CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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一番がよかった

 幸いにして、ゴドジンでスレイが「(ミラー)」によって負った傷は、大したことはなかった。

 しばらくは片足を引きずることになったので、万全になるまで旅立ち禁止令を天族全員で出したそうだ。

 

 その間にも、偽エリクシール売買、村長の正体と、ローランス本国との村長の取引など、様々なことが起きたが、アリーシャにはそれらの出来事が膜一枚隔てた先のように感じた。

 

 

「なあ、ライラ。まだダメなのか? アリーシャの従士契約復活」

 

 宿で同じ部屋にいる時に、スレイは何事もないように、誰もいない空間を向いて言った。おかげでアリーシャの心臓は跳ね上がった。

 

「そうだよ。フォーシアさんだって、自分の声を聴いてくれたのはアリーシャだって。神依だって安定してる。だから」

「だが、ロゼのように、自力で天族の方々を認識するには至ってない」

 

 心がけたよりずっと平坦な声が出せた。

 

「そこに至ってようやく、私は従士になってもスレイを傷つけることがなくなると思うんだ」

「そこにって……それっていつだよ! それじゃいつまで経っても一緒に旅できないかもしれないんだよ!? アリーシャはそれでいいの!?」

「よくない!!」

 

 スレイを見上げるアリーシャの目に、涙の膜が張っていく。情けない。彼がくれた真名は「笑顔」なのに。

 

「よくないから、もっと、今以上にもっともっと、頑張るしかないじゃないかッ」

 

 その時、暖かいものがアリーシャを包んだ。

 スレイがアリーシャを抱き締めたのだ。

 

「ごめんね。オレが弱いから。半人前の導師だから。アリーシャのこと、受け止めてあげられなくて」

「ちがう……違うよ、スレイ。弱いのは私だ。いつまで経ってもミクリオ様たちを見つけられない私が悪いんだ」

 

 アリーシャはスレイの胸板に体を預けた。抱き締めるスレイの力が増した。

 

 

 

 

 

 宿を出ると、ロゼと、天族の仲間全員が勢揃いしていた。ちょうどよかった。

 

「試練神殿に行く」

 

 これには特に天族組から制止の声が上がったが、聞き入れられなかった。

 

「早く秘力を手に入れて、アリーシャが安心して命を預けられる導師になる」

 

 スレイは挫いたほうの足を床に2,3度ぶつけた。痛みはもうなかった。

 

「行こう。残る3つの秘力を手に入れに」

 

 誰もが心配そうにスレイを見つめてくる。だが、スレイの決意は揺らがなかった。

 

 アリーシャはあんなに努力して、本来グリンウッドの民には使えない「魔法」を修得したのだ。

 スレイも負けていられない。他でもない、アリーシャと旅をする未来のために。

 

「スレイさんがそうされたいのでしたら」

「さっさと行ってさっさと終わらせましょ」

「こうなるとスレイは聞かないからね」

「……ふん」

「じゃあ次はレイクピローの水の試練神殿でどうかな」

「ああ。行こう」

 

 スレイは導師の衣を翻し、朝焼けに向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

「これでよかったの? アリー」

 

 スレイと入れ違いに客室に入ってきたコタローの第一声だ。

 

「スレイにはもうロゼがいる。私の居場所はもうスレイの横にはない」

 

 二人目の従士になるという方法もあったが、アリーシャは拒否したのを、コタローだけが知っていた。

 アリーシャはスレイの「一番」になりたいのだ。「一番」の下にどんな肩書が付くにせよ。

 それを、タイミングが悪いことに、ロゼがなってしまった。

 

「おれ、これからもカード探しを続ける。残りは後2枚だ。アリーは、今までみたいに付いて来てくれる?」

 

 アリーシャは無言で首を振った。

 

「わかった。じゃあ一度レディレイクに帰ろう。マルトランさんが心配してると思うし」

「……コタロー」

「ん?」

「ごめん」

「いいんだよ。元はおれが無理に誘ったんだから」

 

 コタローは全く悪いと思っていない顔で言い切った。それがアリーシャには痛かった。

 

「次はどこへ行くんだ?」

「本格的にローランスの首都に入ってみようと思う。あそこの長雨が『(レイン)』かもしれないから。もちろんアリーをレディレイクにちゃんと送ってからね」

「重ね重ねすまない」

「アリー」

 

 コタローはベッドに座るアリーシャの前まで来ると、膝を突いてアリーシャを見上げた。

 

「またカードを見つけたら紹介しに行く。それまで『(スノウ)』と『(ショット)』と『(ミラー)』が世話かけるけど、よろしくお願いします。大丈夫。アリーにはおれもカードたちも、マルトランさんも付いてる」

「っ、うん、うん…」

 

 スレイに対しては流さなかった涙が、流れて落ちる。

 

 コタローは立ち上がり、そんな健気で一途な姫の頭を抱え込んで、泣かせてやることしかできなかった。




 すれ違うスレアリ。
 友達の前であれば泣けるアリーシャ。辛い。

 そしてこの後、マルトランのあの事件が待ってると思うともっと辛い。

 ロゼに「俺の従士はただ一人、彼女だけなんだ」とかきっぱり言うスレイ書いてくれる人募集。

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