CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
やさしい ヒト だった
やさしい カレ を コロしたのは 戦争 というものだと きいた
ならば 戦争 に 『眠り』 を
戦争 に まつわる すべて に 『眠り』 を
…
……
…………
ホーニャンはバンエルティア号の自室のベッドの上で、むにゃ、と目を覚ました。
起き上がる。ケルベロスは枕の隣でまだ寝ている。
しばし、ぼーっと虚空を見つめた。
「――今のは誰の夢?」
「夢?」
ホーニャンは食堂で朝食のトーストをもさもさと齧りながら、ケルベロスとカノンノに今朝の“夢”について打ち明けた。
「そう。夢。カノンノのスケッチほど頻繁にじゃないけど、あたしも、自分が知らないはずのこと、夢で受信しちゃうことがあるの」
覚めきらない頭のまま、また一口、トーストを齧った。
「わいらの世界やと夢は大事なもんなんや。特に力のあるもんの夢は予知夢や遠見である可能性も高い。ホーニャンの母親も、カードキャプターしとる時期は何度も夢にカードのこと見てんねん」
「へー。じゃあその夢もさくらカードのこと?」
「たぶん……」
「どうしたの? 元気ないね」
「んー、だいじょーぶー。まだ半分寝てるだけー」
するとカノンノは席を立ち、ホーニャンの横まで来て、額と額を重ねた。
「熱はないみたいだけど。医務室でアニーに診てもらったほうがいいんじゃない?」
「へーきへーき。それに今日見た夢のことも調べに行きたいし」
「本当に大丈夫?」
「うんっ」
今日のホーニャンがクエストカウンタで受けた仕事は、一つの怪事件の調査だ。
アンジュの説明によると、内紛や小競り合いが起きた地帯で、開戦から間もなく兵士がその場で昏睡するという事例が各地で相次いでいるという。地域や規模に法則性はなく、敵味方の区別もない。共通しているのは、兵士たちの「何故かみんな眠ってしまった」という症状。
そしてホーニャンはケルベロスと共に、とある紛争地帯に程近い山の上でバンエルティア号を降りた。
「アンジュさんに貰った地図だと、この山を回り込んだらちょうど土地がよく見える丘に出るみたい」
「領地争いでピリピリしとるらしいさかい、あんじょう気をつけるんやで」
「わかってるよ。さくらカードか例のラザリスって子絡みか知らないけど、今度は逃げ出したりしないんだからっ」
「その意気や良し! わいも付いとるさかいな」
「うん!」
――この時まで、李红娘はルミナシアに対して一種の夢を見ていた。
――ルミナシアで生まれ育ったわけではなく、何より「世界を良くしていこう」という思想の人間ばかりが集まったアドリビトムを最初の居とした。
――世界の醜さを直視する機会についぞ恵まれなかった少女は、ルミナシアが救うに足る美しいセカイであると信じて疑わなかったのだ。
地図指定のルートを辿って、問題の土地が俯瞰できるという丘の下に出た時だった。
ホーニャンの耳に金属がぶつかり合う音と、喧噪が、わずかに聴こえた。
ホーニャンは丘を駆け上がって突端に立った。
見て、しまった。
地平線の彼方まで、色の違う甲冑の兵士と兵士が斬り合っている。剣や槍がぶつかる音は絶え間なく。矢の雨は降り止まず。火を点けた岩が投石器から放たれては、兵士たちを薙ぎ倒して燃え上がる。むせ返りそうに濃密な血臭と煤。耳をつんざく恨み辛みの怒号――
戦争、だった。
本や映像の中でしか観たことのない、元の世界で生きていればきっと直視することのなかった、本物の「戦争」だった。
――おかしなことではちっともない。
どんな危難であろうが「敵」と「味方」という区切りはなくならない。「みんな」が隔てなく「味方」になることは100%ない。それがヒトという種ではないか。むしろ何故、ルミナシアのヒトがそうではないと思い込んでいた?
ホーニャンはその場に膝から崩れ落ちた。
「ホーニャン! しっかりせえ、大丈夫か!?」
(イヤだ。見ていたくない。聞きたくない。ここから逃げたい!)
嘔吐しかけた時、戦場に、まるでさざ波が寄せるように変化が起きた。
兵士たちが次々と倒れていく。敵兵と鍔迫り合っていようが、ふつりと糸が切れたかのごとく軸を失って昏倒していくのだ。
ただでさえ場に当てられてホーニャンは、眼下の光景の不可解さに対してアクションを起こせなかった。
やがて広い荒野にいる兵士で、倒れていない者は一人もいなくなった。
「何が起きたって、いうのよ……」
するとケルベロスが白い羽根を大きく広げて、真の姿へ転じた。
「ケロちゃん?」
『乗るんや。わいが飛んで連れてったる』
「
ホーニャンはケルベロスにしがみついて立ち上がり、背中にどうにか跨った。
『こないなことできるんは、
「
『せや。けど
そこでホーニャンは今朝見た夢を思い出し、眼下の眠れる戦場を見下ろした。
「ケロちゃん。カードたちは、お父さんお母さんみたいな魔術師じゃなくても、何かの拍子に魔力がない普通の人にも懐くことがあったんだよね?」
『ああ。例えばお前さんが持っとる
「うん。もしかしたら、
『ありえん話やないな。、
やさしい ヒト だった
やさしい カレ を コロしたのは 戦争
「……き、ない……できない!」
視界が涙で滲んでいく。
『ホーニャン?』
「だって、
『落ち着け! みんな寝たまんまでええんか!』
「起きたら殺し合うじゃないッ!」
ホーニャンがそれ以上の言葉を叫ぶ前に止めたのは、視界をよぎった青い鱗粉だった。
気づけば、ホーニャンたちの手の届く距離に、
長い――本当に長い葛藤をした。
ホーニャンはゆっくりと薄羽の髪留めを前髪から外した。
「星の力を秘めし羽よ、真の姿を我の前に示せ。契約の下、
ホーニャンは星のロッドを握り、正面に浮かぶ、
「汝のあるべき姿に戻れ……っ、さくら、カードッ!!」
小さな妖精の姿が桜色の魔力へとほどけ、ロッドの先端にカードの形で結び直された。
ホーニャンは、
地上では、、
「
華やかな踊り子がカードから現れ、ホーニャンの命に従って、芳しくささやかな蓮華座を振り撒いた。
最初こそどの兵士も散華するそれらを気に留めなかったが、ハスが足の動きを邪魔する高さに達し、強い芳香に息苦しさを感じるようになれば――とても、殺し合いなどできる状況ではないと、誰もが徐々に思い始めたのが、手に取るようにわかった。
程なくして兵士たちは二つのグループに分かれて撤退し、ついには完全にこの場を去った。
ホーニャンはケルベロスに頼んで、無人の荒野に降り立った。
ケルベロスはホーニャンを背中から下ろすと仮の姿に戻り、気遣わしげにホーニャンを呼んだ。
ホーニャンはレッグホルダーから
「ねえ、