CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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導師、誕生

「レディレイクの人々よ。この祭りを私たちの平和と繁栄の祈りとしよう」

 

 虎太郎はもう一度、アリーシャに拍手を贈ろうとした。だが。

 

「祈りが何だってンだ! これで俺たちの仕事が戻ってくるのか、ええ!?」

 

 民衆の一人が叫んだことで、神聖な空気は瞬く間に瓦解した。

 

 その声をきっかけに、喧々諤々と非難が湧く。

 衛兵が最初に非難を上げた民衆に槍を向け、薙いだ。単純な武器の振り回しでも、それに慣れない一般市民には刃は恐怖だ。

 次々と民衆が聖堂の出口に殺到する。

 

「大臣のしわざに間違いない」

「権力争いに守るべき民を巻き込むとは……そこまで腐ったか!」

 

 民衆の数名が、段上のアリーシャに向かおうとした。

 虎太郎はとっさにアリーシャを庇うべき走り出て――同じく反対側から飛び出した、一人の青年とぶつかった。

 

「スレイ! コタロー!」

 

 自分以外に友達がいないと思い込んでいたアリーシャが青年を呼んだことは意外だったが、呆けていられる状況ではない。

 

「おれは大丈夫! アリーシャは避難し」

 

 ぞわり。

 

 民衆の一人―― 一番にアリーシャに罵声を投げた男が、頭を抱えて膝を突いた。やがて男は黒いもやを噴き上げ、毒々しく燃え上がった。

 

(な、んだ。今の。カードの気配と全然違う)

 

「憑魔に……なったのか?」

 

 横で立ち上がった青年――アリーシャがスレイ、と呼んだ彼が呆然と呟いた。

 

(あの黒い火、手持ちのカードじゃどうにもできない。『(ウッド)』じゃ逆に燃やされるし、『(クラウド)』ったって雨が呼べるわけじゃないし。ああ、せめておれも、兄さんたちみたいに李家の魔法が使えたら。そもそも、()()()()()()()()()()

 

 悔しさに俯く間にも事態は待ったなしに進んでいく。

 

 なぜか台座に刺さる聖剣に話しかけるスレイは置いて、虎太郎は階段を駆け上がってアリーシャを抱えて地面に倒れた。例の黒い火が祭壇の炎に飛び込んだのだ。

 

 虎太郎自身もアリーシャも怪我はしなかったが、祭壇の炎は禍々しい黒に染まり、あちこちの布地に飛び火した。

 

 あっというまに聖堂内は大火事になった。

 

「スレイ、君は……本当に天族が視えて……」

「立てる? アリー」

「あ、ああ」

 

 虎太郎はアリーシャの手を引いて立たせる。火勢の割に、聖堂全体が焼け落ちてしまうようなことにはなっていない。

 

「わかった!」

 

 唐突にスレイが台座の前まで駆けつけ、聖剣の柄を両手で握ろうとした。だがスレイは、まるで誰かに引き留められたように、手を止めた。

 

 短くない間を置いたが、スレイは微笑んだ。

 

「君の名前を聞いてもいいかな?」

 

 一拍を置いて、スレイは語り始める。

 

「ライラ。オレ、世界中の遺跡を探検したいんだ。古代の歴史には、人と天族が幸せに暮らす知識が眠ってるって信じてるから。オレの夢は、伝説の時代みたいに、人と天族が幸せに暮らす方法をみつけること。憑魔を浄化することで、人と天族を救えるなら、それは、オレの追いかけてる夢と繋がってるんじゃないかって思う」

 

 凪いだ湖面の色をした瞳に、迷いはなく、むしろ新しい道に踏み出そうとしていることに興奮しているようにさえ見えた。

 

「だから、ライラ。オレは導師になる! この身を君の器として捧げ、宿命を背負う!」

 

 すると、スレイの左の手袋に紋様が現れた。

 

 スレイが聖剣を掴み、抜いた。

 凄まじい風が吹いた。金色の風だ。暴風にアリーシャも聖堂の民衆も身を庇う中、スレイだけが聖剣を持って泰然と立っていた。

 

「スレイ……本当に?」

「――アリーシャは下がってて」

 

 聖剣を手に金のオーラを放つ青年は、数分前のどこにでもいる青年ではなかった。

 木之本虎太郎が、李(シャオ)(フゥ)が、焦がれて堪らなかった「特別な力の持ち主」だ。

 

 スレイは猛然と、黒い炎を撒き散らす獣のようなそれに向かって聖剣を揮った。




 スレイ視点でない、さらに憑魔や天族も視えないとなると、この子視点ではこうなるかなーと想像を膨らませて書きました。

 そしてCCさくらファンの中にはこう思われた方もいるでしょう。
 「小狼の子だったらカードじゃない魔法で消火できるだろ!」と。
 残念。実はできないんです、この坊ちゃん。
 子供って、必ずしも親の才能を全て受け継いでるわけではないんです。

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