CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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ラント防衛線 2

 シューイはソフィをがっしりと負ぶさり、北ラント道を駆け抜けて街へ急行した。

 

 案の定、ラントの中心街では魔物(モンスター)の群れが暴れ、兵士や領民を弄ぶように襲っていた。

 視力を失くしているソフィにこの惨事は見えないが、彼女の耳に届く喧噪と剣戟はシューイにもシャットアウトできない。

 

「悲鳴が……こんなに……」

 

 シューイは両足に蓄積した疲労と呼吸の苦しさを無視し、果敢に魔物(モンスター)に挑む民兵たちの中からアスベルたちを目で探した。

 

「アスベル様!?」

「兄さん!!」

 

 ――見つけた。アスベルは兵士の一人を庇って魔物(モンスター)の攻撃を受け、壁に背中を叩きつけられていた。

 

「体張り過ぎだっての!」

 

 シューイは頽れたアスベルのもとへ駆けつけた。

 

「アスベルっっ!!」

「なっ……ソフィ、シューイ!? フェンデルで待ってたはずじゃ」

「ソフィの希望だ! 説明はあとでする!」

 

 シューイがアスベルに立ち上がれるかを尋ねる前に、か細く、ソフィが呟いた。

 

「守る」

「――いいのか」

「みんなを……守る!」

「わかった」

 

 シューイはソフィを背から下ろした。

 

 前にまろび出たソフィの体が菫色の光を帯び始める。ラントに攻め入ったリチャードを撃退した時と同じだ。放たれる光はどんどん強くなり、ソフィ自身の姿さえ光の中に掻き消していく。

 

 シューイはロングコートの内ポケットから手持ちのさくらカードを全て出した。

 ――シューイ・リーはこうするためにソフィと共に来たのだ。この役目だけはアスベルにだろうが譲りたくない。

 

「木之本桜の創りしカードよ。かの者の力となれ。カードに宿りし魔力をかの者に移し、かの者を守れ」

 

 菫色の光が柱となり、徐々に白くなってゆく。その白光の柱に向けて、シューイはさくらカードを全て投げ放った。

 さくらカードがソフィを囲んで展開した。カードもまた光に呼応するように輝き、その輪郭をなくして光柱と溶け合った。

 

 白い光が炸裂した。

 

 光が晴れた時、ラントの街から魔物(モンスター)は一匹もいなくなっていた。

 シューイはすぐさま、ふらりと傾いだソフィを受け止め、彼女の上半身を支えながら横たえた。

 

「あ……」

「大丈夫だ。もう魔物(モンスター)はいない」

「よか、った……」

 

 ソフィはかくんと頭を落とした。意識を失ったのだ。

 

「シューイっ。ソフィは」

 

 シェリアが一番に走って来て、シューイの反対側からソフィの顔色を覗き込んだ。眠った、と伝えると、シェリアは長く安堵の息を吐いた。

 アスベルたちもソフィを案じて駆けつけた。

 

 シューイがソフィを安静に休ませたい旨を伝えると、アスベルはラント家の屋敷に運ぼうと言って立った。シューイはソフィを背中に負ぶさり、アスベルを追いかけた。

 

 

 

 

 

 ラント家の屋敷に招き入れられたシューイは、アスベルの私室を借りてソフィをベッドに寝かせた。

 

 今この部屋にいるのは、苦しげな呼吸をくり返すソフィと、見守るシェリア、パスカル、ヒューバート、マリク。アスベルとヒューバートは執事のフレデリックに呼ばれて部屋を外している。

 

 シューイは剣を召喚し、「(イリュージョン)」のさくらカードを取り出した。

 

「無明の瞳に花園を映せ。『(イリュージョン)』」

 

 剣先でさくらカードを突くと、カードは魔力へとほどけ、ソフィの虚ろな目に染み込んだ。

 

「何をしたの?」

「気休めだよ。ソフィ、視えるか?」

「あ……ここ、シェリアの家の花壇。視えるよ。色んなお花が咲いてる」

「世界中の花の種を集めて、シェリアの家の花壇に咲かせるんだったろう? 咲いたぞ。お前が集めた種がこんなに」

「うん。きれい……」

 

 ふう。穏やかな息を一つ吐いて、ソフィは眠りに落ちた。

 ソフィが眠りに落ちるのに合わせて、「(イリュージョン)」がカードの形に戻った。

 

「幻を見せた。少しでも楽な気分で眠れるように。いい夢見せたようなものだ」

「確かに、さっきよかラクそうな寝顔だねえ」

「ええ。よかった――」

 

 シェリアは涙ぐんでいる。――そのシェリアの“光”の治癒術さえこの容態のソフィには効かなくなったというのも、「(イリュージョン)」のさくらカードを使った一因である。

 

「フェンデルの熱線照射装置……早く解決しないとソフィが――っ」

「パスカル。それについてグッドニュースだ。上手く行けばフーリエさんとの関係修復の第一歩になるかもしれない」

「ふぇ? お姉ちゃん?」

 

 シューイは自分とソフィがフーリエに合成獣でラントまで送ってもらえた経緯と、今なら地上オペレーターに任命されたフーリエが海辺の洞窟でシャトルの実物を検分中だろうとの憶測を話した。

 

「『この世に偶然はない。あるのは必然だけ』。歌帆夫人の言葉を今日ほど痛感した日はないよ」

 

 シューイの長話を聞き終えて、パスカルは例の通信装置を取り出すと、猛烈な勢いでメッセージを入力して、フーリエ宛てに発信した。実際にパスカルがフーリエに会いに飛び出すと予想していたシューイには肩透かしであった。

 

「お姉ちゃんにはフェンデル側の熱線照射装置の修理をお願いしたよ」

「フーリエさんがフェンデルのほうの装置を修理してくれれば、おれたちはシャトルに乗ってフォドラへ飛び立つだけか。休息と準備の時間が稼げたな」

「シューイ。これからも、ソフィがうなされたら、さっきのさくらカードを使って、ソフィを落ち着かせてあげてくれる?」

「頼まれるまでもなくそのつもりだ。ソフィには付きっ切りになるが、そこは大目に見てくれ」

 

 ふと、ソフィの手が何かを探すように宙をさまよった。シューイは反射的にソフィの手を握った。


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