CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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空白の3日間

 李家にはさくらカード――厳密にはさくらカードの元になったクロウカードを探すための「羅針盤」がある。

 これを持っていれば、カード探しは最速で終わると言っていい。

 

 異世界に旅立つに当たり、その一つしかない羅針盤を、きょうだいの誰が持つか。虎太郎も含めた4人の兄弟姉妹は話し合った。

 各人の魔力量、魔法の指向性、得意分野、苦手分野、性格。あらゆる要素を曝け出し合って。

 

 結果として、羅針盤は虎太郎が持つことになった。他のきょうだい曰く、

 

『虎太郎が一番危なっかしいから』

 

 自分はどれだけ信頼されていないのか。

 そんな保証をされてもちっとも嬉しくなくて、溜息と肩を同時に落とした虎太郎だった。

 

 

 

 

 

 コタローは聖堂を出てすぐさま駆けた。選んだ宿は、たまに自分も利用している、レディレイクの宿屋シャオルーン。

 

 カウンターに着くなり、3日間の滞在を申し込んだ。

 

 「導師」というのはグリンウッドでは偉い存在らしく、導師が泊まると告げると、宿屋の主人は部屋代を半金にしてくれた。

 

 

 聖堂に戻ると、アリーシャは出て行った時のまま、スレイに膝枕をしていた。

 マルトランが横にいるのはアリーシャの護衛だろう。

 

「コタロー」

「宿は取れたよ。導師さんはおれが運ぶけど、アリーも一緒に来る?」

「行っていいのか?」

「アリーがそうしたいなら」

 

 アリーシャの行動には制限が多い。誰かに定められたわけではなく、姫らしく、騎士らしくあろうとする彼女が、自分で自分を制しているのだ。

 

 今回も、スレイを見送った後は大人しく屋敷に帰るつもりだったに違いない。

 

 だから、コタローのほうから誘う。アリーシャがしたいであろう本音を汲み取って。子どもの頃からなぜかそういう先読みがコタローは得意だった。

 

「では私は先に城に帰るとしよう。大臣には私から事の次第を報告しておく」

「そんなっ。バルトロに呼ばれたのは私です。私が説明しないと」

「愛弟子の真摯な言葉に暴言で返されるのは私とて腹が立つんだよ。私の言葉ならバルトロも無碍にはできまい。聞き分けておくれ、アリーシャ」

「はい……ありがとうございます。師匠(せんせい)

「ありがとうございます。マルトランさん」

 

 アリーシャを慮って自ら矢面に立つつもりのマルトランに対し、コタローも感謝の念に堪えなかった。

 

「なに。では、異国の魔術師殿、アリーシャを頼んだぞ」

「はい」

 

 マルトランが聖堂を出て行った。

 

 コタローは眠るスレイの両腕を自身の両肩に回し、スレイをおぶさった。そこそこ重いが、宿屋までなら運べそうだ。

 

「大丈夫?」

「これでも拳法の師匠にしこたま鍛えられたからね。だいじょーぶだいじょーぶ」

 

 

 スレイを背負ったコタローは、アリーシャの勧めで聖堂の裏側から出た。

 倒れた導師を民衆に見せて人心を不安にするのはよくないとのアリーシャの優しさだ。

 

 裏路地を通り、聖堂で導師誕生を目撃した民衆からかなり離れたと思しき場所で、コタローたちは表通りに出て、宿屋シャオルーンに向かった。

 

 

 宿屋に入るなり、宿の主人が大声を上げた。

 

「おお! そいつが噂の導師様かい」

 

 フロントにいた客たちの視線が一気にコタローに――コタローが背負うスレイに集まった。

 

「誰かと思えば騎士姫もご一緒とは。お前さんも隅に置けねえなあ」

「ご主人。部屋の鍵、下さい」

 

 この手のからかい方が、コタローは大嫌いだ。

 

 宿の主人が差し出した部屋の鍵を、両手が塞がったコタローに代わってアリーシャが受け取った。アリーシャは律儀に宿の主人に礼を言った。

 

 花が綻ぶような笑顔。

 いいな、と留意なく思った。

 

 

 客室に入ってからベッドまで行き、コタローは慎重にスレイをベッドに下ろした。

 ちゃんと全身がベッドに寝るよう四苦八苦し、どうにか布団をかけた。

 

「スレイ、大丈夫だろうか……」

 

 アリーシャがベッドに座り、汗で額に張り付いたスレイの栗毛を指でどかした。――知っている。これは愛しい者に触れる時のしぐさだ。よく母が父にしていた光景を思い出した。あるいは、一番上の姉が、自分たち弟と妹にしていたこともあった。

 

「アリー、さっきはごめん」

「? 何が」

「おれがいたから、からかわれた」

「ああ。そんなこと。大臣や他の政務官に比べれば可愛いものだ。コタローは? 私と一緒にいたからあんな……嫌じゃ、なかった?」

「おれは、慣れてるから」

「慣れて?」

「うーん。おれもね、アリーと同じなんだ。ここでは霊応力って言ったっけ、それがさ、おれにはほぼなかった。だから、親戚の集まりとかで陰口言われたり、優秀な兄さんと比較されたりした」

「そう……だったの」

 

 コタローはアリーシャの真正面でしゃがんで、アリーシャを見上げた。

 

「おれはアリーの味方だよ。アリーが何をどうしても。おれにとって、アリーは、初めての友達だから」

 

 アリーシャは強い戸惑いを浮かべていたが、やがて探るようにコタローを見返し、信じるに値すると思ってくれたようで。

 

「私、コタローが友達で、よかった」

 

 花咲くような笑顔。

 それはコタローにとって人生で初めて出来た宝物だった。




 注意が遅れて申し訳ありませんが、本作はスレアリです。無自覚両想いってやつです。

 実はここ、ミクリオもライラもいるのですが、アリーシャとコタローには霊応力(コタローの場合は魔力)がないので視えません。完璧、二人の世界です。

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