CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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ヴェラトローパに棲むモノ

 ホーニャンのヴェラトローパ調査に当たり、アンジュが選抜した同行者はキールとジュディスであった。

 キールは新旧東西を問わない豊富な知識で、ジュディスは無機物から情報を読み取るナギークの力で、それぞれ遺構の探索に向いているとの判断である。

 

 仰々しい天空城の外観をしたヴェラトローパまではバンエルティア号で浮上し、ギリギリに横付けしてから、ホーニャンたちはヴェラトローパに降りた。

 

(ここが、“ヒトの祖”が今の人類になるその最後まで過ごした場所――)

 

 ホーニャンはキールとジュディスに呼びかけ、さっそくヴェラトローパの探索を始めた。

 

 あちこちにある豊かな水源、萌える芝生、青々と茂る木々。とても何千年も前の遺構とは思えない保存状態だ。

 

「わああっ、すごーい! ケロちゃん、床のステンドグラスの向こう、お空だよ! おー、リアルラピュ……」

「ホーニャン、ホーニャン。それ以上あかん」

 

 一区画進むごとに、ホーニャンたちは壁画と出くわした。

 壁画にはルミナシア人であるキールやジュディスも知らないことが描かれていた。

 

 世界樹の仕組み、創世のプロセス、生命体の発生と設計、ソウルアルケミー、ヒトの祖が理想とした生き方――

 

 “本来のディセンダー”の定義と、ホーニャンがいかにその予言から外れたディセンダーなのかも記してあった。

 不安を覚え始めたホーニャンを知ってか知らずか、ジュディスが確認のキーワードを述べていく。

 

「予言とは異なり世界樹から生まれなかったディセンダー。もしかしたら、それほどに世界樹が衰えているということなのかしら」

「衰えている? どういう意味だ、ジュディス?」

「本来ならディセンダーは世界樹が“生み出す”存在。なのに、よその世界からすでに人格が確立した個人をルミナシアに招いた。そのくらいに、世界樹は限界なのかもしれないということよ。世界樹にはもう何かを“創造”するだけの余力はないのかもしれないわ。その原因はまぎれもなく――」

「現在のヒトの営みがルミナシアにとって良くない方向だから、か」

 

 答えたキールの声に悲壮感はない。むしろ前向きな決意を感じさせた。

 

「現状を改善するためのオルタ・ヴィレッジだ。ぼく達の着眼点は間違っていなかったんだ。これからより世界を良くしていくように、もっともっと構想を練らないと」

 

 そうだった、とホーニャンは安堵と共に思い出した。

 ホーニャンがやると決めた“ディセンダー”はただの救世主ではない。世界を良くしていこうとするヒトたちの介添人だ。

 

 壁画を全て観終わったホーニャンたちだが、ジュディスが宮殿のさらに奥の調査を希望したので、探索は続けられた。

 

 宮殿の最深部、見晴らし台に出て、ホーニャンたちは“それ”に出会った。

 

 ポッキー箱サイズのブリキのロボットが、ふよんふよん、と浮いている。それだけに留まらず、電子的な音声を発した。

 

『そなたらは、ルミナシアの民か』

「しゃ、しゃべった!?」

「あなたが、“創世を見届けし者”?」

『我々はニアタ・モナド。ディセンダーの介添人として、肉体を捨て、機械に宿った精神集合体だ』

 

 ニアタと名乗った機械体は語った。

 彼らはかつてパスカという異世界のディセンダーに仕えていたが、そのパスカは世界の寿命を迎えて滅びた。朽ちない機械の体を持つニアタは取り残され、多くの異世界を放浪した。その放浪の中で、彼らはルミナシアの種子を見つけ、ルミナシア創世を見届けたという。

 

 ここに留まっているニアタは端末の一つで、本体は別世界にいると聞いて、キールが何故わざわざ端末を残したのかを尋ねた。

 

『我々には誓いがある。世界に危機訪れし時、そこに住む民に力を貸す、と。ディセンダーよ。そなたが生まれたというのなら、今がその時なのだな』

 

 李(ホー)(ニャン)は正確には世界樹から産まれた者ではない。異邦から次元移動してきただけの、ただの魔法使い見習いだ。

 だが世界樹は、それだけでしかないホーニャンに、ディセンダーという使命を託した。

 だから、ホーニャンはニアタに対して首肯した。

 

「この世界に封じられていたもう一つの世界。あなたは見ていたのでしょう? それがこの世界に現れたの。一人の人格と姿を得て」

『なるほど。“生命の場”を持たない情報だけの存在が、この世界の生命力を得て、姿を持ったのだな』

 

 ニアタの解説する所によると――

 世界樹の種子には実体がなく、ただ二つだけの要素を持つ。

 生命を生み出す中枢の“生命の場”。

 芽吹いてからどのような世界を構築するのかの“情報”。

 ルミナシア流に言うなら、ドクメントだけの存在だったラザリスの世界は、ルミナシアの民の「願いを叶える」という行為によってエネルギーを得て、ラザリスという一少女を世界の体現者として構成した――ということらしい。

 

「頭ぐるぐるするよ~」

「しっかりせえ、ホーニャン。ディセンダーがんばるんやろ? せやったら理解せんとあかん」

「う、うんっ」

 

 その直後、全身の毛が逆立った。

 ホーニャンはジュディスの剥き出しの腰にタックルした。二人がもつれ合って床に転がったその上で、ジュディスが立っていた位置を赤いレーザーが奔り、ニアタを粉々にした。


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