CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
カノンノと組んでのクエストを終えてホーニャンが艦に帰ると、ホールには甘い香りが漂っていた。
「お帰りなさい、カノンノお嬢様、ホーニャン様」
ロックスとケルベロスの羽根ぱたコンビ(とホーニャンが勝手に呼んでいる)が飛んで来て、ホーニャンたちを出迎えた。
「お腹が空いたでしょう? 食堂へどうぞ。シナモンロールが焼けていますよ」
「わいも手伝うたんやで」
「ケロちゃんえらいっ」
「どうりでいい匂いがすると思った! ね、ホーニャン、おやつ食べに行こう♪」
「行く行く♪」
――かくて食堂。
ホーニャンたちがテーブルに着いてわくわくしながら待っていると、ロックスが焼き立てのシナモンロールを盛った皿をテーブルに置いた。
「わあ、いい匂い!」
カノンノが一番にシナモンロールを一つ摘まみ、一口食べた。
「お嬢様。ちゃんと食べる前に『いただきます』を言わなくてはいけませんよ」
「あ、はい。いただきます」
「あたしもいただきま~す。――うん、
「わいもいただきま~す♪ あむっ」
テーブルの上に座るケルベロスも、幸せオーラ満開にシナモンロールに齧りついた。
「どうぞ、召し上がってください。『いただきます』は、食べ物へのご挨拶なんですから」
ホーニャンはケルベロスと揃って首を傾げた。
「食べ物はですね、自分の命になってくれる、体への大事なお客様なんです。だから、いただきますと言うのは、大事なことなんですよ」
「体へのお客様……」
ホーニャンはシナモンロールを一口食べた。口の中に広がる、シナモンの風味とアイシングの甘さ、そしてふわりとした食感。
これら全てがホーニャンの体を、命を、生かす糧となる。
「おいしい――」
「ありがとうございます」
「ごちそうさまぁ」
「カノンノ、はやっ」
「はい。『ごちそうさま』もですよ。お粗末様でした」
ロックスがぺこんと頭を下げた。
「そうだっ」
カノンノが両手を打ち合わせた。
「わたし、また新しい絵を描いたの。見て、くれるかな」
「いいよ。見せて」
カノンノは極上の笑顔を浮かべ、スケッチブックを持って来ると言って食堂を出て行った。
「旦那様と奥様がいたら、あんなふうに絵を見せていたのかな……」
ロックスの呟きはどこか寂しげで。ホーニャンはつい聞いてしまった。
「そういえば、カノンノのお父さんとお母さんは? カノンノとは離れて暮らしてるの?」
「彼女のご両親――旦那様と奥様は、亡くなられているんです」
きん、と耳に入るあらゆる音が消えたように感じた。
「二人とも腕の立つ医者でしたので、国から従軍医として戦場に連れて行かれ、殉職しました。まだ、お嬢様が生まれてほんのひと月のことでした」
「そう、だったんだ」
「僕は当時、お嬢様のご両親に使用人として雇われていました。残されたお嬢様を預かり、お二人の無事を祈りながら、お嬢様をお育てしていたんです。でも、お二人の死を国から伝えられ、戦火は住んでいる村にまで及び……僕は赤ん坊のお嬢様を連れて旅立ちました。お仕えしていた旦那様と奥様の大事な娘。彼女は僕にとって、とても大切な、そして、新しい主人でもあったんです。責任を持って、立派な淑女に育てるって決めたんです」
するとケルベロスが食べかけのシナモンロールを置いて、パタパタと飛んでいって、ロックスの肩に前脚を置いた。
「えろう大変やったやろ。お前さんも辛かったんやないけ?」
「……僕も、お嬢様を育てることで救われてますから」
ケルベロスは無言でロックスの背中を軽く叩いた。
「どうか、仲良くしてあげてください。カノンノお嬢様と」
うん、と一つ肯くしか、ホーニャンは応える言葉を持たなかった。
「お待たせー。どうしたの?」
スケッチブックを抱いたカノンノが食堂に入って来て、笑顔で首を傾げた。
「何でもありませんよ」
「そう? ――見て見て。ここからなんだけど」
カノンノはホーニャンの隣に座り、嬉しそうにスケッチブックを開いた。ホーニャンはカノンノに肩を寄せた。
ホーニャンはカノンノと絵についてあれこれ話をした。
どうか動揺を声から悟られませんように――と、祈りながら。
ケロちゃんとロックス、実は属性が駄々被りだった事件(゚д゚)!