CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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ラント防衛線 1

 シューイは今日も、ソフィを背中に負ぶさって、雪を踏みしだいて歩いていた。

 フェンデルからラント領に接する砦を目的地にしてから、何日歩いただろう? などと数えるのは4日目でやめた。

 

(今日はソフィの容態も落ち着いてるほうだ。このまま3、4日中にウィンドルへ入れたらいいんだが)

 

 出発前に見た地図だと、現在地から国境砦までは一直線。その先はウィンドルであり、ソフィにとっては思い出の地であるラント領がある。

 だがウィンドルに入ってゴールではない。ラントからまた港町へ出て、ストラタのセイブル・イゾレに向かい、アスベルたちと合流するまで気は抜けない。

 

 思考を巡らせていたシューイの頭上で、いくつもの羽ばたきが聞こえた。

 シューイは空を仰ぎ、薄暗い曇り空を魔物(モンスター)が群れを成して飛行している光景を目にした。

 

(確か、星の核(ラスタリア)の繭から魔物(モンスター)が出てきてるんだったな。あんなに大量だったとは、そりゃあ通信装置でヒューバートが忠告するはず……待て。あの群れが向かってる方角、おれたちの進行方向と同じじゃないか?)

 

 まさか、とシューイが思い至った時、一枚のさくらカードがシューイの眼前に浮かんだ。――「(ファイアリー)」。初めてセイブル・イゾレに行った時の占いでは、アスベルを示したさくらカードだ。

 

(やっぱり魔物(モンスター)の狙いはラントか!)

 

 シューイはソフィに断ってから彼女を背中から下ろし、地べたに座り込むソフィの上体を片腕で支える姿勢を取った。次に、もう片方の手でコートの内ポケットから「(メイズ)」のさくらカードを取り出し、召喚した剣でそれを突いた。

 

「魔なるものよ、天空に迷え! 『(メイズ)』!」

 

 空を飛んでいた魔物の群れが、あるラインで次々と消えていく。「(メイズ)」の作り上げた不可視の迷宮に迷い込んでいく。

 これで魔物の群れは天空迷宮から出られずどこにも行けない――シューイの魔力が切れない限り。

 

(わかってる。時間稼ぎに過ぎないって。早く次の手を考えないと。おれたちが駆けつけるのは間に合わない。アスベルたちも今頃はストラタだ。せめてラント領に、魔物(モンスター)が来ることを知らせる道具なり通信手段なりあれば……!)

 

 シューイが忸怩たる思いで俯いた時だった。シューイやソフィを覆って余りある巨大な陰が差した。

 シューイはとっさにソフィを片腕で抱き寄せて、剣を片手で構えた。

 剣先にそびえ立つのは、翼を持った魔物(モンスター)――ではなかった。それは、合成獣(キメラ)だった。フーリエの研究所で番犬役をして、シューイたちを散々手こずらせた――

 合成獣のさらに上へ視線を向ければ、手綱を握ったフーリエがいた。

 

「フーリエさん!?」

「事情はポアソンから聞いてるわ! シューイ、その子も一緒に乗りなさい!」

「恩に着る!!」

 

 シューイはソフィを抱き上げ、合成獣の上のフーリエに託した。フーリエが騎上にソフィを抱え上げて安定した位置に座らせるその下で、シューイもまた合成獣に這い上がった。そして、フーリエに投げ渡された固定具で、がっちりと、自分とソフィの体を固定した。

 

 フーリエが手綱を打つと、合成獣は嘶いて飛び立った。

 

「シューイ……」

「前置きも説明もなしにすまなかった。一刻を争う事態だったから」

「いいよ。シューイが理由もないのに乱暴なことしないの、知ってる」

 

 この切迫した状況にあって、シューイは顔が熱くなるのを止められなかった。

 

「それより、シューイは大丈夫なの? 呼吸、どんなに殺してても、苦しそうなのが伝わってくる」

 

 こうしてフーリエが操る合成獣に乗って動かずにいても、発動中の「(メイズ)」はシューイの体から魔力を奪っていく。

 

「ラントに着くまでは持ち堪える。意地でもな」

 

 シューイは決意をソフィに伝える意味で、彼女の肩を支える手に力を込めた。

 

「フーリエさん、この吹雪の中でよくおれたちを見つけられたな。助かったよ。本気で」

「私はポアソンがパスカル宛てに飛ばした通信装置のあとを追いかけて来ただけよ。たまたま下に光るものが見えたから見下ろしてみて、そこにあなたたちがいた。ああ、それとも、あなたにとっては『必然』かしらね? シューイ」

That’s anymore.(それはもう) でもどうしてパスカルに会いに行こうなんて」

「それが、ちょっと複雑な話でね」

 

 フーリエが語ったのは、ソフィを治すために異星フォドラへ行く手段、シューイの世界で言う所のスペースシャトルについてだった。アンマルチア族の技術体系が地球での「科学」とほぼ同義であることは薄々知っていたが、宇宙進出まで視野に入れていたとは。げに恐ろしきはアンマルチア。

 とはいえ、やはりエフィネアも異世界。シャトルを飛ばすだけならともかく、発射後の制御のために地上に残るオペレーターが必要だとか。

 パスカルはそういった諸事情を通信装置にしたためてポアソンに送り返した。受け取ったポアソンはオペレーターにフーリエを指名した。

 かくてフーリエは不承不承、合成獣に乗ってパスカルたちに合流しようとして、シューイたちを発見したわけである。

 

「ん? その話だと、通信装置が向かう先がウィンドル方面だから……あいつら今、ウィンドルにいるのか!?」

「そうよ? なんでもシャトル本体はウィンドルのラントって領地の近くで見つかったんですって」

 

 シューイとフーリエが会話する間にも、合成獣は羽ばたいて、ぐんぐんとフェンデルとウィンドルの国境にある砦へ迫ってゆく。

 

「よく引き受けたな、その仕事」

「…………(おさ)の指名だってポアソンに言われちゃ断れないわよ」

「嫌々だろうが口実だろうが、フーリエさんの内心はどうあってもいいさ。大事なのは、フーリエさんの起こした行動がおれたちを救ったっていう結果だから」

 

 シューイが支えていたソフィが、もぞ、と動いてフーリエを見上げた。

 

「ありがとう、お姉さん」

「――気にしないで。あなたの不調もポアソンから聞いて知ってる。目的地までに少しでも体力を温存して」

 

 とても、慈しみ深い声だな、とシューイはぼんやり思った。

 

 ラント領と接する砦が遠くだが目視できる距離に入った。シューイはこのまま国境を突っ切るため、目晦ましのための「(イリュージョン)」を出そうとして――ひどい脱力感に襲われた。

 

「シューイ!?」

 

 悲鳴じみたソフィの呼びかけに「なんでもない」と答える余裕さえない。「(メイズ)」発動の魔力に限界が来たのだ。

 

 ここで「(メイズ)」を解かなければ、無事ラントに着けてもいざ魔物(モンスター)と戦う時に魔力は残っていないだろう。

 

(おれが魔力切れで使い物にならなくなったら、この状態のソフィを守るのはきっとアスベルだ。それは――譲りたくない)

 

 シューイは「(メイズ)」にカードの形に戻るよう念じた。

 空中で不可視の迷宮に閉じ込められていた魔物の群れが溢れ出て、ラントの方角へ再び侵攻していく。

 

「ッ、間近で見るとさすがに多い……! 一度あそこの海辺に降りるわ! 掴まって!」

 

 ソフィがシューイに弱々しくもしがみついた直後、ジェットコースターに似た落下感がシューイを強襲した。絶叫すら上げられない推力で、合成獣は地上へ向かっていった。

 フーリエの合成獣は海辺の砂を抉って着陸した。幸いにしてシューイもソフィも砂を被る羽目にはならなかった。

 

「はっ、はあ――! ソフィ、無事か」

「うん……」

 

 ここからはまたシューイの脚力との勝負になる。

 送ってくれたフーリエとの挨拶もそこそこに。シューイは地面に降りて再びソフィを負ぶさり、ラントの中心街を目指して、走った。




 ①ラントにシャトルがあったのでアスベルたちはラントへ行った
 ②船が欠航したためにシューイたちはウィンドルを目指した
 ③通信装置が①のアスベル一行宛てだったためフーリエとシューイたちの進路が重なった

 ――という「必然」でした。

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