CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ヴィヴィア水道遺跡での一件から幾日経ったか。それを数えるのも億劫になってきたある日。
王宮からの使者だという兵士がアリーシャを訪ねた。
兵士はアリーシャに1通の封書を差し出した。
アリーシャは受け取って驚いた。王家の紋章が封蝋に捺印されていたからだ。
「アリーシャ殿下の手で、ハイランド軍総指揮官のマルトラン卿に届けるように。これは勅命でございます」
「勅命……私に」
どんな内容なのか気になって、アリーシャは封書を開こうとした。
「内容はマルトラン卿の手に届くまで検めてはならないとの命にございます」
何だ、とアリーシャは心中で苦く笑った。
勅命とは名ばかりで、結局はアリーシャに飛脚の真似事をしろというだけの話だ。
使いの兵士が去ってから、アリーシャは隠しもせず溜息を吐いた。
(届け先がマルトラン
内実がどうあれ、敬愛するマルトランに会える。
アリーシャは封書を懐に入れ、すぐにでも出発しようとした。
「アリー」
いつもの木から声がしたので顔を向けた。
コタローが木から庭に飛び降りたところだった。
「聞いてたよ。それ、中身、確認しなくていいの?」
「開けるなとの命だから」
もっともそんな細かい条件を付けた心当たりなど、アリーシャにはバルトロ以外に思いつかないのだが。
「開けてみようよ。アリーシャに悪い内容かもしれないよ」
「開けたくともこれには封蝋が施されている。開けては跡が残ってしまう」
「任せて」
コタローは星の鈴のキーホルダーと、「
「
アリーシャの手から封筒が浮かび上がる。封筒は空中で分裂し、全く同じ物が、片方はアリーシャの手に、片方はコタローの手に落ちた。
コタローはためらいなく封書の口を破き、中の便箋を開いて読み上げた。
「『王女アリーシャ・ディフダを、ローランス帝国軍を総攻撃する勅命を届ける使者に任ず。王女の到着次第、ハイランド軍は進軍を開始せよ』――」
ぐしゃ。
アリーシャが何かしらのアクションを起こす前に、コタローが手紙を握り潰した。今まで見たこともないほど、怖い顔で。
「コ、タロー」
「え? ――あ……ごめんっ。怖がらせ、た?」
アリーシャは首を横に振った。コタローはほっとした顔をした。
それより、アリーシャには無視できないことがあった。
――勅命を届けて始まるのは全面戦争。アリーシャはその光景を見て初めて、自身が届けた勅命の内容を知り、絶望し、悲嘆に暮れる。そういうカラクリだったのだ。
(悪質だ。こんな悪質な企みを思いつくのは、バルトロ以外にいない)
憎しみより怒りより、嘆きが勝った。どうしてあの男はこんなにも残酷なことを行えるのか。そんなにもアリーシャが疎ましいのか。アリーシャには心底理解できなかった。
勅命の封書を届けるように言われて3日は経っただろうか。
アリーシャはテラスに出ては封書を見、ただ苦悩に暮れる日々を送っていた。
(これを届けたらローランスとの本当の戦争が始まってしまう。私は、どうしたら)
懐から3枚のさくらカードを取り出した。「
(いっそ『
そこでアリーシャははっと立ち上がり、テラスを降りて庭に出た。人の足音、それも武装したそれが聞こえたからだ。
見れば複数の兵士が屋敷に入って来ていた。
兵士はアリーシャを見るなり、一様に槍を向けた。
「戦いの邪魔ばかり、よくも!」
「ハイランドの面汚しがっ!」
事態に付いて行けないアリーシャに、兵士が刃を突き出す――寸前、横から飛び込んだ緑の影が、兵士をハイキックで吹き飛ばした。
「コタロー!」
「遅れてごめん。アリーは下がってて。こいつら、アリーが勅命を届けないのに焦れて強硬手段に出やがった」
ここ数日訪ねて来ないと思えば、彼はそんなことを調べていたのか。
「それなら私も」
「たまにはアリーもお姫様らしく守られてていいんだよ」
コタローは、彼の郷里の格闘技の構えを取った。
コタローが踏み出してからは、まさにあっというま。
襲ってくる兵士に正拳突きをくり出し、下から兵士の顎を蹴り上げて、一回転。着地するなり、別の兵士に全力でボディブロー。さらに地面に両手を突いての、上下がひっくり返った回転蹴りで3人の兵士を一息で吹き飛ばした。
流れるような技の連続で、全ての兵士は沈黙した。
しかし、さらに人が駆け込む音がした。
増援か、今度は自分も、とアリーシャが槍を構えた時だった。
「アリーシャ! コタロー! 大丈夫!?」
「スレイ!?」
「真打ちのくせに遅いってんですよ、もー」
アリーシャは、槍は持ったまま、スレイと駆け寄り合った。
コタローの今回のバトルは、「ツバサ・クロニクル」の写身小狼に似た感じを狙いました。あちらは足技一本ですが(^_^;)
初期は正確も写身小狼に似せようとしたのですが、そこまで似せたらもはやオリ主じゃないと思い、変化をつけました。アリーシャ以外に敬語なのはその名残だったりします。