「あれがマオテラス?」
「うん、きっと……」
ふらついたスレイに、慌てたようにアリーシャが肩を貸した。
(最後は一人でやるつもりだったのに。最後まで巻き込んじゃった……いいや、こう思うこと自体が失礼だな。アリーシャはどこまでもオレと来てくれるって言ったんだから)
「終わりにしよう」
「ああ」
ふたりで支え合いながら歩き出す。
「親を……仲間を奪われた復讐を……成し遂げたな」
一歩。また一歩。ヘルダルフへ近づいていく。
「……災厄の時代は終わらん……その刃をワシに突き立てた時、新たな災禍の顕主が生まれるのだ……」
アリーシャを見やる。彼女は微笑んで首を横に振った。
「やれ。その時、貴様らは理解するだろう」
ふたりで再び槍を持ち――刃を、ヘルダルフの左胸に、突き立てた。
「おやすみ、ヘルダルフ。永遠の孤独は、今、終わった」
するとヘルダルフは口の端の片方を吊り上げた。
「……気に入らん、な……最後まで抗おうと、いう、のか……」
――それが、災禍の顕主にして、どこにでもいる欲深い人間だった男の、最後の言葉となった。
「スレイ」
「うん」
ヘルダルフから最後の穢れが噴き出す。それを見て、スレイとアリーシャは目を瞠った。
穢れの中にあってなお輝く、赤、青、黄、緑の光球。
それらは祝福のようにふたりを囲んで回り、高く昇っていった。
スレイとアリーシャの体が招かれるように浮かび上がった。
彼らの目の前には、体を丸め、目を閉じているマオテラス。
「……二人で眠れば、眠りも半分になると思う?」
「ああ。絶対、だいじょうぶ――って。これもコタローの受け売りだけどね。無敵の呪文なんだって」
「無敵の呪文……」
そのことばは、胸をとても温かくして、スレイの目から涙を一つだけ溢れさせた。
スレイの手が、アリーシャの手が、マオテラスに同時に触れた。
白い神気がふたりを包み込み、体に流れ込んでくるのを感じた。
もう片方の手は、アリーシャと繋いで。
「「ありがとう」」
――そして、世界は白に染まる。
最期が一人じゃないって、こういう世界観ではすごく幸せなことだと思うんです。