CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
コンフェイト大森林の調査から数日後。
食堂に行くためにホールに出たホーニャンは、リッドと、彼の幼なじみのファラと出くわした。
「おはよう! ホーニャン、ケルベロス」
「おっす」
「おはよう。リッドさん。ファラさん」
「おはよーさん。お揃いでどないした?」
「今日、わたしたちの友達が帰ってくるの。そのお迎え。あ、来た!」
ふり返る。艦に乗り込んできたのは、RPGの西洋魔道士のような出で立ちの少年と、小柄で褐色の肌をした少女だった。
「よう。キール。メルディ。長旅だったな」
「久しぶりっ」
「はいな! 久しぶり」
「やれやれ。ここはいつ来ても平和そうだな」
少年の言葉が皮肉だとわかっていたが、つい「平和じゃない!」と言いそうになったホーニャンである。
「二人とも、紹介するね。わたしの友達の」
「メルディだよ~」
「キール・ツァイベルだ。元々ぼくとメルディも、ギルド発足時からのメンバーだ」
「……それは、自分のほうが先輩だから態度に気をつけろ、って釘を刺してるんでしょうか」
キールがむっとした顔をした。ホーニャンは負けじと睨み返した。
「こりゃ」
ぺち。小さな前足がホーニャンのほっぺを叩いた。
「会うてすぐの相手を威嚇すな」
「だって、元々あっちが」
「返事は?」
「……はい」
「よしっ」
ケルベロスはホーニャンの肩に戻った。
「と、ともかく。ぼくとメルディもここに戻って働くことにした」
「元はどこにいたんですか?」
「おっきい国が大学でお勉強してたな。でも、もうすぐ戦争始まるよ……」
「おかげで大学は休校。だからここに帰って来たんだ。そうするしか、身を寄せる場所もないしな」
「へえ……」
ちょうど会話が途切れたところで、タイミングを見計らったかのようにアンジュがホールに来た。
「お帰りなさい。キール君。メルディ。手紙で頼んでおいた情報収集は?」
「ああ。色々聞いて来たよ。――少し休ませてくれないか。話は部屋でさせてくれ」
「ええ。あなたたちの部屋はそのままにしてあるわ。ホーニャンたちも、朝ごはんがすんだらキール君とメルディの部屋にいらっしゃいな。各地の情報がわかるわよ」
「じゃあ、あとでお邪魔します」
「おおきにな、アンジュねーちゃん」
アンジュに言われた通り、食堂でクレアとリリスの作ったおいしいフレンチトーストを頂いてから、ホーニャンたちはキールとメルディの部屋に向かった。
「失礼します」
「ああ、いらっしゃい、ホーニャン、ケルベロス。ちょうど生物の変化現象について話してたところだったのよ。キール君、もう一度お願い」
「しょうがないな。ぼくが街で聞いたのは、生物に変化が現れた場所には、赤い煙のようなものが現れていたという話だ」
背中をイソギンチャクが滑り下りたような悪寒が、ホーニャンを襲った。
「赤い、煙」
「はいな。その赤い煙も、ほんの数日現れただけな。今は消えてしまってるそうだよぅ」
「街で聞いた話では、オルタータ火山が数日前に採掘を終えたらしい。行ってみてはどうだ?」
心臓の鼓動が、気持ち悪い。どく、どく、と。これはよくない未来を知らせる音だと、母譲りの第六感からわかった。
「アンジュさん。その火山の調査、あたしに行かせてもらえませんか」
アンジュはまじまじとホーニャンを見やった。
「珍しいわね……あなたでもやっぱり生物変化現象は気になる?」
「はい。一度はエステルさんたちと一緒に行ってますし」
「そうねえ。じゃあ、今回もあなたにお願いしようかな。待ってて。同行者の選定をしてくるから」
「いえ。あたしも戻ります。行こう、ケロちゃん。――キールさん。メルディさん。失礼しました」
オルタータ火山調査クエストに、アンジュはウィルとルビアを同行者として選定した。
彼らがホールに来てから、3人(と一匹)で、オルタータ火山の近くで艦を降りた。
「触れるだけで生物に変化を及ぼす物質、か。そんなものが本当に存在しているなら、オレの想像をはるかに超える生体サンプルが採取できるかもしれん。サンプルをいくつ採取しても足りないくらいだ。ルビア! ホーニャン! その時はぜひ君たちも採取に協力してくれ」
ウィルは勇んで火山を奥へと進んでいった。
「うう、ウィルさんの悪い病気が始まっちゃった……」
「ビョウキ?」
「行き過ぎた好奇心ってとこ。ホーニャンもイヤならイヤってハッキリ断るのよ? 学者ってみんなこうなのかしら……はぁ」
ウィルを追いかけて進むと、そこはマグマが眼下を流れる険しい道だった。何もしないで立っているだけでも熱い。帰ったら冷水シャワーを浴びようとホーニャンは決めた。
「昔の人は」
マグマの流動が不安定な崖下を見下ろして、ルビアが呟いた。
「マナを生み出してくれる世界樹に感謝を捧げていたのに、今の人や文明は、
濃緑のまろやかな瞳が、ホーニャンとウィルを映した。
「感謝の気持ちを忘れるのって、とっても悲しいことじゃない?」
「――うん。悲しいかも、ね」
「せやな」
ひたすら登りの道を進み、マグマ流が見えないくらいの高台に辿り着いた。
そこには一面、黒い昆虫が散らばっていた。
「やだ、虫!」
ルビアがホーニャンに抱きついた。
ホーニャンもルビアに抱きつき返した。ホーニャンとて一女子だ。虫は得意ではない。
「これは!! ここにしか生息しない貴重な生物、“コクヨウ玉虫”だ」
「動かないわ。死んでる…?」
その時だった。地面の亀裂から滲み出てきたのは、まぎれもなく赤色をした煙だった。
赤い煙は4つに分裂し、それぞれに植物やコクヨウ玉虫に染み込んで消えた。
内、赤い煙が染み込んだコクヨウ玉虫が生きていることに気づいたウィルが、その虫をサンプルケースに摘まんで入れた。
「も、持って帰る、ですか」
「え~、気持ち悪い~!!」
ホーニャンはルビアとさらに強く抱き合った。
「うう~、早く戻りましょう! こんな場所、もうこりごりだわ!」
ホーニャンも無言で、顔を引き攣らせてこくこくと肯いた。