CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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原初の番人

 ホーニャンはブラウニー坑道の10層目まで下りてきていた。

 

 目の前は行き止まり。封鎖されているのだ。――メルディやジェイが言っていた。この先には金髪の男の“幽霊”がいて、星晶(ホスチア)を採掘しようとすると災厄を起こす、だったか。

 

 ポケットから魔法符を取り出した。

 

「雷帝招来。雷撃」

 

 雷が走り、正面の岩壁を砕いた。その向こうには坑道が続いていた。

 ホーニャンは迷わず先へと進んだ。

 

 下りていく。どこまでも下へ、下へ、下へ――誰も追って来られないくらいに、深く。

 

 不意に青白いものが視界を掠めた。

 

「――?」

 

 青白いそれは松明だった。

 松明に照らされて茫洋と浮かび上がるそこは祭壇だった。

 何となしに理解した。塞がれた10層目より下の坑道は、あそこに至るための道を只人から隠すためだったのだな、と。

 理解した上で、ホーニャンは祭壇を目指した。

 

 暗闇に足元を見失って躓くのも、段差の目測を違えて転がり落ちるのも、ここに来るまでで慣れた。

 そうして泥だらけのすり傷だらけになって、ホーニャンは祭壇に辿り着いた。

 

 祭壇に上がると、赤と青の光が螺旋となって、光の中に()()が現れた。

 

『去れ。幼き魔法使い』

 

 魔人は開口一番にホーニャンの来訪を拒絶した。

 

『お前はまだここに来るべき時を迎えていない』

「………いや」

『なに?』

「いや…だよ…だって…帰ったら、あたし…ディセンダーに、されちゃう……」

 

 

 救った者への責任の所在。

 誰かを救うことは、とてもとても重いこと。

 李(ホー)(ニャン)には重すぎて果たしきれないもの。

 

 

「あたしッ!! 世界なんて、背負えない!! 『審判』も失格でいい! うちに帰して! あんな目で見られるくらいなら、もうこの世界の誰にも会いたくない! ここで終わりにする!」

『――それがお前の答えか』

 

 魔人の背中に四つの魔法陣が光り刻んだ。

 あの魔法陣から放たれるレーザーは間違いなくホーニャンを焼尽せしめるだろう。だがホーニャンはそれをちっとも恐ろしいと思えなかった。“ディセンダー”という、できもしない重責を担わされることに比べれば、体の痛みも命の喪失も大したことではないと――本気で、思っていた。

 

『ならば望み通り終焉をくれてやろう』

 

 四つの魔法陣がレーザーを放った。

 

 

現在(いま)という永遠の刹那に! 響け! ラブ・ビート!」

 

 

 真紅の魔法陣が足元で光り刻んだ。花びらの形をした刃が、ホーニャンを守るように囲んで噴き上がった。

 

『ホーニャン、無事か!』

「ホー!!」

「ケロちゃん……カノ……」

 

 真の姿に戻ったケルベロスが、カノンノを乗せ、祭壇に降り立った。

 カノンノはケルベロスの背から降りると、まっしぐらにホーニャンに抱きついた。

 

「カ、ノ?」

「心配、した……心配、したんだからぁ……! ~~~っっ」

 

 カノンノが泣いている。あの強いカノンノが、ホーニャンのために泣いている。

 抱き返すことはできなかった。

 

「ホーがディセンダーでもそうでなくても、ホーはホーだよ! わたしの友達だよ! わたしの絵を見てくれたり、一緒にロックスのお菓子を食べたりしたホーは、ディセンダーだからって無くなったりしないよ」

「……ぁ……ぅ」

 

 ホーニャンは今まで内へ内へと押し込んでいた気持ちを一息に解き放った。

 

「わああああああん!!」

 

 こわかった。救いによって生じる責任が重いことを漠然と知った。それを世界規模でやるのがディセンダーの義務だと突きつけられて、途方もなくこわいことをしなければいけなくなったのだと思い込んで、こわくなった。だから、どんな形でもいいから「こわいこと」から逃げ出したかった。

 

 ――そんな感じのことを泣き喚きながら言い連ねた。

 

 ぐす、と最後に一つ鼻を啜って、ホーニャンはようやく泣き止むことができた。

 

「カノ、ごめんね。迷惑かけて」

「ううん。無事でよかった」

 

 カノンノの二度目のハグ。今度はホーニャンも抱き返して応えた。

 

 そうしてから、カノンノと離れて、魔人と向き合った。

 本当ならここには、ルミナシアに散ったさくらカードを全て集めてからでなくては来てはいけなかった。そのルールをホーニャンは破った。

 何事もなく、いや、せめてケルベロスとカノンノだけでも何もしないで地上に帰してもらわなければ――

 

『迎えも来た。疾く去れ。最後の「審判」まではここに近づくな』

 

 金髪の魔人は腕を振った。

 それだけでホーニャンもカノンノも、ケルベロスでさえ体が浮いた。

 

「「っきゃあああああああ!!」」

 

 彼女たちは暴風によって高く高く飛ばされて行った。

 

 

 

 

 

 

 ホーニャンたちが投げ出されたのは、ブラウニー坑道の出入口だった。

 

(戦うことになるかと思ったのに。ひょっとして意外といい人だったのかな)

 

「ホーニャン!」

 

 やって来るのは、アンジュとジェイド――あの日からずっと口を利いていない二人だった。

 

「あ……」

「勝手にいなくなって。どれだけ心配したと思ってるの!」

 

 開口一番にアンジュに怒られて、ホーニャンは身を縮めた。

 

「あなたがいなくなったと知って、船内は上を下にの大騒ぎだったんですよ」

「ほえ?」

「今、ギルドのメンバーのほとんどが船を下りて、あなたをあちこち探し回っています」

「あたしを? あたし一人、を?」

 

 ラザリスの一件から部屋に引き篭もり、他人という他人を拒絶したホーニャンを、アドリビトムの人々は疎んでいると思っていたのに。

 

「そうよ。無事でよかった、本当に」

 

 アンジュがしたことは、何と、ホーニャンを柔らかく抱き寄せることだった。突然のことでどうしていいかわからず、ホーニャンはアンジュの腕の中で固まった。

 

 そのままの態勢で、ジェイドがホーニャンに対して厳しい顔をした。

 

「ホーニャン。今回の件で、たくさんの人に迷惑をかけたことを自覚していますか?」

「……はい。あたしを探すために、みんなが危ないとこに行ってるかもしれない。無理をして傷ついてるかもしれない。その原因は、何も言わずに出てったあたしです」

「よくわかっているようですね。反省していますか?」

「はい」

「なら私から言うことはもう何もありません」

 

 ジェイドはホーニャンに背中を向けた。

 

「一緒に帰ってくれるわね?」

 

 抱擁を解いたアンジュは、ホーニャンに優しく問うた。

 ホーニャンは無言で肯き、アンジュとジェイド、カノンノに付いてバンエルティア号への帰路に就いた。


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