CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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あるのは必然だけ

 結局、入れ替わったアリーシャとロゼが元に戻るまで、という条件で、コタローらは暗殺ギルド「風の骨」への滞在を許された。

 それを言ったのがアリーシャの体のロゼだったので、かなり違和感に悩まされたが。

 

 

 そして、ロゼの体のアリーシャは、まさにスレイの座るベッドの隣に座っている。

 

「すまない。迷惑をかけてしまって」

 

 暗殺ギルドのコスチューム。赤毛。空色の瞳。声。何もかもがアリーシャ本来と違う。

 

「いいよ。アリーは『(チェンジ)』を捕まえてくれた。だから封印できたんだ。封印できないまま入れ替わってたら一生そのままだったよ」

「そ、それは困る」

「そうだよ、困る!」

「……導師さんが困る理由の心当たりがないんですが」

「と、とにかく! 1日経ったら戻るんだよな?」

「はい。『(チェンジ)』の魔力がそのくらいで弱まるんで。そこでこう、アリーがロゼさんとガシッ! と抱き合ってる間に、おれがカード使って元に戻します」

「抱き合うって何それオレ聞いてない」

「導師さん、落ち着いて。女の子同士です」

 

 くすくす。明るい少女の笑い声がして、コタローもスレイもそちらを向く。ロゼが、否、アリーシャが笑った声だった。

 

「あ、すまない、つい」

「……まあ、いっか。ところでさ、アリーシャもコタローも、どうしてあの時、戦場にいたんだ? 捕まったって聞いてたのに」

 

 コタローはアリーシャと顔を見合わせた。

 

「長くなりますよ。端折れるとこ、ほぼないですから」

「いい。聞かせてくれ」

 

 コタローは「その時」の様子を回想しながら語り始めた。

 

 

 

 

 

 「(スノウ)」を封印後、羅針盤の示した方向はレディレイクだった。レイクピローへ行く時に通りかかったのに、その時に反応しなかったのは何故かが引っかかったが、とにかくアリーシャとコタローはレディレイクに向かった。

 

 だが、レディレイクの地に足を踏み入れることは叶わなかった。

 都へ続く大橋の上に、ずらりと兵士が並んで、進入を拒んだのだ。

 

「これは何の真似だ」

 

 一番前にいた兵士が、紙を出してそれを読み上げた。

 

「アリーシャ殿下。導師を利用した国政への悪評の流布と、ローランス帝国の進軍を手引きした疑いにより、御身を拘束いたします」

 

 愕然として言葉もないアリーシャは、怒って、怒って――ふうっと突き抜けた。

 

(スレイを使用した? ローランスを手引きした? バルトロも、よくもまあそこまででっち上げたものだ。そんなに私が憎いか。そんなに私が目障りか)

 

 

「いいだろう。拘束でも逮捕でもすればいい。どうせ何も出てきやしないんだから」

 

 いつもの自分とは思えない、刺々しい声が出た。きっと目つきも過去最高に悪い。

 

(ああ。こんな騎士らしくない態度じゃ、きっとマルトラン師匠(せんせい)に怒られてしまう)

 

 兵士が両脇を固めて、槍をアリーシャの前で交差させた。罪人を連行するやり方だ。

 

 アリーシャが兵士に連れて行かれようとした、まさにその時だった。

 

「待ってください! 連れて行くならおれも連れて行ってください!」

 

 兵士に制止されてもがきながらも、コタローははっきりそう言ったのだ。

 

「おれは彼女の私的な友人です。何度も密会しました。容疑としては充分でしょう? おれは、彼女から、絶対、離れない!!」

 

 兵士の一人が、業を煮やしてか、鎧を着けた手でコタローの頭を殴った。コタローは抵抗を失い、橋の上に倒れ伏した。

 

「コタローっっ!!」

 

 アリーシャの中で突き抜けた怒りが復活し、何かが切れた。

 

 持っていた槍を振り回し、兵士を追い払う。懐から「(スノウ)」のカードを出し、槍を突き立てた。

 

「吹き荒べ! 『(スノウ)』!」

 

 カードから白い雪女が現れ、アリーシャを中心に吹雪が巻いた。兵士らが吹き飛ばされ、中には橋の手摺にぶつかった者もいた。

 

 アリーシャはそれらを避けて走り、コタローを助け起こした。

 

「彼に……私の友に何かしてみろ!」

 

 アリーシャは兵士が落とした剣を首筋に当てた。

 

「この場で死んでやる」

 

 苛烈に兵士らを見据えれば、兵士らはどれもがたじろいでいた。

 

 彼らが受けた命令は「処刑」ではなく「連行」だ。連行対象であるアリーシャが同国の兵に殺されたように見せかければ、少なからずバルトロの立場も悪くなるだろう。

 

「さあ、どうなんだ!!」

「わ、わかりました! その小ぞ……いえ、少年も、アリーシャ殿下ともども連行させていただきます!」

 

 

 

 

 

「そこでおれとアリーは牢屋行き。二人一緒で身体検査もされなかったのが功を奏しましたね。おかげで『撃』(こいつ)を見つけられたんですから」

 

 

 

 

 コタローが目を覚ましたのは薄暗い牢の中だった。

 

「う……」

「大丈夫?」

 

 不安げにコタローを見下ろすアリーシャを、これ以上不安がらせたくなかった。

 

「ってぇ~。これ絶対たんこぶ出来たって」

 

 コタローは頭を押さえながら起き上がった。両手を開き握り、立ち上がって足を曲げ伸ばし。

 

「うん。他は異常なし」

「よかった」

「うん。――アリー、兵隊に何か言われた? それともあのジジイでも来た?」

「何で、そんなこと」

「顔見ればわかるよ。で、どうなの?」

 

 アリーシャは憂い深く、顔を背けた。

 

「スレイを、ローランスとの戦争に出すと言っていた。ハイランドを勝たせなければ私を拘束し続けるという名目で」

「人質――?」

「有体に言えば。――せっかく離れたのに、また私はスレイに迷惑をかけるのか」

 

 ぽつ、ぽつ。

 笑顔なのに、アリーシャの目からはとめどなく雫が落ちた。

 

「泣いてる場合じゃないな」

 

 アリーシャは手の甲でぐしぐしと両目の滴を拭った。

 

「スレイを助けないと」

「『(パワー)』を使えば鉄格子を壊して外には出られる。あとは適当な場所で『(フロート)』に乗ってグレイブカント盆地へ向かえば」

 

 そこでコタローは顔を上げた。

 

「――さくらカードの気配だ」

 

 驚くアリーシャの前で、コタローは羅針盤を展開した。

 羅針盤の光の線は、牢の中の壁を指している。

 

 コタローは並べたさくらカードの内、「(パワー)」を取り上げて発動させた。

 

「ふ――はっ!」

 

 「(パワー)」で強化された拳で、壁を全力で殴った。

 石の壁にひびが入り、一部の石が崩れて落ちた。

 壁の中に、カードは埋まっていた。「(ショット)」。狙った対象を当たるまで攻撃し続けるカードだ。

 

「こんなところにあったなんて――」

 

 コタローはそっと「(ショット)」を壁から抜いた。

 

(たまたまおれたちが入れられた牢の中で、さくらカードでも使わなきゃ取れない壁の中にあった。これは偶然? いや、ここまで揃ったら、必然なのかもしれない。このカードで導師さんを助けろっていう、必然。ならその必然を誰に託すか)

 

 コタローはアリーシャをふり返り、「(ショット)」をアリーシャに差し出した。

 

「私に?」

「おれには『(アロー)』がある。アリーは嫌かもしれないけど、戦場に行くなら攻撃手段は必要……だと思う」

 

 アリーシャは戸惑い気味に「(ショット)」を受け取り、硬い顔をして肯いた。

 

 ぱん! コタローは自分の手の平に拳を打ち込んだ。

 

「それじゃあこの檻から出るとするか」




 xxxHolicの名台詞ですね。「この世に偶然はない、あるのは必然だけ」。結構好きな台詞です。

 姫君なのに牢に入れられても心配するのは導師様のこと。
 従士反動の話が出るまでは王道を突っ走ってたはずなのに、原作はどうしてああなったorz

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