CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
マーリンド浄化の最後の仕上げとして、コタローらは近くの森を訪れ、そこを棲み処にしている憑魔を浄化した。といっても、コタローにできたのは、後ろで「
浄化した、と思ったのに。
プランツ憑魔はしぶとく起き上がり、ちょうど背を向けていたスレイを狙って枝を伸ばした。
そこをアリーシャが飛び出してスレイを庇ったのだ。
「アリーっっ!」
コタローは地面に転がったアリーシャを抱き起こした。
「よくも!」
スレイは赤い神依をまとって駆け、プランツ憑魔を聖剣で一刀両断した。今度こそ浄化完了だ。
「アリー、アリー」
「アリーシャ!」
アリーシャにどこからか治癒の力が注ぎ込まれているのを感じる。天族の誰かが治療してくれているのかもしれない。
倒れたアリーシャを、スレイは立ったまま見守っている――見守っている?
「いや……オレがぼーっとしてたから……」
脈絡のないスレイの言葉。また天族と話している。今回に限って、コタローに聞こえないのをいいことに。
「……わかったよ」
この時、コタローに降りたものがあったとすれば、それはまさしく天啓と呼ぶべきものだった。
マーリンドに戻り、各々が宿で眠りに就いた夜中を見計らい、コタローはアリーシャをそっと起こした。
「コタロー?」
「話があるんだ。外に出て」
「……わかった」
アリーシャは髪も結わず鎧もまとわず、コタローに付いて来て宿の外へ出た。
「単刀直入に言う。導師さんは今、目が視えてない」
「! どうして」
「多分、アリーがいるから。アリー、従士になる契約をした時、導師さんに何か対価を渡した?」
「い、いや、何も。……その、せいで?」
「恩恵には相応の対価を。元々天族がわからなかったアリーが、導師さんの従士になってわかるようになった。これの対価をアリーは払ってない。憶測だけど、アリーの目と耳は多分、導師さんからの供給か何かで保ってるんだと思う」
「私が何も代償を支払わなかったから、スレイが私の代わりに視力を失った……」
さわさわ。
ばさばさ。
風に麦穂色の髪が、白いコートが、はためき揺れる。
「……ありがとう、コタロー、教えてくれて。ちょっと一人で考えさせ」
「ストップ」
歩き出そうとしたアリーシャの手首を、コタローは強く掴んだ。
「アリー、導師さんに付いてくの諦めようとしてるでしょ」
「だってそうしないと、スレイが代わりに傷つくなんて、私……!」
「落ち着いて、アリー。これについては、黙ってた導師さんも、アリーを従士にしたライラさんも悪い」
「そんなことあるものか! 私が、私の力不足がいけないんだ」
「うん。だから、力をつけよう」
アリーシャが戸惑いがちにコタローを見返した。
コタローは笑い返した。
「アリー。魔法使いになる気はある?」
夜が明けて。マーリンドを出る前に加護天族ロハンに挨拶しに行ったほうがいい、とライラが言ったので、スレイらは街の中心にある大樹へ向かった。
大樹の広場に着くと、アタックもいてライラに飛びつこうとしたが、これまた華麗に避けられた。
「少しずつだが、大樹に祈りを捧げる人間も戻って来た。俺も頑張ってみるよ」
「よかった。これで安心して旅立てる」
これからまた旅を始めるのだ。ミクリオと、ライラと、エドナと、コタローと――そして、アリーシャと。スレイはそう信じて疑わなかった。
「私は残る」
アリーシャがはっきりとそう宣言するまでは。
「――、え?」
「昨日の戦いでわかったんだ。私がスレイの足手まといだって。だから今は、私はスレイのそばにいないほうがいい」
「……アリーシャ。まさか、契約の反動のこと」
「導師さん」
悲しげに目を伏せるアリーシャに代わり、コタローが口を開いた。
「アリーは知ってます。従士契約の代償。おれが教えました」
「な…っ」
スレイはコタローに掴みかかりたかった。
これからずっとアリーシャも一緒に旅をしていくのだと思っていたのに。こんなのはあんまりではないか。
「アリーシャは足手まといなんかじゃない! オレはアリーシャがいたから外の世界に出て、導師になれたんだ。アリーシャがいない旅なんて考えられないよ。代償なんてオレがどうにかする。みんなで探せばきっと何かいい方法が見つかる。だから」
「方法ならもう、見つけたんだ」
言い切ったアリーシャは晴れやかだったから、スレイはますます混乱する。
「コタローのさくらカード探しを手伝おうと思うんだ。そうすれば霊応力も上がって、スレイにだけ負担をかけない従士になれるんじゃないかって、コタローが」
アリーシャは傍らのコタローを向いた。
「アリーは導師さんと手を繋いだだけで声を聴ける程度には素質アリなんでしょう? ライラさん」
「確かにそうですけれど……」
ライラが戸惑いがちに答えるが、コタローの目はライラを向いていない。コタローには天族も憑魔も視えないのだった。
「アリーはおれが責任持って一人前にします。導師さんと二人でいても大丈夫なように」
「だから、スレイ。その、君には迷惑かもしれないが……私、君を追いかけても、いい、かな?」
アリーシャはスレイと共にいるためにあえて今、別離の道を選ぼうとしている。
自責からではなく、スレイの傍らにある未来を見据えて。
こんなに喜ばしいことがあるだろうか。
「当たり前だよ!! オレ、待ってるから! ううん、オレも強くなるから! また一緒に旅しよう、絶対!」
「よかった。そう言ってもらえて。うん。これで私、頑張れる」
アリーシャは、スレイが真名にしたほどの、美しい笑顔を浮かべた。
はいここからちょーっと原作と変わった展開になっていきますよー。
といっても、離脱したアリーシャ・コタロー視点で話が進むというだけですが。TOXのジュード編・ミラ編みたいなものです。
アリーシャの「レリーズ!」が聞きたい人、挙手。