CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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「砂」上のシアワセ

 かくて夜。アリーシャらは宿を抜け出し、足音を殺して洞窟の前に着いた。

 

 羅針盤の光を頼りに彼女らが進んでいると、一つの天井の高い空洞に出た。

 

「足下緩い。アリー、気をつけて」

「ああ……すごいな、砂みたいだ」

 

 空洞の中には、所狭しと木箱が並べてあった。

 

「エリクシール!? 何故こんなとこに、こんな大量に」

「エリクシール?」

「とうに製法が失われた万能薬だ。それが、どうして」

 

 コタローは瓶を一本開けて、一滴だけ中身を舐めた。

 

「甘っ。てか、なんか熱い? エリクシールってこういうものなのか?」

「私も見たことはないから。でも、これがローランスの教会公認の品なのはわかる。印がある」

 

 ずる。

 

 急に足元が緩んでアリーシャは滑った。とっさに木箱に掴まって乗った。コタローも隣で同じくした。

 

「地面が!」

「蟻地獄……『(サンド)』のカードか」

 

 言い合う間にも地面は細かい砂に変じ、渦巻きを作っていく。

 今は木箱の上で安定しているが、空洞全体に砂地獄が広がればアリーシャらも砂に呑まれて窒息死だ。

 

「アリー。おれに掴まって。向こうまで跳ぶ」

 

 アリーシャはコタローのいる木箱に飛び移り、彼女らは肩を組んだ。

 

「『(パワー)』!」

 

 めき、と嫌な音がして、コタローはアリーシャと共に跳んだ。ふり返れば、無理なジャンプの台になったせいで、蓋と中身が割れた木箱。

 

 大きく地面を滑りながらも、大した外傷もなく、アリーシャらは砂地獄が及んでいない場所に着地した。

 

「! そうだ!」

 

 ふいにコタローが「(アロー)」のカードを取り出し、宙に投げた。

 

「箱の中の瓶を全部砕いてくれ! 『(アロー)』!」

 

 カードに星の鈴をかざす。弓を持った少女、「(アロー)」が現れた。

 「(アロー)」は上から木箱に1本の矢を放つ。矢は途中で二重、三重と分裂し、木箱を、その中身を砕いた。溢れ返った液体が砂地獄に染みていく。

 

「エリクシールを? コタロー、何を」

「液体なら何でもいい。アリー、『(スノウ)』のカードを」

「そうか! ――吹雪き凍てつけ。『(スノウ)』!」

 

 アリーシャは槍で「(スノウ)」のカードを突いた。

 吹雪が生じ、砂地獄の上を走る。例のエリクシールで濡れた砂は、吹雪によって凍てつき、動きを徐々に緩めていく。

 

 コタローが紙垂を翻して鈴を掲げた。

 

「汝のあるべき姿に戻れ。さくらカード!」

 

 砂が浮き上がり、吸い寄せられるように星の鈴の前に集まっていく。やがてそれらは一枚の札の形を成し、コタローの手に収まった。

 

 ふとコタローが、岩の地面に戻った空洞の中心に歩いて行った。アリーシャは追いかけた。

 

「陥没してる」

 

 見下ろせば、岩の地面には亀裂が走り、人一人が落ちそうな穴が開いていた。

 

「『(サンド)』はこの穴から下に落ちる人がいないよう、蓋をしてたのかも」

「村長に穴が開いていることを知らせたほうがいいな。それに、箱の中身を壊したお詫びもしないと」

 

 二人して立ち上がり、空洞を去ろうとした時だった。

 

 小さな呻き声がアリーシャの耳に飛び込んだ。

 

「待って」

 

 アリーシャは引き返し、這いつくばって穴に耳を向ける。やはり聴こえる。

 

「コタロー! この下に人がいる!」

「何だって!?」

 

 コタローはすばやく星の鈴を出し直し、「(フロート)」のカードに当てた。浮力が彼女らを包み込む。

 

 アリーシャは慎重に穴に入り、下へと降りた。すぐにコタローも隣に降りてきた。

 

「誰もいない。それに、こう暗いと」

「でも、本当に聞こえたんだ。声が」

「……か……るの?」

 

 まただ。アリーシャはコタローをふり返ったが、コタローは困った顔で首を横に振った。

 

「私は……ここからあなたの声が聴こえた気がして。もしかして、穴から落ちて怪我をしたんですか?」

「……しの声……える…? ま……あな……導…?」

 

 導師、と聴こえた。アリーシャは首を振った。

 

「私はただの人間、です。従士を目指してはいますが。あなたは――もしや、天族の方?」

 

 肯定の声がした。次いで、「フォーシア」「風の」と聴こえた。アリーシャはそれを、風の天族でフォーシアという名だと解釈した。

 

「申し訳ありません。声が途切れ途切れにしか聴こえなくて……お姿も視えないんです。どこにいらっしゃるかお教え願えませんか?」

 

 すると、風がアリーシャらを包んだ。風に運ばれるまま歩けば、ある一ヶ所で風が止んだ。

 アリーシャは恐る恐る手を伸ばし――体温のある何かが手に触れた。

 

「ここだ、コタロー」

「了解。――我らに浮力を与えよ。『(フロート)』」

 

 アリーシャ、コタロー、そして何もない場所をピンク色の球体が包んだ。

 ゆっくりと空洞の天井に上がって、一人ずつ穴から地上へ出た。

 

 

 ふう、と息をつくと、地面に文字が刻まれた。――「ありがとう」と。

 

 “私の声を聴ける人間なんてどれくらいぶりかしら。お礼は何がいい?”

 

 アリーシャは文字の前に跪いた。

 

「いいえ。返礼が欲しくてお助けしたわけではありませんから」

 

 地面に描かれた文字が書き換わった。

 

 “あらあら。欲のない子たちね。情けないけど、あそこで落ちて身動きが取れなくなっていたの。気づいてくれて助かったわ。本当にお礼はいいの?”

 

「じゃあ」

 

 コタローがアリーシャの横に正座した。

 

「この洞窟を出ると、ゴドジンという村があります。もし本物の導師一行が訪れたら、会ってくれませんか? 会ってどうするかは、あなたの好きにしてくださっていいですから」

 

 “ゴドジン……火の試練神殿がある村ね。行ってみるわ”

 

「「ありがとうございます」」

 

 ふわ、と風がアリーシャらを吹き抜け、消えた。




 液体で濡らして凍らせて動きを止めるのがアニメ版での封印方法だったようで、何とか近いものができないかと頭をひねったのがこの方法でした。

 村長は後から来て偽エリクシールが全部砕けてるのを見て愕然とするでしょうが。

 顔が視えなくても声が聴こえなくても、意思疎通ってできるんですよ。だから原作スレイ君、そんな簡単にアリーシャを離脱させないで(T_T)

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