CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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魔法は人をしあわせにするためにある

「オレがやる」

 

 スレイが覚悟を決めた顔で立ち上がった。

 コタローはとっさにスレイの前に立ちはだかった。

 

「だめ、です。子供が親を殺すなんてあっちゃいけない。こんな理由だったらこそ! ()()()()()もミクリオさんもやっちゃだめです!」

 

 スレイはいびつな笑顔を浮かべた。

 

「ごめん。これは、これだけは、オレがやらなきゃいけない。――ありがとな」

 

 噛みしめすぎて奥歯が砕けそうだ。

 

(おれだったらできない。きっとこんなことになったら、おれは父上も母上も殺せない。そんなものを、この人は今からやろうとしてる。何かないのか、何か、この人たちにこんな悲しいことをさせずにすむ力、は……)

 

 はっとし、コタローは手に持ったままだった「(スルー)」を見下ろした。

 

「アリー ――手伝って」

 

 アリーシャはスレイとコタローを見比べ、表情を引き締めて立ち上がった。

 

 コタローがさくらカードを見せると、アリーシャは肯いた。彼らは同時にヘルダルフへと駆けた。

 

「木之本桜の創りしカードよ。()()に力を貸せ。カードに宿りし魔力を()()()()に移し、我らに力を――『(スルー)』!!」

 

 コタローとアリーシャは、ヘルダルフの巨大な掌に手を、突っ込んだ。

 

 「(スルー)」は使い手の魔力量に応じて対象物を「すり抜ける」カードだ。この力でならヘルダルフの体内からジイジだけを引っ張り出せるかもしれない。

 問題は、それを行うには、コタローでは魔力が低すぎるという点。

 だからアリーシャを呼んだ。魔法を使いこなし、天族を感知できるほどの素質を秘めたアリーシャなら、あるいは。

 

 穢れそのもののような泥沼を二人分の腕が潜って行く。ジイジの感触を探す。ジイジを取り込んで間もない今しかできない。

 

「従士ごときの出る幕ではないわ!」

 

 ヘルダルフのもう片方の腕がコタローらを引き剥がそうと伸びる。

 その腕を、青い神依を纏ったスレイが大弓で受け止めていた。さらには両足も、いつのまにか矢で縫い止められていた。

 

「ぐっ…こ、の…させる、か…!」

 

 早く。早く。気ばかりが急く。

 

(! 見つけた!)

 

 ヘルダルフの中の泥沼に比べれば、本当に僅かな清らかな気配。

 見つけたのに、コタローの魔力ではこれ以上深くすり抜けられない。

 

「ア、リー…! こいつの、肘の、ほんの少し手前……引っ張って!」

「わかった!」

 

 アリーシャの腕がさらに深く、ヘルダルフの掌に沈む。そこでアリーシャも気づいたようだった。

 

「引き、抜く…! コタローも…!」

「わかってる…!」

 

 泥沼を掻いていた手、指先に、何かが触れた。コタローは感触を迷わず掴んだ。

 

「「やあああああっっ!!」」

 

 コタローとアリーシャの腕が一気に引き抜かれた。彼らは床に転がった。

 

「ゼンライ様っ!」

 

 アリーシャから上がった声が含んだ喜びで、コタローは自分らがジイジ救出に成功したのだと理解した。

 

 コタローはジイジを、感触だけを頼りに背中に担いで、ロゼがいる方向へ急いだ。

 アリーシャのほうは、置いてあった槍を持ち上げてスレイの加勢に入った。

 

「この一瞬に全てを懸ける! 翔破! 裂光閃!」

 

 叩き上げからの連続した突き。アリーシャが人生の半分以上を費やして習得した槍術は、災禍の顕主が開いてであろうが負けはしない。

 

 アリーシャの技にヘルダルフが怯んだ隙に、アリーシャ自身もスレイも離脱した。

 

「ジイジ! 大丈夫なのか!?」

 

 ふらりと倒れかけたコタローを、大きく厚い掌が受け止めた。この感触は恐らくザビーダだ。

 

「アリー、ごめん、無茶させて」

「私はいいんだ! よかった、ゼンライ様がご無事で、本当によかった……!」

「ああ、ありがとう、アリーシャ、コタロー! ミクリオも『ありがとう』って」

「礼ならこいつに言ってあげてください。カードの形をしてても、目も耳も心もある存在です」

 

 コタローは「(スルー)」のカードを差し出した。

 スレイが受け取り、カードに額を当てて「ありがとう」とくり返した。

 

 

「――貴様は何者だ」

 

 ヘルダルフの言葉はコタローを対象としていた。

 

「天族も人も持たぬその異能は何だ? その異能を操る貴様は何だ?」

「ただの、どこにでもいるガキだよ。魔法使いの、な」

 

 コタローはふたつきながら立ち上がった。

 

「今のは偶然でも導師の奇跡でもない。これが『魔法』だ。魔法使いのおれがこの場にいて、ゼンライさんを救えるカードを持ってた。運命は、おれたちを選んだ」

 

 魔法使いの究極の魔法は「人を幸せにすること」。

 

 今、ジイジを救ったことがそれに当たるかはわからない。

 それでも、魔力のない自分が、魔法で他者を助けられた。それは木之本虎太郎の中で大きな意味を持って根を下ろした。




 夢中で書いてたらこんな量になってしまいました。怖いわー、怖いわー。

 実はですね、本当はここ、原作通りジイジ死亡の路線だったんですよ。「抜」のカードの実物見て思いつきました。
 はい、持ってます。クロウカード。しかも昔のバージョン。解説付き。クロウカード占い本も持ってたりします。

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