CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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彼女が想い描くのは

 ホーニャンが食堂へ行くためにケルベロスとホールに出た時だった。

 

 部屋に籠って、長兄のように占術でさくらカードの居場所を割り出そうとしたのだが、煮詰まったので、食堂で甘い飲み物でも貰おうと思ったのだ。

 

「あ、ホーニャン様、ケルベロス様、ちょうどいいところに」

 

 ロックスが食堂へ続く通路からホールへ出てきて、ホーニャンたちに声をかけてきた。

 

「実はお嬢様に絵筆を渡し忘れて」

 

 そういえばカノンノには絵を描く趣味があると、何かの折に聞いた。

 

「ロックスでもそないポカすることあるんやな」

「お恥ずかしい限りです……」

「こら、ケロちゃん」

 

 ホーニャンは肩にぶら下がるケルベロスのほっぺを指で、むに、と押した。

 

「ロックス。その筆、カノンノに渡せばいいの?」

「は、はい。お鍋を火にかけている途中で気づいたものでして。早く見に戻らないと」

「いいよ。届けとく」

 

 ホーニャンはロックスから絵筆を受け取った。

 ロックスが、カノンノは操舵室にいると言ったので、ホーニャンはケルベロスと操舵室へ向かった。

 

 

 操舵室に入る。

 ここにいつもいる船長のチャットに「おつかれさま」と挨拶してから、ガラス窓の前に立って真新しいスケッチブックを開いたカノンノに呼びかけた。

 

「あ、ホーニャンにケルベロス」

「これ、ロックスから預かって来た…よ…」

 

 ホーニャンは絵筆をカノンノに渡そうとして、カノンノが持つ「真新しいスケッチブック」を、見て――

 

「「あーっ!!」」

「ど、どうしたの?」

「それ! そいつ、『創』(クリエイト)のカードやないか!」

「カードって、さくらカード?」

「あたしもわかる。さくらカードの気配だよ」

「これが? 普通のスケッチブックに見えるけど」

 

 ホーニャンはスケッチブックを持つカノンノの両手を掴んだ。

 

「お願い、カノンノ! そのスケッチブック、あたしにちょうだい!」

 

 

 

 

 

 それからホーニャンはカノンノを拝み倒してスケッチブックを譲ってもらうことに成功した。

 

 

 スケッチブックを持ってホーニャンとケルベロスは宛がわれた部屋に戻った。

 

「はぅー、よかったぁ」

 

 ――『創』(クリエイト)は媒体の本に書いたことを現実にしてしまうカードだ。今日のごはんの献立から世界征服まで、やろうと思えば何でも現実に成せてしまう。

 カノンノがそのような不穏なことを書く少女でないとは知っていたが、他のメンバーの性格はまだ詳しく知らないゆえに、効果を説明せずにとにかく譲ってくれと頼んだのだ。

 

 ホーニャンは髪留めを外した。

 

「星の力を秘めし羽よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、(ホー)(ニャン)が命じる。封印解除(レリーズ)!」

 

 髪留めが星のロッドに変わるなり、ホーニャンは星のロッドを掴んでスケッチブックに向けた。

 

「汝のあるべき姿に戻れ! さくらカード!」

 

 スケッチブックが魔力にほどけ、星のロッドの先端にカードとしての形を再び結んだ。

 

「よし」

「やったな、ホーニャン」

 

 ケルベロスが小さな前足でホーニャンの頭をなでなで。

 ホーニャンはつい、『創』(クリエイト)のさくらカードを抱いて、にやけた。

 

 

 

 

 

 ――後日。

 帰艦したホーニャンは、また操舵室にいたカノンノを訪ねた。

 

「あ、ホーニャン、お帰りなさい。ケルベロスは一緒じゃないの?」

「食堂に行ってる。きっと摘まみ食いする気だよ」

 

 くすくす。カノンノは楽しげに笑った。

 

「あのね、あのね、カノンノ」

「なあに?」

「これ、あげる!!」

 

 ホーニャンは勢いよく新しいスケッチブックを差し出した。

 『創』(クリエイト)は封印してしまったから返せない。だから弁償として、自腹でカノンノに渡すためのスケッチブックを買って来た。

 

 カノンノは目を丸くしていたが、やがて微笑んでスケッチブックを受け取った。

 

「ありがとう。大切に使うね」

 

 ホーニャンは胸を撫で下ろした。ようやく胸につかえていたものが取れた。

 

「ところで、カノンノってどんな絵を描くの? 風景画? 人物画?」

「あんまり上手じゃないよ」

 

 カノンノははにかみつつ、元から持っていたほうのスケッチブックをホーニャンに差し出した。

 ホーニャンはスケッチブックを受け取り、ページをめくった。

 

 幾何学的な都市の絵もあれば、大樹と絡み合った街の絵もあった。

 

「わたしもね、この風景を実際に見たことないんだ」

「想像で描いたの?」

「想像、ともちょっと違うかも。スケッチブックの白い紙を見てるとね、たまに視えてくるんだ。色んな風景が。どうしてだかはわからない。でも、私はこの風景がどこかにあるんじゃないかなって思ってるんだ。他の人にも見せたけど、誰もこの風景を知らない。作り話みたいでしょ。笑っていいよ」

 

 ホーニャンは慌てて両手を左右に振った。

 ――笑えるわけが、なかった。

 

 なんとなく気まずい空気が少女たちの間に漂った。

 その空気は、ケルベロスが操舵室に「おやつやでー!」と元気に入ってくるまで、拭えなかった。


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