CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
「ミクリオ様たちも?」
「いるよ。――――。ん。ライラが神依するって。コタローは手、貸して」
「腕でいいですか?」
「……マジで嫌がられると割とオレも傷つく」
コタローがスレイの二の腕辺りに手を置いた。
「『フォエス=メイマ』」
赤い神依がアリーシャをまとう。こうすることでアリーシャは初めて天族を認識できる――のだが。
「デゼル様とロゼは? それに、そちらのお方は」
「……デゼルは」
「死んだわ。ペンドラゴで、ロゼを守って」
エドナの答えは淡々としていた。
――その時、アリーシャの中に生まれたのは、悼みでも哀しみでもなく、嫉妬だった。
(天族の方に命を投げうたせるだけの人間なんだ、ロゼは)
「よ、お姫様。俺はザビーダ。スレイから話はよく聞いてるぜ。よろしくな」
陽気な声をかけてきたのは、腰を越える緑がかった銀髪に、褐色の上半身を曝した、逞しい男。
「は、はあ」
「その顔、聞きたいことがあるって言ってるぜ」
「お聞かせ願えるのですか」
ザビーダ、それにスレイやミクリオが教えてくれた。
ローランス軍の攻勢準備がまだである状況に対し、ハイランド軍の態勢はすでに整っていること。そして、憑魔化する兵士が見られたほどの、悪いほうへの士気の高まり。
「もう……止められそうにありませんね」
アリーシャはスレイらに背を向けた。
「でも、どうして兵士がアリーシャを」
「私がもたもたして、総攻撃の勅命を届けなかったからだろう」
「アリーシャにそんなことをさせようとしたのか!?」
「はい、ミクリオ様。私の扱いは、皆様もご存じの通り。でしょう?」
「諦めるの?」
「だって……どうしようもないじゃないですか!」
勅命は出されてしまった。内容を鑑みるに、指揮官のマルトランにも根回しはされている。
マルトランが、使者であるアリーシャが来ないからだろう、軍を動かさずにいてくれているのが唯一の救いだ。
「そんな物、握り潰しちまえば?」
ザビーダの言葉に、揺れていた心は逆に固まった。
考えなかったわけではない。封書を見るたびに思った。破こう、と。燃やそう、と。
それでも思い留まったのは、王命すら無視してしまえば、ディフダ家、ひいては亡き父母の名誉が地に堕ちると思ってこそ。
「無茶だ! アリーシャにできるはずが――」
「別に強制はしないよ? 悲しみに暮れる憂い顔も嫌いじゃないしな」
アリーシャは懐にある封書に、服越しに手を当てた。
「いいえ。戦争を止めるには、ザビーダ様の言う通りにするしかないようです」
――騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ。
マルトランの教えを、心の中で唱えた。
大事なのは、名誉でも立場でもなく、命。命の重さに自国も敵国もない。
そんな単純なことを、アリーシャは忘れていた。
『本当にいいのですか? 国に反抗することになりますわよ』
「一度は脱獄もした身。怖いものなどありません。コタローと、カードたちさえいてくれれば」
アリーシャの言葉に応えるように、懐からさくらカードが出てきて、アリーシャの周りを回った。
「アリーとカードたちがそうしたいなら、おれも一緒にやるよ。おれだって一応、アリーの師匠だからね」
「ありがとう。コタロー。――幸い、軍を指揮しているのはマルトラン
アリーシャの言葉に、不易を説き、難しさを説き、それでもやるならやってみなさい、私が付いている、と今日までずっと言ってくれたマルトランなら――
「それは無理よ」
エドナが傘を開いて肩にかけた。
「マルトランは、憑魔だもの」
はいバレましたー! アリーシャの心の支えその1が折れましたー!
でもその2、その3、その4とあるので、まだ辛うじて心が壊れてはいません。
……今は。