CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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その少年、抜き身につき

 ――“新しい仲間が、赤い煙の新情報を持って来てくれたから、挨拶がてら会いにきて”――

 

 

 アンジュにそう言われたので、ホーニャンはいつも通りケルベロスを肩に乗せて船倉に降りた。

 

「ルカさんとイリアさんの部屋だったね。えーっと」

「ヴェイグのあんちゃんの向かいの部屋やさかい、そこやで」

「ん。ありがと、ケロちゃん」

 

 目的の部屋のドアの前に立ち、ホーニャンはドアをノックした。

 ドアが開いて、アンジュが出て来た。

 

「わざわざ来てくれてありがとう。入って」

 

 中に入る。ルカとイリア――そして、彼らより僅かに上の年頃らしき、二刀の鞘を両脇に着けた少年がいた。

 

「あン? 誰だぁコイツ」

 

 初対面でいきなりのガン飛ばしを食らった。

 

「ちょっ、スパーダったらもう! このギルドの仲間だよ」

「おー、そうか。ってか、ビビらすつもりはさらさらなかったんだけどな」

「君は誰に対してもそうだけど、中には怖がる人もいるし……ホーニャン、大丈夫?」

「や、ないみたいやな。固まってもうた。ほれ、(ホー)(ニャン)。しっかりしいや。怖い子ちゃうで」

 

 はっとしたホーニャンは、すぐさまアンジュの背中に隠れた。

 

「あらあら」

「悪かったって。オレはスパーダ。スパーダ・ベルフォルマ。こいつらのダチだ。よろしくな」

「よろしゅうな。わいはケルベロスや」

「ホーニャン、です。よ、よろしくお願い……します」

 

 ホーニャンは消え入りそうな声で答えるだけで精一杯だった。

 

「いいのか、アンジュ。このまま続き話しても」

「いいわよ。確か、見る者によって姿が違うってとこまでは聞いたわね」

 

 姿が違う。そのワードに、ホーニャンの中のカードキャプターとしての使命感に火が点いた。

 

「(ケロちゃん。変身するカードっている?)」

「(変身とはちゃうけど、似たようなんはおるな。人の姿を映して化ける『鏡』(ミラー)と、見るもんによって違う幻を見せる『幻』(イリュージョン)がそれや)」

「(さくらカードかも、しれないんだね)」

 

 ホーニャンがケルベロスと小声で話す間にも、スパーダの話は続く。

 

「それだけじゃねえ。変わってんのは町の人もだ。『病気を治す』から、いつのまにか『願いを叶える』って話になってんだぜ」

 

 「願いを叶える」という言葉を聞いて、背中を悪寒が這い下りた。

 

「じゃあ、もっとたくさんの人が、その存在に会いたがるんだろうね」

「あの煙の噂、町の中でものすごく広まってるぜ。ありゃ危ねえな。今にもっと大騒ぎになるぜ」

「――ホーニャン? どうかした? 顔色が悪いわよ」

 

 ホーニャンはしがみついていたアンジュのシスタードレスから手を離した。

 

「アンジュさん。その煙……ううん。『願いを叶える存在』に関係しそうな依頼が来たら、あたしに知らせてくれないですか?」

 

 さくらカードかもしれないという以上に、もっと切実に、その存在と人との接触は避けなければならないという警鐘がホーニャンの中に鳴り渡っていた。

 見習いだがホーニャンとて魔法使い。その手の能力者の直感は信憑性が高い、と父も言っていた。

 だから、ホーニャンは自身の直感を信じて、アンジュに頼んだのだ。

 

 アンジュはホーニャンの危機感を察してくれたのか、彼女自身も厳しい目でホーニャンを見つめ返した。

 

「――人の願い……欲望は無尽蔵よ。そういう手合いの依頼人を相手にして、不愉快な思いをすることもあるかもしれない。それでもいいのね?」

「はい」

 

 ホーニャンは決然と答えた。

 

「わかった。そうなったあなたは意見を曲げないものね。いいわ。赤い煙改め、願いを叶える存在についての依頼が来たら、一番にあなたに声をかけましょう」


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