CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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最後の「審判」 2

 人のいないイズチの奥の遺跡にて、コタローは独り戦っていた。

 すでに服も生身も、ユエが放つ氷の散弾でズタズタに裂けた。血に濡れた布地が肌から破れる感触もまた痛みだった。

 

 するとユエが氷弾を消した。

 

「『(ファイト)』は本来、戦士を召喚して戦わせる護身のカードだ。何故わざわざ自ら纏う。それだけの傷を負ってまで何故自ら戦う」

「カードだけ痛くておれは平気って……なんかズルイじゃないですか」

 

 肩を落とし汗を多量に流しながらも、コタローは強く笑んでみせた。

 

(とはいえ、おれの手持ちはほとんどがユエさん配下のカード。使っても反射される。おまけに今夜は満月だ。下手なカードだと最悪、死ぬ)

 

 

 構えを解かずに思考を巡らせていると、背後から複数の足音がした。

 

「コタロー!」

 

 アリーシャの声に反射的にふり返りかけ、堪えた。今は正念場だ。

 

「天族? にしては、ミクリオとかと雰囲気違う気が」

「話は後! コタロー、ボロボロじゃん! 早く助けないと」

「来るな!!」

 

 人生で最大の怒号を発した。

 おそらく儀礼剣とナイフを抜こうとしたスレイとロゼを止めるため。

 

「これはおれしか戦っちゃいけないルールなんです。手を出さないでください」

「どういうことなんだ!? 説明してくれ!」

「悪いけどその暇も――ない!」

 

 再びユエから氷の散弾が放たれた。後ろにはアリーシャらがいる。避ければ彼女らに当たる。かといって体力的にもう迎撃は難しい。

 

「ッ――『(ミラー)』!」

 

 鏡の壁がコタローと後ろのアリーシャら全員をカバーする長さで現れ、氷の散弾の前に砕け散った。

 

 割れ散る鏡の破片を潜り抜け、コタローは「(パワー)」で強化した拳をユエの胸板めがけてくり出す。

 

 ユエはコタローが懐に入ったところで、手にソニックウェーブの刃を出現させてコタローを斬り払った。

 

 一歩。二歩。

 胸に斬撃を浅くだが食らって、コタローは下がった。

 下がったが、決して膝は屈しなかった。

 

「もう諦めろ。痛みを長引かせるだけだ」

「冗談。誰が諦めるか」

 

 答える間にも、胸の傷から血が地面に滴り落ちる。

 

「誰のためにそこまでする?」

「アリーのためと……おれ自身のために」

 

 ――元いた世界に「トモダチ」はいなかった。他愛ないおしゃべりも、家に遊びに行くことも、一緒に遊ぶことも知らない。

 何故産まれて来たのだろう? と、思う日が何度もあった。

 

 そんな自分が、この世界に来て、初めてトモダチだと思える相手に会えた。

 

 アリーシャはコタローを嗤わない。アリーシャはコタローの話を信じてくれる。それがどんなに嬉しかったか。

 

「アリーはおれの親友だ。おれはアリーを好きな気持ちを失くしたくない。他の人たちもそうだ。アリーが導師さんを、ロゼさんがデゼルさんを、エドナさんがお兄さんを好きだって気持ち、失くしてほしくない」

「そこまで想っていながら我を呼んだのか。この世界からさくらが選んだ『審判者』を拒んでまで」

「だって、母上の七光りで主になるなんて嫌だったから。ちゃんと認めてほしかったから。あなたに」

 

 もう何ラウンド目かは忘れたが、コタローが再び薄暗闇の中でユエに対して構えを取った時だった。

 

「――夜明けだ」

「え……?」

 

 ユエの指差す方向を見やれば、雲を照らして太陽が昇り始めていた。

 

「お前の魔力はさくらや他の子どもたちに比べて格段に低い。この身を異世界に留めておくにも、もう限界が来た。この一夜、お前は勝たなかったが、負けもしなかった」

 

 ユエがコタローの前まで歩いてきた。

 

「目を閉じろ」

 

 言われた通りにすると、

 

「審判終了。我、『審判者・(ユエ)』、虎太郎を新たな主と認む」

 

 ふわ、と体が宙に浮いたかと思うと、すぐに足裏が地面に着いた感触がした。

 

「あ……」

 

 さくらカードがひとりでにコタローの手に収まっていく。

 

 ユエに感謝を伝えようとしたが、顔を上げた時にはすでにユエはいなくなっていた。本人が言った通り、元の世界に還ったのだろう。

 だから、カードの束を胸に抱いて、心の中だけで唱えた。

 

(ありがとう、ユエさん)

 

 ふり返る。視界にはアリーシャとスレイとロゼ。天族の彼らもいるのだろうが、やはり視えない。

 

「ごめん。もう終わった。大丈夫だよ」

 

 すると、アリーシャが走ってきて、体当たり同然にコタローに抱きついた。

 これには予想外で、コタローは勢いのままアリーシャに押し倒されてしまった。

 

「ばかっ! コタローのばかばかばか! 私が辛い時はいっつも来てくれるくせに、自分が辛い時には一人で抱え込んで!」

「いやだって、さくらカードの問題を持ち込んだのは元々おれたちだし。それに『審判』は手助けを受けたら失格のルールだったし……なあ、アリー、泣かないで」

「やだ! 知らない、もう、コタローなんて大っきらい!」

 

 アリーシャの肩に触れようとしたコタローの手が、ぴきり、と止まった。

 

「キライ、か。そっか」

 

 いつものことだったではないか。特段寂しがる必要などないではないか。――そう、己に言い聞かせた。

 

「……うそ。大好き」

「え?」

 

 アリーシャはコタローの腹にうずめていた顔を上げ、涙混じりの笑顔を浮かべた。

 

 

「私の親友がコタローで、本当によかった」




 さくさく行こー。この後はついにヘルダルフ戦ですからね。

 果たしてアリーシャ(+コタ)は無事スレイの旅に同行できるのでしょうか!?

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