CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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明るみにされる“配役” ②

 ホーニャンがアルマナック遺跡に行くに当たってのギルドの同行者は、“暁の従者”の拠点について詳細な情報を持つジェイドと、何と、アンジュ自身だった。

 

 アンジュに同行の理由を尋ねると、アンジュは笑って。

 

「私もたまには外に出て運動しないと♪」

 

 ……この事件をホーニャンが重く感じないように明るく振る舞ってくれているのだと信じたい。

 

「運動とは、健康維持の観点からも非常に重要な要素ですからねえ。筋力の低下による生命活動の低下はもちろん、皮下脂肪を蓄えることによる基礎代謝への障害も」

「ま、待って! それ以上言わないでっ」

 

 ホーニャンは首を傾げた。アンジュは本人がそう焦るほど太っては見えないのに。ロックスが常々「女の子はぽっちゃりくらいがいい」と言うが、アンジュはまさにその典型例だと思う。いつかノーマがしたように、ホーニャンもアンジュに抱きつきたい。

 

「と、平和な話をしていたら。お出ましですよ」

 

 遺跡に反響する人の足音が二つ。

 アンジュに隠れるよう促され、ホーニャンも急いでジェイドとアンジュが隠れた物陰に入った。

 

「誰もいないじゃないか」

「おかしいな。人の声がしたと思ったんだが」

 

 橙の上着に赤い帽子という同じ格好をした男が二人、先ほどまでホーニャンたちが立っていた場所に現れた。

 

「まあ、いいさ。盗掘のたぐいであれば、ディセンダー様がくれた力をお見舞いしてやるまでだ」

 

 言った男のほうが近くの岩に手をかざした。すると、岩は磁力の反発のように浮かび上がった。男たちのどちらも手は触れていないし、糸で吊っているという三流マジックでもない。

 

 男たちは他にも、“ディセンダー様”が手から金を山のように出しただの、裏切り者に手酷い罰を与えただの、“奇跡”の数々を言い連ねた。

 

「“ディセンダー様”……か。彼らは純粋に救いを求めているだけなのでしょうね。でも」

「ええ。例え異端として残虐な手口で他者を排除しようと、簡単に己を正当化してしまえる。それはすでに、信仰という免罪符が通用する域を超えています。暁の従者――おそらく、話の通じる相手ではないでしょう」

「万が一の場合も覚悟して行かないといけないってことね」

 

 ホーニャンは魔物退治をしたことはあるが、人間退治はしたことがない。

 これからホーニャンは、アンジュとジェイドの足手まといにならないよう、“暁の従者”の信者たちと、戦わねば、ならない。

 

「ホーニャン……」

「大丈夫。絶対、大丈夫だから」

 

 母の「無敵の呪文」で自身を鼓舞する。

 何も人殺しをするわけではないのだ。“願いを叶える存在”を引き取るために、ちょっとばかり乱暴な方法に出るだけのことだ――ホーニャンは自身にそう言い聞かせた。

 

 アンジュとジェイドが物陰から出た。ホーニャンもケルベロスと共に二人に続いた。

 

 信者たちがホーニャンたちに気づいてこちらを顧みた。

 

「何だ、お前たちは。我々の同志になりに来たのか?」

「いいえ。そうではないの」

 

 今までのアンジュからは聞いたことのない、寒々とした口調。

 

「あなた方がディセンダーと呼んでいるモノを引き渡してもらいます」

「あれはディセンダーなんかじゃないの。もっと得体の知れない『何か』よ」

「そう。危険な存在かもしれませんよ」

 

 大人が二人、本気で、真剣に話す。それだけでこれほどの威圧感が出せるものなのだと、ホーニャンは10と半ばの人生で初めて知った。

 

「馬鹿なことを。今は誕生されたばかりで、予言通り、名前以外、何も記憶はない。だが、今この奥で、この世のことを学んでおられるのだ。それが終わるまで」

 

 前触れなくジェイドがホーニャンの腕を掴んで飛びのいた。信者の片方が、先ほど見たように大きな岩塊を浮かせてホーニャンの一瞬前までいた位置に落としたからだ。

 

「誰もこの先に通すわけにはいかないのだ!」

「この腐敗した世の中を正すために降臨されたディセンダー様だ。じきに自ら立ち上がられ、この世界を理想郷へと造り変えられる。邪魔はさせないぞ!!」

 

 ジェイドは溜息一つ。眼鏡の奥の目を冴えさせながら、ホーニャンを見下ろした。やれるかどうかを、ジェイドのまなざしは問うている。

 

「ディセンダー様より授かった力、とくと見よ!!」

 

 ジェイドがどこからか槍を、アンジュはホルスターからナイフを抜いた。

 

 ホーニャンもまた、薄羽の髪留めを外して呪文を唱えた。

 

「星の力を秘めし羽よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、(ホー)(ニャン)が命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 髪留めが、「☆」から透明な翅が生えた星のロッドに変形した。ホーニャンはそれを握り、手持ちのさくらカードを取り出した。


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