CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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これが現実だよ

 全員で広場に出た時、すでにマルトランは槍を手に携えていた。

 神依も従士契約もなくとも、コタローにもわかった。アレは悪いモノだ。

 

「導師さん、あの武器、やばそうなんですけど」

「……輝光銀。昔の導師が作って、水の神殿であの人に奪られた武器。使い方次第で本当に世界丸ごと切り裂けるって」

 

 コタローはキーホルダーとさくらカードを2枚、出した。

 相手が憑魔でしかもマルトランなら、「(ファイト)」と「(パワー)」の助けが要る。

 

 星の鈴を封印解除(レリーズ)する前に、一番前にいたアリーシャが口を開いた。

 

「ライラ様。お願いしてもよろしいですか」

 

 間を置いた。

 

「ありがとうございます。――『フォエス=メイマ』!」

 

 アリーシャをライラの神依が包んだ。白と緋色のドレス姿になったアリーシャは、燃え盛る聖剣をマルトランに向けた。

 

「ほう。お前にそういう才能があったとは。初耳だ」

「――師匠(せんせい)。あなたは災禍の顕主に騙されているんです。あんな穢れを振り撒く者に、高潔なあなたが従うはずがない。だから、私が師匠(せんせい)を助けます!」

「私が騙されている? そういう結論に達したわけか。今見えているものが現実であり事実。そんなことも分からぬか!!」

「理解はしています、でも」

「都合のいい虚像に縋るな!! 現実を見ただろう。お前の青臭い理想など何の意味もないと。国にとっても民にとっても、もちろん私にとってもだ」

「っ……アリーシャ・ディフダ、参ります!!」

 

 アリーシャは聖剣でマルトランに斬りかかった。当然、マルトランは輝光銀で受け止める。

 

「導師さん、ぼさっとしてないでサポート!」

「あ、ああ。エドナ、頼む。『ハクディム=ユーバ』!」

 

 黄とオレンジの白衣をまとったスレイもまた、マルトランに拳を突き出す。

 

 その間にコタローは星の鈴を展開し、「(ウッド)」のカードを宙に投げた。

 

「木々よ、かの者を捕えよ。『(ウッド)』!」

 

 周囲から木の蔓が伸び、マルトランに向かう。

 だが蔓がマルトランを縛る前に、マルトランはそれらを丸ごと輝光銀で斬り捨てた。

 

「何て動体視力だよ……! 『(ウッド)』、もう一度だ!」

 

 せめてあの神業のごとき体捌きを止めねば、いくら神依化したアリーシャとスレイでも不利だ。

 そう思うのに、何度蔓を伸ばしても、マルトランはそれらを斬り捨てる。植物の不規則な軌道さえ読んでいる。

 

 だが、2対1の近接戦と、何度も伸びる蔓は、確実にマルトランの体勢を崩し始めていた。

 

 決定的な隙が、ようやく生まれた。

 

「カラミティフレアッッ!!」

 

 聖剣から放たれた浄化の炎がカーテンのようにマルトランに向かい、ついにマルトランを燃いた。

 

 マルトランが地面に倒れた。

 

師匠(せんせい)!」

 

 アリーシャは神依を解いて、倒れたマルトランの傍らにしゃがみ込んだ。

 

「もうやめてください。もう師匠(せんせい)が傷つくことなんてないんです。戦争なんてやめて、一緒に帰りましょう?」

「……優しいな、お前は。私はそんなお前が――反吐が出るほど嫌いだったよ」

 

 マルトランがアリーシャの頬に手を当てた。

 その光景は、慈しみに満ちているように見えるのに――

 

「お前には二つだけ利用価値があった。お前はハイランドとローランスを最大の力で衝突するための道具だった。バルトロらを反発させ、暴走させる役には立った。そして」

 

 マルトランは柔らかい手つきで、槍を握るアリーシャの手を取った。

 

「お前は導師と近しい仲にあった。目の前でお前を殺せば、いくら導師でも、憎しみと嘆きが穢れに結びついただろう。我が主の望む通りに」

 

 マルトランが、槍を持ったアリーシャの手を乱暴に引っ張った。

 

「アリー、逃げて!」

「アリーシャ!」

 

 だが、コタローらが危惧した事態は起きなかった。

 

 

 ざく

 

 

 槍が、マルトランの首に食い込んだ。――アリーシャの手で、自らの首を刎ねさせたのだ。

 

「あ……ぁあっ」

 

 呆然とするアリーシャやコタローらの前で、マルトランは闇色の煙と化して、消えた。

 

 コタローはアリーシャに駆け寄り――声をかけあぐねた。

 

 敬愛する師で、母も同然だった人を、事故的にとはいえ、本人の手で殺した。そこにどんな慰めや励ましがあるというのか。

 

 アリーシャが立ち上がり、走って行った。

 

 追ったのはスレイのほうが先だった。

 コタローもはっとし、急いでスレイに続いた。




 ちょっとアリーシャとマルトランのやりとりを変えてみました。

 結局、マルトランはどういう意図でアリーシャの師匠役を続けていたのでしょうね?
 例えマルトラン側に利用の意思があったとしても、彼女たちが共に過ごした時間が、絶望に塗り潰されませんように。祈ります。

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