CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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嵐を呼ぶ男?

 ホーニャンはアンジュに頼まれて、初めてカノンノ以外のメンバーと組んでクエストに出かけた。

 行き先はコンフェイト大森林を越えた先にあるヘーゼル村。

 同行者はヘーゼル村出身のヴェイグを筆頭に、ミントとシングが行くことになっていた。

 

 それというのも、彼らが行くことになった村にいる、ウリズン帝国の騎士、サレという男が怪しいからだ。

 

 ――“サレという騎士の悪行は有名です。彼は嵐を起こす力を持っていて、命令に従わない村をいくつも破壊しているとか”――

 

 『嵐』(ストーム)はエレンピオスという世界へ散ったと父の占術で出たが、念のため確認しておきたかった。もしサレが本当に『嵐』(ストーム)を持っていて、ミントが言ったように悪事に使っているなら、取り上げて封印する責任がホーニャンにはある。

 

 

「どうしたの、ホーニャン? 難しい顔してるよ」

 

 はっと我に返った。シングの顔がすぐ目の前にあった。

 

 ここは森の真っ只中で、自分は今、ケルベロスと、ヴェイグ、シング、ミントと歩いて目的地に向かっている最中なのだと思い出した。

 

「ぼーっとしとったら魔物に襲われてまうで」

「大丈夫! そうなったらオレたちでフォローするから」

 

 獣道を歩き、太い木の幹の上に登る時にはミントともどもシングの手を借りたりしつつ、森を進んでいると。

 

「――足音」

 

 ホーニャンは確かに聞いた。人が近くを走っている。二人いる。

 

「? 俺には何も聞こえなかったが」

「オレも」

「ですが、ホーニャンさんの言うことが本当なら、遭難した方かもしれません。魔物に追われているのかも」

「大変だ! 早く行かないと」

「落ち着け、シング。まだそうと決まったわけじゃない。ホーニャン、音がどちらからしたかはわかるか」

「うん。こっち」

 

 しばらくホーニャンが先頭に立って走ると、樹の幹が絡み合った袋小路に二人の人間がいた。

 片方は白い略式ドレスにストロベリーブロンドの女性。もう片方は――

 

「サレだ!」

「あれが、サレ?」

 

 紫髪の優男が、女性を追い詰めている。

 神経を研ぎ澄ましてみたが、さくらカードの気配はしなかった。

 

「あの女の人が危ないよ。みんな、助けよう!」

 

 シングが一番に走って行った。ヴェイグもほぼ同じタイミングで走り出した。

 

 シングとヴェイグに気づいたサレがこちらを向いた。

 

「――やあ、ヴェイグ。お久しぶり」

 

 サレは厭らしい笑みを浮かべた。

 

「キミのことはよく覚えているよ。僕に刃向い、村を捨てて逃げたドブネズミくん。逃げなければ僕の玩具になれていたのにな。残念だ」

 

 黙っていられなかったのは、ヴェイグ自身ではなく、後ろで聞いていたホーニャンだった。

 

他人(ひと)のこと、ドブネズミとかオモチャとか簡単に言うんじゃない!」

「お前……」

 

 驚くヴェイグには答えず、ホーニャンはさくらカードを納めたレッグホルダーを押さえた。

 

(手持ちのカードは『花』(フラワー)『歌』(ソング)『静』(サイレント)『戻』(リターン)『駆』(ダッシュ)。どれもこいつを追っ払うには決定打に欠ける。だったら)

 

 ホーニャンは李家伝来の魔法符を取り出した。

 

「ケロちゃん、お願い!」

「任しとき!」

 

 ケルベロスはホーニャンの意を汲み、白い羽根を大きくして自身を包んだ。

 羽根が開いて出現するのは、黄金の毛並みと瞳を持つ守護獣。

 

「火神、招来!」

 

 炎が、真の姿に戻ったケルベロスを包んだ。炎の気で一時的に火の属性を高めたケルベロスが、くわっと口を開け、サレに向けて炎を吐いた。

 サレが炎にたたらを踏んだ隙に、ホーニャンは自身に『駆』(ダッシュ)のさくらカードを使い、走って行って女性を抱き上げ、すぐさま手近な幹の上に跳び上がった。

 

 全身に火傷を負ったサレが、がくりと膝を突いた。

 

「う、嘘だろう……? こんな魔物に、僕が……」

「ケロちゃんは守護獣だよ。魔物なんかじゃない」

 

 ホーニャンは女性を抱えたまま、『駆』(ダッシュ)で強化された足で幹を助走し、ヴェイグたちのもとに跳んで戻った。

 

 抱えていた女性を下ろした。

 

「もう大丈夫だよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 火傷を負ったサレは忌々しげに、ケルベロスを、ホーニャンを、睨んだ。

 

「次は本気で叩き潰す。キミたちの……心を!」

 

 サレはマントを翻してその場から走り去った。

 

 

『お疲れはんやったな』

「ううん。ごめんね。ケロちゃん。嫌な役やらせちゃって」

 

 ケルベロスは何も言わず、大きな鼻先をホーニャンの手にすり寄せた。

 

「……すげえ」

 

 ふり返る。シングも、ヴェイグもミントも、助けた女性も、一様に目を丸くしてホーニャンとケルベロスを見ていた。

 

「すげえや! ケルベロスって変身できるんだ!」

 

 目をキラキラと輝かせ、ケルベロスにあちこち触るシングは、幼い子どものようだ。

 

『こら! ひげ引っ張るんやない!』

「ホーニャンさんは足が速いんですね」

「ああ。それに炎の真横を迷わず走り抜けるとは。度胸のある奴だ」

 

 ミントとヴェイグも。ホーニャンたちを気味悪がる様子は欠片もない。

 

「あ、あの。助けていただいてありがとうございます」

 

 例の女性さえ礼を言うものだから、ホーニャンは呆気に取られてしまって何も言えない。

 

「わたしはガルバンゾ国のエステリーゼ・シデス・ヒュラッセインといいます。エステルって呼んでください」

「ガルバンゾでエステリーゼというと……まさか、エステリーゼ王女?」

 

 ミントが驚きの声を上げたところで、こちらに走ってくる足音が二人分した。これはヴェイグやシングにも聴こえたらしく、二人して再び剣に手を伸ばした。

 

 駆け込んだのは、ゴーグルを頭に着けた少女と、帯刀した長い黒髪の男だった。

 

「エステルっ! ケガはない?」

 

 ゴーグルの少女のほうが明らかに取り乱してエステルに駆け寄った。

 

「大丈夫です。この方たちに助けていただきました」

「あの変な口調の奴はどうした?」

「駐在しているヘーゼル村へ戻ったのだろう」

 

 ホーニャンたちを置いて難しい話に移るものだから、理解を得られないのを覚悟で魔法を見せたホーニャンは肩透かしである。

 

 

 話の流れで、この日はヘーゼル村に行かず、エステル、それにユーリとリタという彼らをバンエルティア号に招くということになった。

 ――さらに、そのエステルとユーリとリタがアドリビドムに入隊するなど、この時のホーニャンは夢にも思わなかった。


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