CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
彼には、名前が二つある。
父が中国人、母が日本人でハーフである彼は、家族内では日本名で呼ばれることを望んだ。その通り、姉と兄と妹、両親に留まらず、中国人である4人の伯母と祖母でさえ、虎太郎を「虎太郎」と呼んで接してくれた。
だからこの異世界――グリンウッドに落ちた時に、初めて会ったアリーシャにも、とっさに「コタロー」と名乗った。
名乗るだけに留まらず、愛称を呼ぶまでの友達になれるとは虎太郎も思わなかったが。
『ねえねえ、
『虎太郎兄は硬い~。いいじゃん、ちょっとくらい』
『わたしも……実は見てみたかったんだ。お父さんとお母さんが出会ったきっかけ』
『大丈夫だ。何かあっても俺とつばさ姉さんがいれば何とかなる』
『柊一兄は話がわかる~♡』
本当にただの好奇心だった。姉と兄と妹ほどではないが、虎太郎も母が幼い頃に統べた「さくらカード」の実物を見たかった。
(それがあんなことになるなんて)
回想し、虎太郎は、祭りに沸く都の路地に似合わない憂鬱な溜息を落とした。
『お前たちには、散らばったカードを集めてもらう。行く先は――こことは異なる世界だ』
父のあれほど厳しい声を初めて聞いた。同席した姉も兄も妹もそうだったようで、妹など涙目だった。
『占いによると、カードは4つの異次元に飛び散った。お前たちは一人ずつ4つの異次元に進入して、さくらカードを封印して持ち帰るんだ』
さくらカード封印の役目を課されることは十二分に想像できた。百歩譲って異世界に行くことも許容範囲だった。
だが、産まれてからいつもきょうだい4人でいたものを引き離されるとは、虎太郎は思いもしなかった。
(父さん、ひょっとしてカードより、おれたちのきょうだい離れ狙って一人ずつ行かせるなんて真似したのかも)
仲良しきょうだいの自覚はあった分、自説を否定できない木之本虎太郎(16)であった。
虎太郎は白いコートをめくった。裏地は、父が若い頃に着ていた式服の布を使ったものだと、この服を仕立ててくれた母の親友から聞いた。
そのコートの内ポケットから、手持ちのさくらカードを取り出す。
「
「
続けて「
「
(だってアリーは女の子だし、男のおれが寝食共になんて恥ずかしがるかもしれなかったし。おれも行く! って言ってイヤがられたら、おれ、立ち直れる気がしない)
ここまで想うのだから、虎太郎はアリーシャに一目惚れでもしたのかと自問自答したこともある。
答えはNOだった。
虎太郎はアリーシャを抱き締めたいとかキスしたいとか、全く思わなかった。
ただ、カードを封印するたびに、目を輝かせて虎太郎の話を聞いてくれるアリーシャが、嬉しかった。
そのアリーシャが主催する祭りが、ここ、レディレイクの都で今日行われる。
聖剣祭。
聖堂の台座に刺さった剣を抜けた者は、湖の乙女の加護を受け、世界を破滅から救う導師になれる、という、どこかで聞いたような話そのままの祭りだ。
虎太郎は聖堂まで行くと、気負いなく聖堂へ入った。虎太郎の持ち物はどれも武器とは呼べないものばかりだから、兵士に預ける必要もない。
「――ディレイクの人々よ。この数年、皆が楽しみにしていた聖剣祭も――、――」
剣の台座が見える場所まで急いで移動する。この声の主を虎太郎は知っていた。アリーシャの槍の師匠である、騎士団顧問のマルトランだ。
マルトランの前口上が終わり、いよいよアリーシャが話し始めた。
虎太郎にとっては慣れない、「王女」としてのアリーシャの声、言葉、姿。
慣れないが、同時に頼もしいとも感じる。民衆も同じなのか、アリーシャが言葉を終えると拍手が起きた。
「湖の乙女よ。我らの憂い、罪を、その猛き炎で浄化したまえ」
アリーシャが投げ込んだ祭具が、緋色の炎を一層燃え上がらせた。
もしここに本当に湖の乙女がいるなら、虎太郎は、アリーシャの民を思いやる切なる心が届くようにと、そっと願った。
言い忘れてました。カードはアニメ版ですので種類が多いです。
そしてタグの「オリ主×テイルズキャラ」ですが、虎太郎編ではアリーシャはあくまで友達です。
アリーシャがヒロインになれるよう話を運んで行きたいと思っています。