CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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姫騎士の神依

 奥の遺跡の回転扉を開くのに成功したことで、スレイにも元気が戻ってきたようだった。そんなスレイと、仲良くじゃれ合うミクリオを見て、アリーシャは心から喜んでいた。

 

 従士契約の負荷をスレイにかけず、スレイと視界を共有できる。

 これほど喜ばしいことが人生であっただろうか。

 

 楽しい。幸せ。――羨ましい。

 

(才能だけで天族を認識できるロゼが、羨ましい)

 

 どろり、と心に入り込んでくるものがある。

 

(ずっとこの体ならいいのに。そしたらハイランドに帰らなくてもいいし、意地悪も陰口もされないし、何よりずっとスレイとコタローのそばにいて許される)

 

 暗い遺跡よりなお昏く、視界が光を失っていく。

 

「――コタロー。『(チェンジ)』のカードは?」

「ん? 心配しなくてもここにあるよ。ほら」

 

 コタローがコートの内ポケットから「(チェンジ)」のカードを取り出した。

 

 これを奪って隠すか破くかしてしまえば――と思ったところで、ちく、と胸が痛み、冷えた。

 はっとして胸に手を当て、懐からさくらカードを取り出した。「(スノウ)」と「(ショット)」。

 

(もしかして、ダメだって、止めてくれたの?)

 

 カードにも心はある。それを蔑ろにしてはいけない。さくらカードを封印して帰るたびに、コタローはアリーシャにそう語った。

 

(ごめんね。ありがとう)

 

 心のどろどろも視界の昏さも、もう感じなかった。

 

 アリーシャは2枚のさくらカードを懐に戻し、スレイを追いかけた。

 

「辛いことでもあった?」

「どうしたの、スレイ。急に」

「アリーシャがそんな顔してるから。ひょっとしてロゼの体になったこと、気にしてる?」

「……実は、ずっとこの体ならいいのにって思った。ロゼの体なら、ミクリオ様たちもずっと視えるから。恥ずかしいな、私は」

 

 スレイは痛ましげにアリーシャを見つめてきた。こんな弱いアリーシャを、スレイは嘲るでも見下すでもなく、対等に見つめてくれる。

 そんなスレイだから――

 

「こんなズルじゃなくて、ちゃんと魔法使いになって、スレイの本当の従士になるんだ。それが私の今の目標」

「……アリーシャはすごいね」

「私が?」

「すごくて、えらい。うん、オレもがんばんなきゃな!」

 

 スレイは勇んで歩くスピードを上げたので、アリーシャは小走りで付いて行かねばならなかった。

 

 

 

 

 遺跡の最奥まで辿り着き、コタローらは身構えた。小規模な竜巻が現れたからだ。

 

 コタローはすぐさま「(パワー)」と「(ファイト)」のカードを出した。

 経験上、見た目は竜巻でも本性は怪物なのだと、スレイらとの旅で嫌というほど学んでいた。

 

「我に纏い我と共に戦え。『(パワー)』! 『(ファイト)』!」

 

 闘士としての力をまとうなり、コタローは小竜巻に向けて拳を突き出した。拳が固い感触にぶつかった。痛みはあるが、腕力が増しているから敵にもダメージはあったはずだ。

 

「やっ、はっ、ふ――たあ!」

 

 連続して正拳と蹴りを小竜巻に叩き込む。

 

「コタロー! そいつ、盾と剣持ってる! 斬撃に気をつけろ!」

 

 まさに小竜巻からカマイタチが降ってくる気配があった。コタローは全身のバネを総動員してしゃがんで避けた。

 

「すご……本当に視えてないのか?」

 

 視えてはいない。だが、体術において虎太郎には最高の指南役が付いていたのだ。彼女直々の拳法が、視えないからといって通用しないわけがない。

 

 コタローが拳を揮っていると、スレイが加勢しに来た。

 スレイもまた儀礼剣で小竜巻に斬りつける。時には冷たい波動を感じた。これはミクリオの天響術だろう。

 

「くそっ、パピーより強いぞ、こいつ」

「みたいですね」

 

 コタローはぐい、と汗を拭い、すぐさま攻勢に戻った。

 

 

 

 

 アリーシャは槍を構えながらも、ためらっていた。

 

 これはロゼの体だ。無理に挑んでロゼの体に傷をつけてしまったら。万が一にも死なせてしまったら。

 

(敵に傷つけられないくらいの防御力と攻撃力を持つことができれば)

 

 思い切った。アリーシャは隣で紙葉を投げるライラを呼んだ。

 

「ライラ様、おっしゃいましたね。ロゼの体なら神依も可能だと」

「言いましたが……まさか、アリーシャさん!?」

「はい。お願いします、ライラ様。スレイを助ける力を、一時でいい、私にお与えください」

 

 ライラはそれなりに長い時間、目を伏せていた。アリーシャは急かしたい気持ちを我慢して待った。

 

「――わかりましたわ。今一時、特別ですわよ」

「はい!! ありがとうございます!」

 

 ライラがアリーシャに身を寄せ、耳元で何かを囁いた。

 

「唱えてください。そして、私の力を身にまとい、剣と揮ってください」

 

 アリーシャは槍を捨て、ドラゴニュートと戦うスレイとコタローへ駆けた。

 

「『フォエス=メイマ』!!」

 

 ――体の奥から灼熱が身を焼いた。

 

 

 

 

「『フォエス=メイマ』!!」

 

 自分以外が呼ばないはずのライラの真名に、スレイは驚いてふり返った。

 

 アリーシャの――ロゼの体が造り替わっていく。

 赤毛は金に染まり長く伸びたテールとなり、目は赤く。衣は白と緋色となったが、リボンと露出のあるデザインはスレイと異なる。手には燃え盛る聖剣。

 

「はあああっ!!」

 

 彼女は高く跳び、上から聖剣をドラゴニュートに斬り下ろした。

 

「アリーシャ!」

「スレイ。私も君と共に戦う。今だけだとしても。今度は君を独りにしない!」

 

 アリーシャは再び聖剣を揮ってドラゴニュートを斬った。

 

「……彼女に気を遣わせてばっかで。情けない導師だよな、オレ」

「ライラも言ったろ。君は君らしく答えを出せって」

 

 隣に立ったミクリオは、アリーシャの神依に反対していないようだった。

 

「ああ。頑張んないとって言ったばっかだもんな。ミクリオ!」

「ああっ」

「『ルズローシヴ=レレイ』!」

 

 スレイもまた青い神依をまとい、アリーシャに加勢すべく駆け出した。




 ついにやったあああああ!!!!
 やってやりましたよ、アリーシャの神依化。これがやりたくてTOZに手を出したと言っても過言でない、アリーシャの神・依・化!
 初体験はリード慣れいてそうなライラで。

 文章で表現するのって難しいんですね。人格の入れ替わり。
 皆さん、地の文ではアリーシャと書きましたが、これ、体はロゼですよー?

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