CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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“従士”と“魔法使い”

 コタローはスレイの家で傷の手当てをされながら質問攻めだった。

 

 まず、ユエの存在。次に、何故ユエと戦っていたか。この対決にはどんな意味があったのか。等々。

 

「カードを全て集め終わった者には、最後に『審判』が課されるんです。本当はグリンウッドの誰かを『審判者』として父上と母上が選出してたんですけど、おれが嫌だって、ユエさんにしてくれって頼み込んだんです」

「頼み込んだって、いつのまに?」

 

 ミクリオが首を傾げた(スレイが手当てのためにあちこち触っているので、断片的にだがコタローは天族を認識できていた)。

 夢の中で、と答えるとさらにややこしくなるので、コタローは苦笑でごまかした。

 

「ユエさんはさくらカードを守護して、母上に仕える存在です。もっとも母上は、『仕えるとかじゃなく、なかよしなだけ』って言って譲りませんけどね」

「あれだけの力の持ち主と『なかよし』ねえ」

「そういう人なんです。――『審判』のルールはシンプルです。カードを使ってユエさんと戦って、勝つ。誰の手も借りずに」

「だからあたしらに来るなと」

「すいません。あの時はおれにも説明する余裕がなかったんです」

 

 手当てが終わった。

 スレイも心得たもので、コタローの肩に手を置いて目を閉じた。これではっきりとコタローにもミクリオらが視えるし、声も聴こえた。

 

「あなた、『(ミスト)』を封印した時、言ったわね。『好きなことを忘れる』って。あれは何のことだったの?」

「……言わなきゃいけませんか」

「言いなさい」

 

 苦い笑みが浮かぶのを止められないまま、コタローは語った。

 

「まあ終わった後だし、いいか。――おれが負けてカードの主になれなかった場合、カードとユエさんたち守護者のために、一つの魔法がかかっていたんです。『一番好きな人を好きだという気持ちを忘れる』魔法が」

「気持ちを……忘れる?」

「カードたちは封印した人間を一番に想います。でも封印者が主になれなかったら、大好きな封印者と離れ離れ。だから、カードたちが苦しまないように、封印者への気持ちを忘れる魔法を、カードを創った人がかけたんです」

「じゃああそこでコタがユエに負けてたら、ワタシたち全員、好きじゃなくなってたのね。『一番好きな人』を」

「……はい。おれ自身も、カードに関わった者全てが」

 

 コタローは深々と頭を下げた。

 

「カードは全て集まって、主として認められた。おれがグリンウッドでやるべきことはこれで終わりました。皆さんの協力もあってこそです。本当にありがとうございました」

 

 すると、コタローの手にアリーシャの手が重ねられた。

 

「お疲れ様。君こそ私たちのために傷ついてまで頑張ってくれて、ありがとう」

 

 コタローはふと思いつき、ポケットから3枚のさくらカードを出してアリーシャに差し出した。

 「(スノウ)」、「(ショット)」、「(ミラー)」。

 

「おれが故郷に帰るまで、預かってて」

「いいのか?」

「元々そいつらはアリーのだし。特に『(ミラー)』はアリーを持ち主に選んでる」

「――ありがとう」

 

 アリーシャは微笑んで3枚のカードを受け取ってくれた。

 

「ロゼさん流に言うなら、おれの仕事は終わりました。これからは自由行動ですが――」

 

 コタローはアリーシャを見、それからロゼを向いた。

 

「おれはアリーがハイランドに帰るのには反対です」

「どうして?」

「導師さん」

 

 横にいるスレイに声をかけると、スレイは目を開けた。

 

「もしローランス帝国がアリーを捕まえて、アリーの身柄と引き換えにローランスの戦力として戦争に行けって言われたら、どうします?」

 

 スレイは少しだけ悩むそぶりを見せたが、

 

「行く」

 

 きっぱり答えた。

 

「こういうことです。前哨戦で、導師を操るにはアリーが有効だって、ハイランドには知られてるんです。ローランスやそれ以外の国がそれを知ったら、アリーはこれからどこからも狙われることになります。導師の力を手に入れるために」

「どこの国もアリーシャを人質に取ろうとするわけか――」

 

 ミクリオが納得したように呟いた。

 

「それを避ける意味でも、アリーは導師さんと行動を共にしたほうがいいと思うんです。――おれはアリーに、自分のせいで導師さんが道具にされてるなんて苦しい思い、させたくない」

「わかった」

 

 スレイが立ち上がった。

 

「ライラ。今度こそアリーシャと従士契約しても大丈夫だよね?」

 

 ライラは笑顔で肯いた。

 

「今のアリーシャさんでしたら、何の問題もありません。スレイさんも、二人の従士を持っても反動がないほどには力をつけられましたし」

「け、けど、今なら私もライラ様方が視えますし、神依もできますから、あえて従士にならなくてもっ」

「だーめっ。ちゃんと形にしとかないと、アリーシャ、すぐいなくなっちゃいそうだもん」

「う゛」

 

 スレイはコタローに断って肩から手を外した。途端に視界からライラらが消えた。

 

 スレイとアリーシャの間に人一人分の間を空け、二人は片手を誰かに繋がれているかのように持ち上げた。

 

 間を置いた。

 

「――『マオクス・アメッカ』」

 

 力の波動がアリーシャを頭から足先まで潜った。

 

「本当によかったのに」

「オレがそうしたかったの」

 

 スレイはアリーシャの両手を取って笑った。

 

「コタローは?」

「おれですか」

「コタローは天族がわからないままだったよな。どうする? コタローも従士になる?」

 

 コタローは笑って首を横に振った。

 

「通訳が面倒でないなら、このままでいさせてください。おれは、魔法使いでいたいから」




 ①アリーシャが天族を視えるようになること
 ②視えない人の視点で書くこと
 作品の大テーマとしていたことをようやく書くことができた気がします。
 面倒をおかけしますが、コタローは視えない路線を貫きたいと思います。よろしくお願いします<(_ _)>

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