CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

39 / 180
せめて姫として 2

 ヴィヴィア水道遺跡でなじられたアリーシャはさぞ落ち込んでいるだろう。そう思い、スレイは予定を変更してアリーシャの屋敷を訪ねた。

 

 いつものテラスにいるだろうと庭から入ったスレイらを、ロゼが制止し、近くの茂みに隠れるように連れ込んだ。

 

「噂が広まる前に抑えられた。私が頭を下げたことで、なかったことになったよ」

 

(頭を下げた? アリーシャは王女様なのに?)

 

「はは……何でもないよ。完全に私の勇み足だったし。――ディフダ家は、ずっと捨て扶持で生かされてきた分家だ。しかも私の母は、そんな父が気紛れで見初めた市井の娘。だから皆、許してくれたよ。政治のことがわからなくて当然だって」

 

(なっ……産まれがそうだからって、アリーシャはいつだってハイランドのことを想って頑張ってるのに、そんなこと言ったのか!?)

 

「けど……だからこそ私は正しいことをしたいんだ。皆に認めてもらえるように。亡くなった父様と母様の名誉のために」

 

(そっか。アリーシャが頑張るのは、それが根っこだったんだな)

 

「私は……間違っているのだろうか」

 

(間違ってなんかない! 産まれも身分も動機も関係ない。アリーシャが努力してるのは誰の目から見たって本当のことだ。それを否定する奴らのほうがおかしいんだ)

 

 我慢が効かなくなって、スレイは飛び出してそう叫ぼうとした。だが、それはロゼによって制止された。

 

 ロゼは首を横に振った。

 

「今は一人にしてあげよ」

 

 スレイは俯くアリーシャの背中を見、ロゼの厳しい表情を見――ロゼに対して肯いた。

 

 

 

 

 スレイらはこっそり屋敷の庭を後にし、元の予定に立ち返って、水の試練神殿を目指そうと歩き出した。

 

「寄ってかないんですか?」

 

 上から声がしたので仰天してふり仰げば、塀の上にコタローが腰かけ、スレイらを見下ろしていた。

 

「い、いつから」

「最初から最後まで全部。まあもっともおれはアリーシャのお家事情は本人から聞いてるので何とも思いませんけど。――導師さんは? アリーの話聞いてましたよね」

「……うん。だからせめて、今は一人にしてあげようって」

 

 コタローが塀から飛び降りた。翻る白いコートの裏地は、鮮やかな緑。

 

 コタローはスレイの前まで来ると、スレイに限界まで迫り、見上げ、言い放った。

 

 

「この、バーカ」

 

 

 まるでそれだけのためにそこにいたように、コタローはあっさりと踵を返して屋敷へ入って行った。

 

「まるっきり悪ガキね」

『スレイはアリーシャを想って会うのを我慢したのに!』

『あの子にも色々あるのよ』

『慰め方は人それぞれですわ。寄り添うほうがいいことも、見ないフリをしてあげるのがいいことも、どちらもあります。スレイさんもコタローさんも間違ってはいないんですよ』

「……本当に間違ってないのかな、オレ?」

『スレイさん?』

「何でもない! よし、オレたちも出発だ!」

 

 

 

 

 コタローは堂々とディフダ邸の庭を突っ切り、テラスに登った。

 

「スレイは帰った?」

 

 アリーシャは背中を向けたまま尋ねてきた。

 

「ん。おれが追い返すまでもなく帰るつもりだったみたい」

「そう……」

「よかったの?」

「こんな情けない私、スレイに見られたくない」

 

 ――アリーシャの心の天秤が、加速度的にスレイの側に傾いていくのが見えるようだった。

 

 わかっていて、コタローは口を噤んだ。

 

 天秤に従うか、天秤が壊れるまで踏ん張るかは、アリーシャと――そして、スレイにしか決められないことだと、理解していたから。




 最後の文がこの作品の全てです。

 なお時間軸的には、デゼルが抜けてザビーダが加入しているのですが、ややこしくなるので脳内会議には不参加としました。
 話題的には一番食いついてきそうですが(-_-;)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。