CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
マーリンドに入るなり、アリーシャにさえわかった。この街の穢れが凄まじく濃いことが。
ライラは病原体そのものが憑魔化していると言った。レディレイクの穢れを見た時とは比べ物にならないほど、根源的な恐怖がアリーシャを震わせた。
アリーシャは横にいるコタローを見やった。
彼はアリーシャと異なり、穢れも憑魔も視えない。先の戦いでも「
「ごめん」
謝られる覚えがなくて、首を傾げた。
「病気を治すとか、ならないようにする加護とかの魔法、おれ、使えないんだ。兄さんならできたんだけど。ごめん、役立たずで……」
こんな時まで、自身の罹患よりアリーシャらを心配する優しい友人に、アリーシャの口角は自然と上がった。
「いいんだ。コタローは。いてくれるだけで」
コタローのためにも、情けない姿は見せられない。
アリーシャは胸に手を当て、毅然と顔を上げた。
「とにかく聖堂へ。一刻も早く薬を届けないと」
スレイも天族の彼らも肯いてくれた。天族組がスレイの体内に戻ってから、アリーシャはスレイとコタローと共にマーリンドの聖堂へ急いだ。
聖堂に薬を届けて警護体制の状況を聞き、さらにはドラゴン種の憑魔まで現れて、やはり、アリーシャは密かに震えた。
憑魔の降りた先へ向かう道すがら、マーリンドの様子を見ていく内に、その気持ちも萎え、最後には胸に閉塞感だけが残ったが。
「これがあのマーリンドだなんて……」
「歴史ある街なんですよね? 天遺見聞録にも紹介されているとか」
ライラが気を遣ってか、若干2名が明るくなりそうな話題を供した。
「うん。『聖なる大樹そびえし学都、マーリンド。その梢に輝くは、学問の実と芸術の華』」
「ずいぶん詩的な表現なんですね」
「『この木陰に遊ばずして、いかにして大陸の知と美を語るべきや』ってね」
「私も読んだことがあります」
「花も実も枯れちゃってるけど」
「けど、春が来れば花は咲くし、秋になれば実が生るよ」
これだ。この、スレイの、明るい未来を疑わないまっすぐさ。アリーシャでさえ信じたくなってしまうほどに、スレイの言葉は光っている。
ついにドラゴンらしき憑魔がいる広場に出た。
ライラが、あれはドラゴンではなくドラゴンパピー――ドラゴンの幼生体だと説明してくれた。
「なら今の内に何とかしないと」
アリーシャは槍を出して構えた。
それがいけなかった。
ドラゴンパピーは武器を向けられたと気づくや、吼えてアリーシャらに向けて鎌首をもたげた。
「やば!」
スレイが退くと言ったので、アリーシャも慌てて続いた。最後にコタローが付いて走った。
認めたくないが、こういう時に、スレイとコタローは男で、自分は女なのだと思い知る。走る速度が段違いだ。
「はぁ…は…っ」
二人に遅れかけたところで、コタローが叫んだ。
「導師さん、アリー抱えて走って!」
「了解!」
「え? きゃ!」
スレイはアリーシャを横抱きにすると、速度を落としもせず再び走り出した。
初めて異性とこんなに密着した。
そんな場合ではないというのに、アリーシャの胸は高鳴って治まらなかった。
スレアリらしきフラグをようやく立てることができました。
そしてスレイのアリーシャお姫様抱っこの野望達成! っしゃあ!
ちなみに抱えて走ってと言ったコタローは確信犯です。