CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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ぬくもりを背中に

 

(しかし、人一人担いで雪道を歩くってのは、案外キツイもんだな)

 

 足が、一人で歩く時以上に雪に沈み、靴の中まで雪が入ってきて、足が冷える。

 ソフィが揺れないようにと体の軸を普段より強く固定するため、消耗が早い。

 その無理をソフィに悟られまいと呼吸を浅く速くしているため、低酸素状態で頭がくらくらする。

 

 ふと、背中に負ぶさったソフィが、か細く呟く。

 

「ごめんね。重いよね」

「重いわけないだろ。こんなに小さいのに。それより寒かったら早めに言えよ。『(ファイアリー)』の威力上げるから」

「ううん。寒くない」

 

 ソフィには「(ファイアリー)」を開放状態で貸している。ただでさえ具合の悪いソフィが、寒さでもっと参ってしまわないために。ホッカイロ代わりにした「(ファイアリー)」には恐縮だが。

 

 ぎゅううっ

 不意打ちにソフィが強くシューイにしがみついた。

 

「このまま、見えなくなっちゃっても……忘れない、シューイの顔。いつだってわたしを見守ってくれてた、シューイのまなざし。思い出すだけで心がポカポカするの。だから……平気だよ」

 

 ――きっとソフィは笑っている。こんな悲しいことを、強がりでも自分へのごまかしでもなく、笑って言っているのだ。

 

 必ず良くなるから、と安請け合いすることも。弱音を吐くな、と励ますことも。シューイはしなかった。

 ただ、言葉にならないそれらの感情を糧に、殴るように雪を踏みしだいて進んだ。

 

 

 

 

 

 

 シューイとソフィがザヴェートの港に着いた時、先を行った仲間の乗った船はすでに出港していた。

 

 シューイは出港に立ち会ったフェンデル兵を捕まえて、自分たちも先に行った一団の仲間だから、ストラタのオル・レイユ港へ船を出してほしい旨を伝えた。

 フェンデル兵は、シューイの背中で淡く光るソフィを見てたじろいだ。フェンデル兵の反応は、こいつら胸倉掴んで軽く脅してやろうか、と剣呑な考えがよぎった程度には、シューイには腹立たしかった。

 

(ソフィがどれだけ苦しんで、どんなに耐えてここまで来たと思ってる)

 

 そこへ別のフェンデル兵が来て、シューイにとっては衝撃的なことを告げた。

 

「政府から通達です! 例の繭から出て来た魔物(モンスター)が船を襲う危険があるため、軍・民間船を問わず、全便を無期限順延とするそうです!」

「な――」

 

 ならばどうやってアスベルたちを追えばいいというのか。ソフィを負ぶさって両手が塞がっていなければ、シューイはそう言って兵士に掴みかかっていただろう。

 

(海路がだめなら陸路しかない。遠回りになるが、ここで船がまた出られるようになるまで待つよりは、すぐ移動したほうがソフィの気も楽になる――はずだ、よな)

 

「ソフィ。今の聞いてたか?」

 

 負ぶさったソフィに慎重に語りかけた。

 

「うん。船、出ないんだよ、ね」

「進路を変える。ラントに続く砦を抜けて、ウィンドルからストラタへ船で渡る。もうしばらくアスベルたちに会うの、我慢できるか?」

「できるよ。シューイと一緒、だもん」

 

 舞い上がりそうになりながらも、シューイはどうにか気力でそれを心から追い出した。ソフィのことだ。本当はアスベルたちに会いたくて堪らないはずだ。でもそう言うとシューイが気にするから、気を遣ってこう言ってくれているのだ。そうに違いない。

 

 シューイは改めてソフィを負ぶさり、踵を返して港を出て行った。

 

 雪を踏み締めて、元来た道をシューイは一歩ずつ、一歩ずつ、進んだ。

 いくら軽いとはいえ、人一人を背負い続けて雪道を歩くのは、やはり体がしんどい。だからといってシューイはソフィを歩かせる気は毛頭なかった。




 はいまたもやお待たせしてすみません。性懲りもなく戻って参りました。
 原作とはちょっと変えて、ソフィとシューイの二人旅にしてみました。

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