CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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フォドラへ

 フェンデルの熱線照射装置を修理したとの報せが、連絡装置を使ってフーリエから届いた。

 これで本当に、シューイたちはシャトルに乗って異星フォドラへ出発する準備を完了した。

 

 ラント家の屋敷を発つ前に、ケリー夫人手ずから作ったブレックファーストが食卓に並んだ。

 アスベルとマリクには甘口カレー。ヒューバートとパスカルにはオムライス。シェリアには焼き鳥丼。シューイには天心。

 

 ソフィの席には大好物のカニタマの皿。しかしソフィは手をつけない。

 ソフィの手足が上手く動かないことを知っていたシューイは、カニタマをスプーンで一口大に掬っては、ソフィの口に運んだ。

 ソフィは「おいしい」と微笑んで、あーんと口を開けた。二口目を待っている。親鳥の気持ちが少しわかった気がしたシューイである。

 

 

 腹にやる気を充填した彼らは、勇み足で、シャトルのある海辺の洞窟へ向かった。

 当然ながら、シューイは出発から到着まで、一人でソフィを背中に負ぶさった。アスベルが代わる、と申し出たこともあったが、譲れず、断った。

 

 海岸に着くと、ポアソンが待っていた。シャトル発射のオペレーターはポアソンが務めることになったそうだ。

 シューイはその時、パスカルの表情が曇ったのを見逃さなかった。

 シューイとしても、フーリエが妹パスカルを助けに馳せ参じなかったことを残念に思った。

 

 シューイたちは隠し洞窟へ入り、シャトル制御室に出た。

 

「さーて。それじゃポアソン、あたしのやり方をよーく見ててね。――みんな、悪いけど少し待って。ポアソンと協力して、突貫でシャトル本体を整備しちゃうからさ」

「わかった。俺たちにできることがあれば、何でも言ってくれ」

 

 ――一時解散となったパーティ。

 ソフィは制御室の隅で、床に敷いた寝具に横たわって休んでいる。

 ソフィの寝具に使う布には、シューイが突貫作業で、治癒の魔法陣を塗り込んである。気休めだと分かっていても、何かしないと気が済まなかった。

 今もそうだ。シューイはソフィのそばを離れず、手を握り、西洋魔法での治癒を施し続けた。

 

「出発前から疲労の上積みはよせ。本番に祟るぞ」

「マリクさん……」

「何かしなければ、と焦る気持ちは分からんでもない。だがその気持ちは、空の向こうへ飛び出してからあとのために蓄えておけ」

「……はい」

 

 渾名が「教官」だけあって、マリクに諭されると、他の誰に言われるよりも素直に頷けた。

 

 やがて、パスカルとポアソンがシャトル本体の整備作業を完了した。

 

 戻ってきた仲間たちに、パスカルは常の軽快さを失わずに問うた。

 

「本格起動させるけど、いい?」

 

 誰も否を唱えはしなかった。

 

「皆さん、シャトルに乗ってください。シャトルを発射レーンに乗せます」

 

 シューイはソフィを慎重に起こし、再び彼女を背中に負ぶさった。

 

 

 

 

 シャトル、と呼ばれたそれの内部構造は、シューイの故郷のSFアニメかゲームに出てくる飛空艇のものと酷似していた。こんなシートに座って大気圏脱出のGに耐えられるのか不安になるくらいには。

 それでも、これがエフィネアの、あるいはアンマルチアの技術的には「常識」なのだと信じ、シューイはソフィをシートの一つに下ろして座らせた。

 

《カタパルト移動。シャトルエンジン臨界……シャトル発射!》

 

 シャトルが海から聳え立ったレーンを疾駆し、ついに天へと飛び立った。

 

 シューイが驚いたことは、シートのあるコクピットにGらしきものが全く影響していないことだ。なるほど。シートベルトの一つもなくても、これほどの防御力が機体にあるなら納得だ。

 

 やがてシャトルはエフィネアの羅針帯を突破した。

 目指す先には、赤黒く荒廃した巨星。シャトルはフォドラへと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 フォドラ着陸の衝撃で総員が席から転げ落ちた。

 

(……まあ、こうなるよな普通。地球のロケットなんて拘束具か! ってくらいがっちり固定するもんなあ)

 

 シューイは一番に、ソフィに無事かを問うた。今までは「だいじょうぶ」と言っていたソフィが、無言だ。――ソフィの容態は加速度的に悪化している。

 

 アスベルがとにかく外に出ようと言ったので、シューイはソフィを背中に負ぶさって、最後尾でシャトルを降りた。

 

「ここがフォドラ、なのか? ソフィの故郷かもしれない場所、なのか?」

 

 広がる光景は、岩と土だけの荒野。見渡す限りの廃墟。

 

「緑が見当たらないせいかしら。なんだか寒々しい感じ」

「パスカル。このシャトルだが、もう一度動かせるか?」

「うーん。さすがにここまで豪快に壊れちゃうと、難しいかもしれないなあ。ソフィを治す方法と一緒に、修理のやり方も一緒に調べればいいんじゃないかな?」

 

 エフィネアに帰れないかもしれないという憂慮の中、一番に腹を括ったのはやはりアスベルだ。

 

「とにかくソフィを治すことが最優先だ。俺たちはそのためにここまで来たんだから」

「そうですね。人がいれば話を聞けるのですが、近くに街はないんでしょうか?」

「――シェリア。少しソフィを頼む」

 

 シューイはソフィを下ろして、シェリアに任せた。次いでロングコートの内ポケットから『影』(シャドウ)のさくらカードを抜いた。幼い日の母・さくらはこれで人探しを成功させていた。

 

「影よ! この大地に生きとし生ける者の影を捉えよ! 『影』(シャドウ)!」

 

 中身のないマントが起き上がり、その身を闇色の液体に変じさせて、一直線にある方角へ進み始めた。その方角には、空中都市がある。

 

「荒野を徒歩で抜ける時間が惜しい。多少手荒なやり方で“道”を作る。いいか?」

 

 これにはアスベルが決然と頷いた。

 

「頼んだ」

 

 ――アスベル・ラントの迷いのなさ、揺るぎなさに、シューイは何度嫉妬したことか。

 

 シューイは内ポケットから『地』(アーシー)のさくらカードを抜いた。

 

「土よ、岩よ。これよりかの都市までの橋をかけよ。『地』(アーシー)!」

 

 シューイたちのいる場所から、一直線に、空中都市へ向けて石橋が構築されていく。これであの空中都市までショートカットできる。

 

「シューイ? そんなにさくらカードを何度も使って、体は平気なの?」

「さすがに二連発の広範囲は魔力を使いすぎた。少し控えさせてくれると助かる」

「すまない、シューイ」

「いいよ、アスベル。ソフィのためならどうってことない」

 

 シューイはシェリアに歩み寄り、彼女が支えていたソフィに背中を向けてしゃがんだ。ソフィは目が見えないはずなのに、分かっているかのようにシューイの背中に身を預けた。

 シューイはソフィを負ぶさって立ち上がった。そして、アスベルたちと共に、空中都市へ向けて足を踏み出した。


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