CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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最後の「審判」

 アリーシャを追ってスレイらがイズチを飛び出したのは夕刻前。森で迷った時間も合わせて、イズチに帰り着く頃にはすっかり空に夜色の帳が下りていた。

 

「おー、明るいー。そっか、今夜満月なんだ」

 

 ハットを被ったままでロゼが月を見上げた。

 

「しーっ。近所迷惑になるって。とにかくみんな一度オレんちに集合。――アリーシャもね」

「だが、私は」

「『だが』も『だって』も今はナシ」

 

 スレイは、道中離さなかったアリーシャの手を、ぐい、と引いて笑いかけた。

 

「無自覚なのが腹立つわね」

「こりゃ将来が楽しみだ」

「楽しみなもんか。ああなったスレイは何が何でも意見を曲げないんだぞ」

「青春ですわ~♡」

「てかこの空気無視できるあの二人のが一番すごいんじゃ……」

 

 

 スレイはアリーシャの手を離さないまま、自宅のドアを開けようとして、気づいた。

 ドアに二つ折りにした紙が挟まっていた。

 

「どうした、スレイ」

「手紙、かな。ジイジからだ」

「手紙? そんなものよこさなくても、僕たちに出向くように言えばいいのに。スレイ、何て書いてあるんだ?」

「えーと……『コタロー殿に伝言を頼む。「今宵、招かれたし」。伝えればわかる』。コタロー、心当たり」

 

 あるのか、と聞こうとして、スレイは息を呑まされた。

 コタローがアロダイトの森でも見せたような、虎のようなまなざしをしていたから。

 

「コタロー? どうしたんだ?」

 

 アリーシャが不安げに問うと、シャボン玉のようにぱちんと、コタローの表情がいつものものに戻った。

 

「聞いた通りだよ。今夜、おれの『客』が来る。迎えに来いってこと。そういうわけだから、ちょっと行ってきます。導師さん、アリーのことお願いします」

 

 踵を返したコタローが、ふと、何かに気づいたようにまたふり返った。

 

「アリー。さくらカード、貸して。3枚持ってたよね」

「あ、ああ」

 

 アリーシャはポケットから「(スノウ)」、「(ショット)」、「(ミラー)」のさくらカードを取り出し、コタローに渡した。コタローは3枚のさくらカードを、コートの内ポケットに入れた。

 

「ありがと。じゃあ、いってきます。朝までには戻るから」

 

 スレイは訝しんだ。

 

 客が来ると言ったのに、コタローは杜の門ではなく村の奥を目指して走って行った。

 

 

 

 

 

 散逸したカードを全て集め終わった時に始まるものが()()、父と母から何度も教えられた。

 というより、姉と妹がよくその話を寝物語にせがんだから、コタローも覚えたというほうが正しい。

 

 コタローはさくらカードを無造作に宙に放った。だが、カードは一枚も地面に落ちることなく、蛍火を灯してコタローの周りを漂った。

 

 星の鈴を封印解除(レリーズ)し、まっすぐ前に持ち上げる。

 

「木之本桜の創りしカードたちよ。汝らの主たることを望む者がここにいる」

 

 コタローの足元に、星をモチーフにした魔法陣が展開した。

 

「名を、虎太郎にして、李(シャオ)(フゥ)。我が真に汝らの主にふさわしいか。『審判者・(ユエ)』よ、現れ出でて、我に最後の『審判』を下せ」

 

 場に二つ目の魔法陣が刻まれ光が走る。

 その魔法陣から、コタローが招きし者は現れた。

 

 銀の長髪。猫のような瞳孔。全身を白く固めた礼装。背中から広がる白い翼。何より、初めて会った日から変わらない、ヒトを外れた美しさ。

 

「召喚に応じてくれてありがとうございます。ユエさん」

 

 (ユエ)。中国語で文字通り「月」を表す名。それが彼(彼女?)の名前だ。コタローも母に倣って「ユエさん」と呼んでいる。

 彼は「性格が悪い」とはケルベロスの言だが、ユエは認めた者には悪意を向けはしないし、危害も加えない。

 

「――さくらカードを全て集めたのか」

「はい。グリンウッド(この世界)の分は、ここにあるので全部です」

「最後の『審判』については――」

「知ってます。両親に聞いてますから」

 

 幼い頃は、母のがんばり物語として、無邪気に聞いていられた。

 ――だが、父母が語った冒険譚は決してフィクションなどではない。

 

「特に、あなたが母を認めた時のことは、よく。同じやり方が二度通用しないだろうこともわかってます」

「ならば説明は不要だな」

 

 コタローはすばやく周りを漂うカードから「(パワー)」と「(ファイト)」を掴み、自らに纏った。

 そして、足のバネを総動員し、ユエに向かって肉薄した。

 

 

 

 

 

 スレイがアリーシャらを家に入れて一番にしたことは、アリーシャに鎧と槍を返すことだった。

 

「ごめん。隠してて。見たらアリーシャ、嫌なこと思い出さないかって――あ! だからって、着替えたら即帰るなんてのはナシだからね」

「す、すぐには着替えない。人目、も、あるし」

 

 そういえばアリーシャはミクリオらが視えるようになったのだった。ミクリオはともかく、ザビーダの視線は要注意だ。

 

「ねえ、スレイ。あんた、どうしてそこまでアリーシャ姫に残ってほしいの?」

 

 ロゼの問いは核心を突いていた。

 

「そりゃ初めての人間の友達なんだから一緒にいたがるし大事にするのもわかるけどさ。あたしらがこれから何と戦うか忘れてない? マオテラスと繋がったヘルダルフだよ? そんな危険な場所に、か弱いお姫様突っ込ませて無事ですむと思ってんの?」

「そ、れは」

「アリーシャ姫も。帰るつもりなら今すぐにでも帰らないと、こいつ、いつまでも引きずるよ。何ならあたしがレディレイクまで護衛するからさ」

 

 ロゼの言葉に一つも言い返せないでいると、唐突に、ザビーダが立ち上がり、あらぬ方角を見つめた。

 

「ザビーダ?」

「風が荒れてやがる。こいつぁ闘気だ。村の奥で誰かがやり合ってやがる。片方は――コタローだ」

 

 二人目の「同じ人間」の友の名を聞き、スレイもまた反射的に立ち上がった。




 CCさくらから新キャラが参戦しました。ずばり、(ユエ)です。
 コタロー含む兄弟姉妹はさくらがどうやって(ユエ)に認められたかも知っています。なのでコタローは同じやり方はできないと知って、グリンウッドでの暮らしも影響して、肉弾戦を選びました。
 にしてもやっぱ(ユエ)って美人ですよね。

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