CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

165 / 180
取り「戻」せないなんてない ②

「あの中は魔物なんかじゃない! ヒトが入っているんだ!」

 

 クレスがいち早く状況を看破した。

 

「なぬ!? じゃああたし、危うく人間撃っちゃうとこだったワケ!?」

 

 ケージの中に人間がいるなら、サンドワームに襲わせるわけにはいかない。

 

「星の力を秘めし羽よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、(ホー)(ニャン)が命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 ホーニャンはすぐさま星のロッドを握った。取り出すさくらカードは『花』(フラワー)

 

「その香によってかの者を誘え。『花』(フラワー)!」

 

 星のロッドでさくらカードを叩いた。

 

 蜜の香りが強い花が振り撒かれる。

 サンドワームはその香に気づくや、ケージから飛び降りてホーニャンたちの前に立った。サンドワームは興奮した様子でこちらを威嚇している。

 

「ちょ、何したのよあんた」

「食虫植物なんかが出す香りを持ってる花を出して、こっちに魔物の注意を引きつけた。――撃たないで! 弾が魔物の後ろのケージまで貫通したら、中の人がケガしちゃう」

 

 イリアは舌打ちして双銃にかけた手を外した。

 

「僕が行く」

 

 クレスが剣を抜いて構えた。クレスがいつもまとっている温和なオーラは消え、鋭さだけを感じた。

 

(剣を握った時のお父さんやお兄ちゃんみたい)

 

 サンドワームはこちらが敵対行動に出たことがわかったのか、闘牛のように激しくクレスへ向けて走ってきた。

 

「虎牙破斬!!」

 

 向かってくるサンドワームを、クレスは剣の一閃で叩き上げ、乱れ突きをくり出した。刺突の全てが的確に急所を突いていた。

 

 サンドワームが砂の上に倒れた。

 クレスはまだ剣の構えを解かない。

 やがて、サンドワームが起き上がらない確信を得たのか、クレスが剣を鞘に納めた。

 

「よし。ケージを開けよう」

「いいの?」

「契約はァ?」

「僕たちが受けたのは、ヒトを捨てる仕事じゃない」

 

 クレスはケージへ歩いて行き、迷いなくケージの鍵を開けた。

 とたんに中からケージの戸が開き、人間とも魔物とも呼べない異形のモノが二つ転がり出た。

 異形の片方にホーニャンは覚えがあった。以前、自分とファラとマルタで護衛をしたジョアンだ。

 

「あなた、ジョアンさん……? どうしてそんな姿に」

「そ、それが、私たちにも分からないのです。あの赤い煙に触れてから、病は治って、村で過ごしていたんですが」

 

 ジョアンが字義通り蒼白な顔を上げた。悲嘆に暮れた顔だった。

 

「なぜかはわかりませんが、村の中にいることがひどく居心地悪く感じるようになって。村、だけじゃなく、この世に生きていること自体に……自分で自分の存在がわからなくなって。自分が今まで知っている自分でない気がして」

 

 ホーニャンの人生では初めて聞く他者の懺悔だった。耳を塞ぎたい。こんな痛い言葉を聞いていたくない。

 

「そうして、次に意識がハッキリした時には、檻の中でした」

 

 もう片方は、ジョアンより先に赤い煙に接触したミゲルという男で、彼らはこの異形の姿へと肉体が変貌し、自覚はないが村人を襲ったと語った。

 

「村長が、もう元には戻るまいと。ヒトの中じゃ、生きていけないだろうと。ああ、これから俺はどうすりゃいい。ここに残って、死ぬのを待つしかねえのか……っ」

 

 耐えきれなくなって叫んだ。

 

「簡単に死ぬなんて言わないで! 命ってそんな軽いものじゃないでしょ!?」

 

 病気が治った時、ジョアンは心から喜んでいるように見えた。村のみんなのために働くのだと明るい未来を語った。

 それがこんな形で潰えてしまっていいはずがない。

 

「ケロちゃん。あたし、この人たちを助けたい。助けちゃうから」

 

 ホーニャンはレッグホルダーから別のさくらカードを取り出した。

 

「! (ホー)(ニャン)、あかん! そのカードは消耗が激しすぎる! さくらかて一人じゃ使えへんかったんやで!?」

 

 ケルベロスの忠告でも、今は聞き入れられない。

 さくらカードを投げ、星のロッドでカードを叩いた。

 

「かの者らの肉体の(とき)を戻せ! 『戻』(リターン)!」

 

 足下に星の魔法陣が光を刻む。さくらカードの形がほどけ、純粋な魔力に分解される。『戻』(リターン)の本体である漆黒の渦が、異形のジョアンとミゲルを包み、渦巻いた。

 

 漆黒の渦が消える。

 ジョアンもミゲルも、まっとうなヒトの姿をしていた。

 

「ホーニャン……」

 

 ケルベロスの呼びかけにはありありと不安が滲んでいた。

 

「ああ、あなたには助けられてばかりです! ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

 ジョアンはホーニャンの手を握ってしきりに頭を下げた。

 

 お礼なんていいんです、助かってよかったです――口にしようとしたところで、ホーニャンの視界が回った。

 

「「ホーニャン!!」」

 

 クレスとイリアの呼びかけを最後に、ホーニャンは意識を失った。

 

 …………

 

 ……

 

 …

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。