CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

57 / 180
災厄の始まりの門

 ローグリンからアロダイトの森まで戻り、スレイとミクリオは愕然とした。

 

「ジイジの加護を感じない……」

「この森とイズチの村はジイジを主として加護領域に入ってる。そのはずなのに、この穢れは何なんだ!」

 

 直後、死角から憑魔ウルフが数匹飛び出した。

 

 誰より速く迎撃したのはコタローだった。

 先頭のウルフの鼻面を蹴り、続いたウルフの腹に二匹連続で拳を叩き入れた。

 

「ライラさん。浄化、お願いします」

「は、はい」

 

 ライラが出て燃える紙葉を地面に伏したウルフらに投げた。それで憑魔は浄化され、消えた。

 

「コタロー……まさか視えて」

「ません。あいつらは敵意があったんですぐわかりました。ライラさんも視えてるわけじゃありませんけど、そこにいるんだろうと思って。急ぎましょう」

 

 

 

 

 イズチの村の凄惨な有り様に、最も衝撃を受けたのはアリーシャだっただろう。

 点々と倒れる兵士はハイランド軍の鎧を身に着けていた。

 

 エドナによると、兵士らは憑魔になり、正気を失って味方同士で殺し合ったのだと、スレイが通訳してくれた。

 

 アリーシャは一人の兵士の前で膝を突き、痛ましげに骸を見つめていたが、すぐ立ち上がった。

 

「ハイランドでこんな愚かを犯す者を私は一人しか知らない。そいつは放っておけばもっと多くの命を犠牲にする。カムランへ急ごう」

 

 途上で、結界が張られた大きな家に隠れていたイズチの民の無事も確かめた(といってもコタローにはスレイらのパントマイムにしか見えなかったが)。

 

 人間を止めに行ったジイジを探すという目的も加わり、さらに急いでカムランに向かおうとしたコタローの前で、アリーシャらが止まった。

 

「どうしたの」

「天族がいるんだが……あれは」

「サイモン。ヘルダルフの配下だよ。アリーシャ、コタ、油断しないで。あいつは幻術使いだ」

 

 幻術、と聞いてコタローの手はとっさに、さくらカードに伸びた。幻術なら魔法で対抗できるかもしれないと思ったのだ。

 

「お前らが何を企もうと関係ない。オレの答えは決まってる。ジイジはどこだ、サイモン!」

 

 間を置いた。

 

 スレイの肩から緊張が取れた。

 

「ジイジはカムランへ続く門を守りに行ったって。オレたちも行こう」

「ああ」

「おっけー」

「はい」

 

 カムランへの門は、イズチの東に位置するマビノギオ山岳の遺跡にあるという。スレイとミクリオが幼い頃に入ってジイジからしこたま怒られたから、そこしか考えられないとの推理だった。

 

 遺跡に入って少し進むなり、コタローは足を止めたくなった。

 ひどい血の臭いがしたのだ。

 

 案の定、村で見たのより多くのハイランド兵の死体が、床を覆い尽くすほどに転がっていた。

 

 その中でアリーシャが兵士の骸を避けながら、中心に倒れた男の前まで進んだ。

 

「バルトロ……やはり。お前という男は最後まで……」

 

 アリーシャが悔しげに拳を握り締めた。

 

「自業自得だ。アリーが気に病むことは――」

 

 コタローが言い切る前に、アリーシャははっとしたように走った。

 その先には、母や師匠とはまた趣の異なる美しさを持った女性が倒れていた。

 

(おれにも視えるってことは、あの人、人間なんだ)

 

 コタローも遅ればせながら女性へと駆け寄った。

 

 近くに行ってやっと気づいた。瞳石の記録の中、カムランの悲劇の中にいた女性だ。名は確か、ミューズと言ったか。

 

 ミューズの上半身が支えられるように浮き、次に治癒の力の波動を感じた。

 ミューズが重たげに瞼を開いた。紫水晶の色の目をしていた。

 

「この穢れの気配……ですが、まだ……私の命を使えば」

「何をおっしゃるんです! 命は使うものではなく生かすものです。簡単に放り出してはいけません!」

 

 アリーシャの言葉に、しかし、ミューズは首を振った。

 

「私はどうしても、希望を繋ぎたいのです……この命に代えても! いつか、ゼンライ様が育んだ子らが、導師と、それを助ける者、と、なって、」

 

 徐々に呂律が怪しくなってきている。すでに彼女に残された時間は、もう――

 

「人と天族の、未来を、希望へと……導いてくれると信じている、から」

 

 ミューズは杖を渡すよう請うた。杖を拾っていたスレイは躊躇したが、横を見て、肯いて、ミューズに手渡した。

 

「――ありがとう――」

 

 ミューズはふらつきながらも立ち上がり、杖を掲げた。清らかな波が遺跡全体に広がったのがわかった。

 

 ミューズは蒼い光となって体ごと、消えた。

 

 アリーシャらが誰もいない空間に歩み寄ったので、コタローも一歩後ろから続いた。

 

「ミクリオ様。あれでよろしかったのですか」

 

 拾った者がいるかのように、ミューズの杖が浮かび上がった。その場所にロゼが叩くように手を置いた。視えないコタローからすれば精巧なパントマイムだ。

 

「気合入れて行こ!」

 

 聴こえはしなかったが、きっとミクリオも肯き返しただろう。

 

 走り出したスレイとロゼに続き、コタローもアリーシャと共に走った。




 視えないコタロー視点だと感動減ですかね、やっぱり。
 アリーシャが視えるようになったので、これで分からないのはコタロー一人となったわけですから。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。