CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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愚劣な人質

「行きます。――『(ミスト)』」

 

 玉座の間に霧が漂い始める。

 

「目隠しのつもりか。――フン!」

 

 闇色の波動がコタローに向けて直線状に放たれた。余波で射線上の霧が吹き飛ぶ。

 

「『(ミラー)』」

 

 コタローの正面に円鏡が展開され、波動を弾き返した。

 自らに返った波動をヘルダルフは易々と避けてみせた。

 

 その後も闇の波動が出されるたび、コタローは「(ミラー)」で反射し続けた。

 

(もう少し)

 

 思った瞬間、ヘルダルフの足元が砕け、両足が壊れた床に縫い止められた。

 

「何をした」

「この霧は腐食効果があってね。徐々にこの部屋の足元を腐らせてたんだよ。おれたちならともかく、あんたみたいな巨体、すぐ沈んじまうだろうな。――ザビーダさん!」

 

 呼んで間もなく、風が玉座の間に吹き、霧を全て吹き飛ばした。

 

 後ろではすでに、スレイがライラと、ロゼがエドナと、アリーシャがミクリオと、それぞれ神依化している。そして、秘奥義のタメも終わっている。

 

 コタローは射線の外へ飛びのいた。

 

「フランブレイブ!!」

「アーステッパー!!」

「アクアリムス!!」

 

 3人分の神依による秘奥義が、左から、中央から、右から、ヘルダルフに炸裂した。

 

 スレイが技のソニックブームを利用して再び舞い上がる。

 その間にアリーシャとロゼは大きく下がった。

 

「ヘルダルフ! これで、終わりだ!」

 

 スレイが炎の聖剣を振り下ろしながら落下する。

 

 ガ…ィィィィン…!

 

 聖剣はヘルダルフを掠ることさえなく、床に刃を叩きつけた。

 

「「スレイ!?」」

「親だけは捨てられぬか。いくら成長しようと、それが貴様の限界よ」

 

 愕然と、した。

 ヘルダルフの手の平には、苦悶一色の老人の顔が埋め込まれていたのだ。

 

「ジイジ……」

「まさか、ゼンライ、さん?」

 

 イズチの村で、本当に少ない数だけ見かけることがあった、スレイとミクリオの育て親。

 囚われているのだろうと楽観していた。

 囚われては、いた。二度と解放を望めない形で。

 

「黒にならぬと言ったな。今お前に湧き出ている感情はどうだ?」

 

 神依を解いたアリーシャが駆け出した。

 

 ヘルダルフがジイジの埋め込まれた手の平をスレイに向ける。その掌から雷撃が生じた。

 スレイも、庇いに走ったアリーシャも間に合わない。

 

 コタローはさくらカードの一枚を投げた。

 

「二人を逃がせ! 『(スルー)』!」

 

 アリーシャとスレイの体が半透明になった直後に、雷撃が落ちた。二人にダメージはない。――間に合った。

 「(スルー)」の効果を切ると、二人ともちゃんと実体を取り戻した。

 

 走って行って、アリーシャとスレイを背に庇って、星の鈴を握り締めた。

 

「コタロー! 何か、ジイジを救えるカードは! 何かないのか!」

「さあ。救ってやるがよい」

「貴様……!」

 

 アリーシャが涙目でヘルダルフを睨んだ。その間にもジイジの苦悶の声は止まらない。

 

 そこで耐えかねたかのようにロゼがナイフを両手に駆け出した。しかし、何者かに阻まれたように立ち止まった。

 

「わかってとは言わない。あたしを憎んでもいい。今だけは、あたしにやらせて」

「――家族だけは喪いたくない。大した覚悟だ」

「ふざけんな! おじいちゃんもミューズって人も、本当だったら死ぬ必要なんてない……全部あんたのせいでしょ!?」

 

 ロゼが涙を散らしてヘルダルフへと叫ぶ。

 

 スレイは決意した顔で立ち上がった。

 

「オレがやる」


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