CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

166 / 180
取り「戻」せないなんてない ③

 次に目を開けた時、ホーニャンはベッドの上に横たわっていた。

 

「気がつかれましたか?」

 

 ぼやけた視界が像を結んでいく。ケルベロスとアニーがホーニャンを見下ろしていた。

 

「ここは……」

「艦の医務室ですよ。クレスさんがあなたを担いで帰ってきてから、あなた、丸二日も眠ったままだったんですよ」

「あのにーちゃんら元に戻してからぶっ倒れたん、覚えてへんか?」

 

 『戻』(リターン)のさくらカードで異形化したジョアンとミゲルを人間に戻して、そこから先の記憶がない。

 

「ジョアンさんとミゲルさんは?」

「彼らでしたら、アンジュさんの勧めで、アンジュさんがいた教会で働くことになりました。もうここを発たれましたよ」

「そう……よかった」

「よかった、やないわい!」

 

 ペシィ!

 ケルベロスの小さな前足がホーニャンの頬を打った。

 

「ケロ、ちゃん」

『戻』(リターン)は魔力消費量とんでもないねんで! それを一人で使て、しかも二人に作用さすやなんて。魔力どころか生命力持ってかれてもおかしゅうなかった! 生きとっただけでも儲けもんや! 反省せい、おたんこ娘!」

 

 ケルベロスは腕組みし、空中であぐらを掻いてホーニャンに背を向けた。

 

「ケロちゃん……ケロちゃん」

 

 ケルベロスはこちらを向かない。

 

「ごめんなさい。怒らないで。ごめんなさい。もうしないから。ごめんなさい。ごめん、なさ……っ」

 

 嫌われた。ケルベロスに嫌われた。

 

 琥珀色の目から涙が溢れ、頬を伝ってはシーツに落ちる。

 アニーが無言でタオルを差し出したので、ホーニャンは受け取り、タオルで顔面を覆って嗚咽した。

 

 ホーニャンの肩をアニーが優しく抱いた。

 

「ケルベロスさんは意地悪でホーニャンさんを責めてるんじゃありませんよ。ホーニャンさんを心配しているんです」

「しん、ぱい?」

「はい。私も、クレスさんもイリアさんも。ホーニャンさんだって、仲間が倒れたら心配するでしょう?」

「――する」

 

 アニーに諭されてようやく理解した。

 

 ホーニャンはケルベロスを両手で包んで胸に抱き寄せた。

 

「ごめんね。心配、かけて」

 

 ケルベロスはというと、溜息をつき、ホーニャンの手から抜け出して顔の前まで飛んで来た。

 

「これからは自分の()を超えた無茶は禁止や。ええな?」

「はい」

「それと、こっからは別の話や」

 

 ホーニャンは首を傾げた。

 

「お前さんが助けたにーちゃんらや。今回はアンジュねーちゃんが働き先斡旋してくれたからええ。せやけどこれが(ホー)(ニャン)一人がしたことやと考えてみい。人間に戻れても、村には帰れん、行く宛てもないあのにーちゃんらを、(ホー)(ニャン)はどないした? 最後まで面倒見たれたか?」

 

 ホーニャンは首を横に振った。

 

「そういうことや」

 

 

 救った者への責任の所在。

 李(ホー)(ニャン)には重すぎて果たしきれないもの。

 

 

(誰かを救うことは、とてもとても重いこと)

 

 

 ホーニャンは胸に手を当て、そのことをしかと胸に刻んだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。