CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
ヴィヴィア水道遺跡でなじられたアリーシャはさぞ落ち込んでいるだろう。そう思い、スレイは予定を変更してアリーシャの屋敷を訪ねた。
いつものテラスにいるだろうと庭から入ったスレイらを、ロゼが制止し、近くの茂みに隠れるように連れ込んだ。
「噂が広まる前に抑えられた。私が頭を下げたことで、なかったことになったよ」
(頭を下げた? アリーシャは王女様なのに?)
「はは……何でもないよ。完全に私の勇み足だったし。――ディフダ家は、ずっと捨て扶持で生かされてきた分家だ。しかも私の母は、そんな父が気紛れで見初めた市井の娘。だから皆、許してくれたよ。政治のことがわからなくて当然だって」
(なっ……産まれがそうだからって、アリーシャはいつだってハイランドのことを想って頑張ってるのに、そんなこと言ったのか!?)
「けど……だからこそ私は正しいことをしたいんだ。皆に認めてもらえるように。亡くなった父様と母様の名誉のために」
(そっか。アリーシャが頑張るのは、それが根っこだったんだな)
「私は……間違っているのだろうか」
(間違ってなんかない! 産まれも身分も動機も関係ない。アリーシャが努力してるのは誰の目から見たって本当のことだ。それを否定する奴らのほうがおかしいんだ)
我慢が効かなくなって、スレイは飛び出してそう叫ぼうとした。だが、それはロゼによって制止された。
ロゼは首を横に振った。
「今は一人にしてあげよ」
スレイは俯くアリーシャの背中を見、ロゼの厳しい表情を見――ロゼに対して肯いた。
スレイらはこっそり屋敷の庭を後にし、元の予定に立ち返って、水の試練神殿を目指そうと歩き出した。
「寄ってかないんですか?」
上から声がしたので仰天してふり仰げば、塀の上にコタローが腰かけ、スレイらを見下ろしていた。
「い、いつから」
「最初から最後まで全部。まあもっともおれはアリーシャのお家事情は本人から聞いてるので何とも思いませんけど。――導師さんは? アリーの話聞いてましたよね」
「……うん。だからせめて、今は一人にしてあげようって」
コタローが塀から飛び降りた。翻る白いコートの裏地は、鮮やかな緑。
コタローはスレイの前まで来ると、スレイに限界まで迫り、見上げ、言い放った。
「この、バーカ」
まるでそれだけのためにそこにいたように、コタローはあっさりと踵を返して屋敷へ入って行った。
「まるっきり悪ガキね」
『スレイはアリーシャを想って会うのを我慢したのに!』
『あの子にも色々あるのよ』
『慰め方は人それぞれですわ。寄り添うほうがいいことも、見ないフリをしてあげるのがいいことも、どちらもあります。スレイさんもコタローさんも間違ってはいないんですよ』
「……本当に間違ってないのかな、オレ?」
『スレイさん?』
「何でもない! よし、オレたちも出発だ!」
コタローは堂々とディフダ邸の庭を突っ切り、テラスに登った。
「スレイは帰った?」
アリーシャは背中を向けたまま尋ねてきた。
「ん。おれが追い返すまでもなく帰るつもりだったみたい」
「そう……」
「よかったの?」
「こんな情けない私、スレイに見られたくない」
――アリーシャの心の天秤が、加速度的にスレイの側に傾いていくのが見えるようだった。
わかっていて、コタローは口を噤んだ。
天秤に従うか、天秤が壊れるまで踏ん張るかは、アリーシャと――そして、スレイにしか決められないことだと、理解していたから。
最後の文がこの作品の全てです。
なお時間軸的には、デゼルが抜けてザビーダが加入しているのですが、ややこしくなるので脳内会議には不参加としました。
話題的には一番食いついてきそうですが(-_-;)