CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
徹夜して「
寝坊した客なのに、フロントのシェフは文句一つ言わずコタローとアリーシャに朝食を出してくれた。
「あー、食った食ったー」
「ごちそうさまでした。大したご馳走でしたよ。この村の名物料理ですか?」
フロント係とアリーシャが話す間に、宿のドアが開いて高い声が飛び込んだ。
「あれ、アリーシャじゃん。何でこんなとこいるの?」
ロゼだった。商隊「セキレイの羽」の看板娘で、暗殺ギルド「風の骨」の頭領。
「ロゼ。そういう君こそどうして」
「ま、色々あってスレイの従士ってやつになってさ。今、調査中なんだ――この村のこと」
ロゼは最後だけアリーシャらに顔を寄せ、店の者には聴こえないよう囁いた。
――スレイの、従士に、なった。
アリーシャは呆然として指一本動かせなかった。
(待っててくれるんじゃ、なかったの?)
「そういやコタ坊、見つかったんだ。よかったね」
「え?」
「え? いやだって、洞窟ではぐれたんでしょ? だからアリーシャがスレイに一緒に探してくれって連れてって」
「おれたち、午前中は宿でずっと寝てましたよ」
「じゃ、じゃあ、あのスレイ連れてったアリーシャって……誰?」
「オバケだったりして」
「いやあーーーー!! その話題禁止、絶対禁止なんだからあああ!」
ロゼは涙目で宿のフロントを出て行った。
「母上並みの怖がり」
「コタローのお母様はそういう系が苦手なのか?」
「もうバリバリに。で、怖がりのくせに、怪談とか最後まで聞いちゃうタイプなんだよね」
「まあ」
ころころとアリーシャが笑った。
「でも、その『スレイを連れて行った私』というのは気になるな。外に出て人に話を聞いてみよう」
「そうだね。ロゼさん通せば、天族の人たちからも話聞けるし」
遅い朝食を食べ終えた彼女らは、勇んで宿から村へ出た。
ロゼを探すと――――いた。民家の影で膝を抱えている。
そんなロゼを、横に座ったデゼルが、頭をあやすように叩いている。
「気にするな。ロゼ。オバケも結局は憑魔の一部だ」
「だって、だって、視えないのにそこにいるとか! しかもアリーシャの姿でってどーゆーことよ!」
「知るか。それをこれから調べるんだろうが」
邪魔してはいけない雰囲気というのはこういうものをいうのだろう。
アリーシャはコタローと肯き合い、そっとその場を離れた。
「となると、天族の証言は筆談か、最悪、アリーに神依化してもらうかしかないけど」
「私なら平気だ。問題は皆さんが私を受け入れてくれるかだが」
「ロゼがいるから?」
「……私は一度彼女と入れ替わったから、彼女の潜在能力の高さはよく知ってる。スレイが従士にしたいと思って当然だ」
「アリーはそれでいいの?」
「――く、ない」
ダン! 手近な柱に拳を打ちつけた。
「よくないけど! スレイの前でそんなこと言えないじゃないか!」
「落ち着いて。ごめん。おれの言い方が意地悪だった」
「い、や、私も。取り乱してすまない。ライラ様たちを探そう。私も、お声だけなら、少しは感知できるようになったみたいだから」
ゴドジンの整備された道を歩く。歩いては入口まで引き返す。歩く間に、ライラらが声をかけてくれれば止まる。実にシンプルかつオートマチックなやり方だった。
「……ーシャ」
「聴こえた! ミクリオ様の声だ」
「ア……シャ。聴こえ……」
「はい! ミクリオ様、どちらにいらっしゃるのですか?」
「目の前」
直後、がしりと何かがアリーシャの両肩を掴んだ。
「――ルズローシヴ・レレイ。僕の真名だ」
「あ、ありがとうございます。――『ルズローシヴ・レレイ』」
アリーシャの姿が青い神依をまとったものへと変わった。おー、と横でコタローが拍手。
「何してんの、ミボに……アリーシャ?」
「アリーシャさん、スレイさんと洞窟に行かれたのではなかったんですの?」
「おい。往来で騒ぐな。面倒だ」
「いーでしょ別に。他の人には視えないんだから」
気づけば他の天族の全員と、ロゼに囲まれていた。アリーシャはついロゼから目を逸らした。
とりあえず。アリーシャはデゼルを向いた。
「天族デゼル様。前は挨拶もせず失礼しました。アリーシャと申します。お見知りおきください」
「コタローです。よろしくお願いします」
「……ふん」
デゼルは深くかぶった帽子の鍔をさらに下に向けた。
「ええと、ロゼ? 私は何かデゼル様を不快にさせるようなことをしてしまっただろうか」
「いーの、いーの。あれがあいつの通常運転。だから気にしないの」
『挨拶は終わったね? じゃあ状況説明するから聞いて』
ミクリオが頭の中に直接語りかけてきた。
スレイを連れて行った、アリーシャの姿をした少女。
この時間になってもスレイが戻らないこと。
洞窟は村人に見張られて入れないこと。
「幸い、塞がった入口を見つけることができました。エドナさんのお力でしたら、道を塞ぐ岩もどけられるでしょう」
「気が乗らないけど、あの子が絡んでるからね」
「わかりました。私たちも一緒に行きます」
「当たり前でしょう」
ぴしっ、とエドナが畳んだ傘の先端をアリーシャに向けた。