CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
「あの中は魔物なんかじゃない! ヒトが入っているんだ!」
クレスがいち早く状況を看破した。
「なぬ!? じゃああたし、危うく人間撃っちゃうとこだったワケ!?」
ケージの中に人間がいるなら、サンドワームに襲わせるわけにはいかない。
「星の力を秘めし羽よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、
ホーニャンはすぐさま星のロッドを握った。取り出すさくらカードは
「その香によってかの者を誘え。
星のロッドでさくらカードを叩いた。
蜜の香りが強い花が振り撒かれる。
サンドワームはその香に気づくや、ケージから飛び降りてホーニャンたちの前に立った。サンドワームは興奮した様子でこちらを威嚇している。
「ちょ、何したのよあんた」
「食虫植物なんかが出す香りを持ってる花を出して、こっちに魔物の注意を引きつけた。――撃たないで! 弾が魔物の後ろのケージまで貫通したら、中の人がケガしちゃう」
イリアは舌打ちして双銃にかけた手を外した。
「僕が行く」
クレスが剣を抜いて構えた。クレスがいつもまとっている温和なオーラは消え、鋭さだけを感じた。
(剣を握った時のお父さんやお兄ちゃんみたい)
サンドワームはこちらが敵対行動に出たことがわかったのか、闘牛のように激しくクレスへ向けて走ってきた。
「虎牙破斬!!」
向かってくるサンドワームを、クレスは剣の一閃で叩き上げ、乱れ突きをくり出した。刺突の全てが的確に急所を突いていた。
サンドワームが砂の上に倒れた。
クレスはまだ剣の構えを解かない。
やがて、サンドワームが起き上がらない確信を得たのか、クレスが剣を鞘に納めた。
「よし。ケージを開けよう」
「いいの?」
「契約はァ?」
「僕たちが受けたのは、ヒトを捨てる仕事じゃない」
クレスはケージへ歩いて行き、迷いなくケージの鍵を開けた。
とたんに中からケージの戸が開き、人間とも魔物とも呼べない異形のモノが二つ転がり出た。
異形の片方にホーニャンは覚えがあった。以前、自分とファラとマルタで護衛をしたジョアンだ。
「あなた、ジョアンさん……? どうしてそんな姿に」
「そ、それが、私たちにも分からないのです。あの赤い煙に触れてから、病は治って、村で過ごしていたんですが」
ジョアンが字義通り蒼白な顔を上げた。悲嘆に暮れた顔だった。
「なぜかはわかりませんが、村の中にいることがひどく居心地悪く感じるようになって。村、だけじゃなく、この世に生きていること自体に……自分で自分の存在がわからなくなって。自分が今まで知っている自分でない気がして」
ホーニャンの人生では初めて聞く他者の懺悔だった。耳を塞ぎたい。こんな痛い言葉を聞いていたくない。
「そうして、次に意識がハッキリした時には、檻の中でした」
もう片方は、ジョアンより先に赤い煙に接触したミゲルという男で、彼らはこの異形の姿へと肉体が変貌し、自覚はないが村人を襲ったと語った。
「村長が、もう元には戻るまいと。ヒトの中じゃ、生きていけないだろうと。ああ、これから俺はどうすりゃいい。ここに残って、死ぬのを待つしかねえのか……っ」
耐えきれなくなって叫んだ。
「簡単に死ぬなんて言わないで! 命ってそんな軽いものじゃないでしょ!?」
病気が治った時、ジョアンは心から喜んでいるように見えた。村のみんなのために働くのだと明るい未来を語った。
それがこんな形で潰えてしまっていいはずがない。
「ケロちゃん。あたし、この人たちを助けたい。助けちゃうから」
ホーニャンはレッグホルダーから別のさくらカードを取り出した。
「!
ケルベロスの忠告でも、今は聞き入れられない。
さくらカードを投げ、星のロッドでカードを叩いた。
「かの者らの肉体の
足下に星の魔法陣が光を刻む。さくらカードの形がほどけ、純粋な魔力に分解される。
漆黒の渦が消える。
ジョアンもミゲルも、まっとうなヒトの姿をしていた。
「ホーニャン……」
ケルベロスの呼びかけにはありありと不安が滲んでいた。
「ああ、あなたには助けられてばかりです! ありがとうございます、ありがとうございます!」
ジョアンはホーニャンの手を握ってしきりに頭を下げた。
お礼なんていいんです、助かってよかったです――口にしようとしたところで、ホーニャンの視界が回った。
「「ホーニャン!!」」
クレスとイリアの呼びかけを最後に、ホーニャンは意識を失った。
…………
……
…