CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
上陸した、途端、シューイの全身は総毛立った。
シューイは走り出した。
「シューイ!?」
「リチャードが先に来てる! このままだと
感じ取った。風と水と火の莫大な
ひゅお、と背後で一陣の風が起きたかと思うと、ソフィがシューイの横を並んで走っていた。
「ソフィ」
「リチャードは、ともだち……止めるだけ、止めるだけなの……っ」
「――。ああ、止めてやろう。悪いことをしてる奴には、誰かが『それは悪いことだ』って教えてやって、きっついオシオキをくれてやらないとなっ!」
島の中心部らしき何かの階段と遺構に辿り着いた時、シューイとソフィはリチャードと
(やっぱり今まで取り込んだ
シューイはロングポートのポケットから「
「かの者を捕えよ。『
リチャードの影が容積を持って膨れ上がり、リチャードの足、胴、腕、手を縛り上げた。
「リチャード! もうそれ以上、進むな!」
追いついたアスベルがリチャードを認めるなり、真っ先に叫んだ。リチャードの変貌など恐怖ではなく、ただ友の安全が脅かされることだけを案じて。
「黙れ! ここまで来たのだ。ようやくここまで来たのだ。邪魔をするな!」
だが、影の拘束をシューイは簡単に緩めない。放てばリチャードはソフィを傷つけると思ったから。
「……ナゼだ……ナゼ体が……ココ、マデ……ココまで来て……!」
マリクがアスベルに、せめて情けとしてトドメを刺せ、と言ったが、アスベルは腕を上げてマリクを制した。
「リチャード……リチャードの声が聞こえる!」
確かに。耳をそばだてれば、リチャードはうわ言同然だが、確かにアスベルの名を呼んでいた。
シューイは「
リチャードは石畳の上に投げ出されると、頭を抱えて右に左に転がった。クルシイ、イタイ、タスケテクレ――と訴えた。
「シニタクナイ、キエタクナイ! タスケテ……ボクラハ、トモダチ、ジャナイカ……」
シューイの隣で身構えていたソフィが、はっとしたように、構えを解いてリチャードの前へ行ってしゃがんだ。
(あの至近距離。いざって時は『
ロングコートの内ポケットにある「
「マタ、キサマカ……
「ちがうよ。わたしは、ソフィだよ」
ソフィは細い腕をリチャードに伸ばす。
「リチャード。友情の誓い、しよう。そしたら、きっと」
ゆるゆるとリチャードが顔を上げていく。
「ソフィ――」
名を呼んだ。まだ完全にリチャードの意識が消えたわけではな――
「――消えろ」
リチャードは剣をソフィの眼前に突きつけた。
油断した。防御が間に合わない。このままだとソフィが。さくらカードを。魔法符を。剣を。だめだ。どれも間に合わない。ソフィも自分たちも。
剣先から放たれた衝撃波は、ソフィも、シューイらも、等しく吹き飛ばした。
衝撃波はシューイらを仕留めてなお勢いを失わず、
「ソ、フィ……ソフィっ」
体のあちこちの痛みを無視し、シューイは腕で上体を逸らして起き上がった。
後ろにいたシューイでさえこのダメージだ。直撃のソフィは――
ソフィは眠るような表情で瓦礫にもたれ、ぐったりして動かない。
高く浮かび上がったリチャードが哄笑している。
シューイは剣を召喚し、剣を杖代わりにして立ち上がり、ふらつきながらソフィのもとへ行った。
ソフィの傍らでしゃがみ、頬に触れ、口元に掌をかざす。体温も呼吸もちゃんとある。
シューイは泣きたいほど安堵し、治癒の魔法をソフィに施術し始めた。
「とうとうここまで来た! もはや誰も我を止められぬ!」
リチャードが撓めた四肢を広げると、赤黒い瘴気が、瘴気ではなくなり実体を得た。あれは、触手だ。
赤黒い触手は地面に突き立つなり石化し、それが幾条にも連なって繭になっていく。
触手の一本が、ソフィを治療するシューイに向かった。
「邪魔を――するな! 『
シューイは即座に剣を「
「とにかく走れ! このままだと巻き込まれるぞ!」
ソフィはアスベルに任せた。アスベルがソフィを背中に担いで、彼らは走り出した。
シューイは
シューイたちは走って船に飛び乗った。
近くにいた船員にすぐに船を出すように、マリクが檄を飛ばしたおかげか、船はそう間を置かず海の上を滑り出した。
アスベルはソフィを下ろして横たえ、彼女の名を呼び続けている。ソフィの両脇に、シェリアとヒューバートが膝を突いて、“光”による治癒術を施し始めた。
船がフェンデルの海域に入った頃、ようやくソフィは意識を取り戻した――が。
「みんなは、みんなは……どこ?」
「あなた、まさか目が……!」
「ここです、ソフィっ」
「みんなの顔、少しずつ、ぼんやり、していくの……」
シェリアとヒューバートが再び“光”による治癒術を施すが、ソフィの視力も謎の苦痛も全く治らない。
「こんな寒いところに寝かせておくのは良くないよ。ひとまず宿屋に行こう」
向かった先の宿屋でソフィの容態が落ち着くのを待っていたかのように、パスカルが口火を切った。
「言いにくいことなんだけど……ソフィはあたしたち人間とは違う存在なんじゃないかな。今の様子だって、人間じゃ考えられない反応だよ」
ソフィの全身は、白く淡く明滅している。リチャードの攻撃によるものか、それともソフィの肉体そのものによるものかはわからないが、確かに常人の反応ではない。
「ソフィが人間だろうとなかろうと苦しんでいるのは事実だ。諦めようって話なら俺は聞かない」
「ううん。むしろその逆だよ。ソフィを――ソフィをフォドラに連れて行くんだよ」
このパスカルの提案には、アスベルを初め、ヒューバートもシェリアもマリクも笑顔で賛成した。
(みんながソフィを助けたい。みんなにとってソフィはそれだけ重い存在なんだ)
その内、ポアソンと、アンマルチア族の長である老婆が部屋を訪れた。
老婆はパスカルにかつてのアンマルチア族の棲み処を教え、ポアソンは船をストラタに出す段取りは整っていると告げた。
シューイは腰かけていたベッドを下りず、シーツを握り締めた。
「おれは残る」
「え!?」
「シューイ!?」
「ポアソンの申し出は有難く受ける。これはおれのわがままだ。この状態のソフィから離れたくない」
「……そうね。ソフィも一人くらい、親しい人がそばにいたほうが安心して休めるわよね。お願いしましょうよ?」
「シェリアがそう言うなら……シューイ、頼めるか?」
「任せろ」