CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
異形化した男たちが、地べたを這いずって、御簾のある一角へ懇願している。助けてくれと。こんな魔物のような姿は嫌だと。元に戻してくれと。
「――『助けて』だって? 望んだから、欲しがったから、力をあげたのに」
御簾の奥から現れた、水晶だけを身にまとった少女を――とても、うつくしい、と感じた。
「大丈夫。今はまだ半分ヒトだろうけど、じきに完全に変化するよ。そうすれば、今より強い体になるはずさ」
何の感情も乗らない紅い瞳がホーニャンに向けられた。
「だれ?」
「あなたは――あなたは何者なの!?」
「ラザリス……僕は、ラザリス」
まるで自分の名を自分で確かめるように、おぼつかない口調だったのに。
「この世界、ルミナシアのように、『誕生するはずだった世界』だ!」
己の来歴を明かした声には、確かに憤りという血が通っていた。
「ああ……ああ! この世界にはうんざりだ! 僕ならもっといい世界になるはずだった!! こんな腐りきった世界をもたらすヒトがいる世界なんて、僕なら創らなかった!!」
「危ない!」
ケルベロスが真の姿へ変わり、口から火を噴いた。
だが、ケルベロスの火よりも、ラザリスが腕を一振りして放った衝撃波のほうが強かった。
ホーニャンたちは衝撃波によって後方へ吹き飛ばされた。
『
「く、っ…だい、じょうぶ…っ」
起き上がれなくても魔法は使える。ホーニャンは必死に思考を巡らせた。ラザリスが何者かはこの際二の次だ。それよりも傷ついたアンジュとジェイドを守るためにはどうすればよいのか――
考える間にもラザリスは歩み寄ってくる。
ホーニャンはケルベロスの体に縋るようにして立ち上がり、ラザリスの前に立ちはだかった。
そんなホーニャンを見るラザリスの表情には、どんな温度もない。
「君も、何故こんな者たちを守ろうとするんだ。わからないよ、
「――――え?」
ラザリスの姿が空気に溶けるように消えた。
「ディセンダー……ホーニャンを、そう呼んだの?」
「ゃ、待、って。し、しらない。あたし、何も知らな……」
弱々しく否定するしかないホーニャンの耳に、奥から呻き声が届いた。
ホーニャンは反射的に奥の間へ駆け戻った。
そこには異形化が進み、ヒトらしい発語さえしなくなったあの男たちが倒れ伏していた。
(たすけなきゃ)
――救った者への責任の所在。
――誰かを救うことは、とてもとても重いこと。
(それでも、たすけなきゃ、ほかにだれがたすけてあげられるの?)
ホーニャンは星のロッドを静かに構えた。
『ホーニャン、あかん!』
ケルベロスがやめろと言っている。言っているのに。ホーニャンはその言いつけを聞き入れることができない。
「腐りきってなんか、ない。あなたはヒトのそういう部分だけしか知らないだけ。この世界には、あったかい人も優しい人も明るい人も、いくらだって、いる」
一枚のさくらカードを選んで宙に投げ、カードにロッドの星飾りを叩きつけた。
「かの者らの肉体の
渦が晴れた時、そこに倒れていたのは、ヒトの姿に戻った信者たちだった。
ホーニャンは自身の両手を見下ろした。
右手に星のロッド。左手に
誰あらぬケルベロスに対して「使わない」と約束した魔法が、両手に。
「……あたし、また」
救った。救ってしまった。また救ってしまった。
――“君も、何故こんなモノたちを守ろうとするんだ。わからないよ。ディセンダー”――
ディセンダーという役柄の通りに、ルミナシアのヒトを救ってしまった。
「ちがう」
こわい。重い。ホーニャンを見るアンジュの驚いた目が。ジェイドの探るような目が。
「ディセンダーじゃない。あたし、ディセンダーなんかじゃない!」
ホーニャンは走ってアンジュとジェイドの間を抜け、アルマナック遺跡を飛び出した。