CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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心は深い闇の底

 イズチの杜。爽やかな風吹く里に、快活な笑い声が響き渡る。

 

「すれい! すれい、こっち!」

「アリーシャ、走るとコケるって……あっ!」

「きゃっ」

 

 イズチに暮らしていた時の格好のスレイは、慌てて走って行って、芝まみれになったアリーシャの腕を掴んだ。

 だが当のアリーシャは全く気にしたふうもなく、満面の笑顔でスレイを見上げた。

 笑顔のアリーシャが目の前にいるのに、スレイの心は躍るどころか、胸が痛くなった。

 

「あはははっ。ふふふっ」

 

 くるくるデタラメなステップを踏んで回るアリーシャは、鎧を着けていない。おかげで転んでも大した傷にならずにすんだが。

 

 

 

 ――マルトランの自決に利用されたあの日。アリーシャの心は巻き戻った。

 今のアリーシャは、体は少女でも、精神は幼女そのものだ。

 

 ライラによると、

 

「辛いことが重なりすぎて、それらの辛さから心を守るために精神状態を過去に戻すことは、ありえないことではありません。アリーシャさんは普段からよくない扱いを受けていたようですし、マルトランさんのことでその箍が外れてしまったのでしょう」

 

 とのことだった。

 

 それを聞き、澄んだ瞳で自分を見上げるアリーシャを見て、スレイは堪らずアリーシャを抱き締めた。

 

「そんなに、辛かったんだね。悲しかったんだね。ごめん。ごめんね、アリーシャ」

「すれい? どうしたの? ねえ、すれい……ないてる?」

「泣いてなんかないよ。大好きだよ、アリーシャ」

「わたしも! すれい、ダイスキ」

 

 ――スレイは頭を捻り、どうすればいいかを考えた。

 そこで、普段から「里帰りしたら?」とロゼによく言われていたことを思い出し、世俗から隔絶されたイズチでアリーシャを静養させることを思いついた。

 

 

 

 

 今のアリーシャはスレイの家に住んで、寝食を共にしている。コタローもまた、空き家はないので、居候その2だ。

 

「すれい、どうしたの?」

「何でもない」

 

 アリーシャは立ち上がり、スレイの胴に両腕を回し、猫のように擦り寄ってきた。

 

「あっ」

 

 アリーシャがスレイから離れ、笑顔で駆け出す。

 その先には、仲間の天族たち。

 

 心が退行してから、何故か、アリーシャにはミクリオら天族が視えるようになった。声も聴こえるらしく、会話も一応だが成り立つ。「心が無垢になったからかも」とライラは言った。

 

(散歩ん時、アリーシャがイズチの村のみんなに手を振ったり挨拶したりするもんだから、最初はみんなビビってたっけ)

 

 だがそれも、いつもニコニコ元気なアリーシャを見て、緩和されつつある。

 

 アリーシャが焦がれてやまなかった、天族とコンタクトする力。

 それを手に入れたのに、願った彼女は心の奥底から出て来てくれない。

 

「えどなさまっ」

「スレイと一緒に過ごせて楽しい?」

「たのしいですっ」

「そう。よかったわね」

 

 エドナは傘を開けて肩に載せ、アリーシャに背中を向けて去った。

 

「すれい! みくりおさまと、らいらさまと、ざびーださま」

「うん。出て来てくれたんだな」

「僕らだってアリーシャがどうしてるか、スレイ越しじゃなく、自分の目で見たくもなるよ」

「そっか、ありがと。心配してくれて」

「でもやっぱり新鮮ですわ。イズチにいらした頃のスレイさんの服装が見られるなんて」

「あはは」

 

 ――最初の頃、アリーシャはスレイよりコタローに懐いていた。

 そこで何を思ったか自分でも覚えていないが、スレイは思い切って導師のマントを脱ぎ捨て、着の身着のままに戻った。

 するとアリーシャは目を輝かせ、「すれい、いた!」とスレイに抱きついたのだ。

 

(『導師』と歩いてたら従士だった頃思い出してアリーシャが辛くなる。だから、いいんだ)

 

 アリーシャの心が癒えるまで、導師の装束は着ない。

 ライラに知られると叱られるかもしれないが、スレイは密かにそう決めていた。

 

「みくりおさま?」

「――なに」

「おこってる、ですか?」

「っ、別に」

「あ、おい、ミクリオ」

 

 ミクリオは足並み荒く村の奥へと歩き去ってしまった。

 

「わたしがおこらせたの?」

 

 アリーシャの目尻に滴が溜まっていく。スレイはその滴を指で掬った。

 

「きっと考え事でもあったんだよ。アリーシャのせいじゃない」

「わたしのせいじゃ、ない」

「そうそう。アリーシャちゃんのせいじゃねえって」

「ほら。ザビーダもそう言ってくれたろ」

「うん! すれいが、いうなら」

 

 今のアリーシャは、人の悪意も邪気も知らない、世界への希望に溢れたアリーシャだ。

 

(もういっそこのままのほうが、アリーシャには幸せなのかな?)

 

 ザビーダやライラとじゃれ合うアリーシャを見て、スレイは浮かんだ疑問を打ち消せなかった。




 アリーシャが幼児退行しました。

 作者は決してこのような症状の方々を馬鹿にする・嘲笑するなどの意図はなく今回の話を書きましたことをご了承ください。

 心が純粋になったアリーシャは天族が見える・聴こえるようになりました。
 ですが肝心のアリーシャちゃんは心の奥にひきこもり中。
 スレイ! 出番だ! テイルズの歴代主人公のようにヒロインの目を覚まさせるんだ!

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