CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

52 / 180
「霧」中の君をようやく掬えた

 スレイの腕の中でアリーシャは身じろぎする。スレイの腕をすり抜けてまた別れようとしている。

 させじとスレイは腕の拘束力を強めた。

 

「やっと見つけた! 遅れてすまない。霧のせいで全然見えなく、て……」

「契約を辿って足で探すというのもなかなか新鮮ではありました、け、ど……」

 

 霧の向こうからミクリオとライラが、アリーシャを抱き締めるスレイを見て、メドゥーサに睨まれたかのように石化した。

 

「し、失礼いたしましたっ」

「取り込み中すまない!」

「二人とも! 取り込み中……ではあるけど、ちょっとこっち向いて! 大事な話だから」

 

 スレイはコタローを呼んで、アリーシャが逃げないように捕まえていることを頼んだ。

 コタローはさっくり了承し、アリーシャとがっしり腕を組んだ。

 

「騒がしいわね。すぐわかったわ」

「俺が風を読んで進路を決めた分も加算してほしいねえ。何だ。全員集合してんじゃないの」

 

 エドナとザビーダも霧を抜けて現れた。これで話せる。

 

「アリーシャが治った」

「本当か!?」

 

 一番にミクリオが食いついた。ミクリオは特にアリーシャを心配していたから当然の反応だ。

 

「そうなの? アリーシャ」

「……はい」

 

 待て、とスレイの頭で警鐘が鳴る。今の会話に違和感が――会話?

 

「アリーシャ……視えてる、の?」

 

 アリーシャ本人もはっとしたように口を覆った。

 

「どう、して。私、視えて、お声も、聴こえて」

「子供返りの時のまま五感が固定されちゃったみたいね」

「一度開いた目、開いた耳は、簡単には閉じないものです。色々ありましたが、今、アリーシャさんの才能は開花したのでしょう」

 

 アリーシャはスレイの後ろに集まる天族たちの前に歩み寄った。

 

「ミクリオ様」

「うん」

 

「ライラ様」

「はい」

 

「エドナ様」

「なあに」

 

「ザビーダ様」

「おうよ」

 

 アリーシャは感極まった顔を両手で覆った。

 

「どれだけ、どれだけこの日を夢に見たか……ああ、神様、ありがとうございます!」

「神様じゃない」

 

 コタローが即座に言い挟んだ。

 

「アリーが自分で掴み取ったものだよ。だから自分を褒めてあげて。おめでとう、そして――おかえり、アリー」

 

 アリーシャは泣き笑いで皆を見た。

 

「これで思い残すことなくハイランドに帰れます」

「だから、待ってってば! 今アリーシャが一人でハイランドに帰るなんて危なすぎる!」

「初めて君と会った時は一人でも帰れた。大丈夫だよ」

「あー、そういうことじゃなくて! 何てったらわかってくれるんだよ~」

「導師さん。せめてもう少し落ち着いて話せるとこへ帰りませんか? イズチとか」

「コタロー、ナイスアイディア!」

「それには『(ミスト)』を封印しないといけないんですが」

「霧の全部を一ヶ所に集めなきゃいけないんだっけ」

「そんじゃここはいっちょ風の天族の出番だね」

 

 自ら協力を買って出たのはザビーダだった。

 

「いいのか?」

「要するにこの霧まとめて一ヶ所に集めりゃいいんだろ? ザビーダにーさんにまっかせなさい」

 

 ザビーダはおもむろにハットを脱ぎ、ロゼの頭に被せた。

 

「風で飛んだらいけねえからよ。預かっといてくれや」

「……うん」

 

 ザビーダが両腕を上げて目を伏せた。風が生まれていく。アロダイトの森を聖なる緑風が吹き抜けていく。

 

 緑風はスレイらの頭上で霧を包むゆりかごとなった。

 

「ここまでやってくれれば充分過ぎます」

 

 コタローがアリーシャの腕を離したので、今度はスレイがアリーシャと手を繋いだ。

 

「星の力を秘めし鈴よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、虎太郎が命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 紙垂が何十条にも翻り、清冽な音色の鈴がコタローの手に収まった。

 

「汝のあるべき姿に戻れ! さくらカード!」

 

 風のゆりかごから、「(ミスト)」が魔力に分解され、星の鈴の上で桜色のカードの形となっていく。

 やがて完全に光が収まってから、カードはコタローの手に落ちた。

 

「これで全員揃った――」

 

 コタローは感慨深げに「(ミスト)」のカードを胸に抱いた。

 

 これでいつものアロダイトの森だ。

 スレイはミクリオを見、ミクリオも意に気づいたようで、二人は笑い合った。

 

「じゃ、行こう」

「待ってくれ。本当にその、私も、行くのか?」

「行くの。帰るかどうかはそん時に決める。それまではオレから離れないこと。いい?」

「わかったよ」

 

 スレイはアリーシャの手を引き、意気揚々と先頭を歩き始めた。

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

 エドナは聴こえないと知りつつ、声をかけた。

 いつもなら真っ先にアリーシャに付いて行くコタローが、「(ミスト)」のカードを見つめて動かなかったから。

 

「――好きなことを忘れる、か」

「忘れる?」

 

 コタローは「(ミスト)」をコートの内ポケットに納め、スレイらを追って歩いて行った。

 

 エドナは穴をあけんばかりにコタローの背中を見つめてから、自身も歩き出した。




 意外と早くアリーシャ元に戻りました。もうちょっと引っ張りたかったネタなんですがねえ。無念。

 そしてスレイのほうはアリーシャ手放さない行動に出るようになりました。
 スレアリ! スレアリ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。