CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
政府塔をそれなりに上層に登って(マリクは「高い所が苦手だ」とぼやいていたが、真偽は定かならない)から着いた部屋の一つに、アスベルらは踏み入った。
マリクが一通り、小奇麗で広いその部屋を見回ってから、
「部屋は間違いないようだ。所々にカーツのサインが入っている」
と、言質を出してくれた。
アスベルは皆と揃って、
「兄さん。――これを」
本棚の前にいたヒューバートに歩み寄り、ヒューバートが差し出したノートをアスベルは捲った。
「どうやらフーリエさんの研究とは別に、技術省でフーリエさんの研究に手を加えたようですが」
「問題は
ひょこん。
いつのまにか来ていたパスカルが、アスベルの後ろから顔を出した。
「技術云々の次元じゃなくて、絶対安全ってことはないんだよ」
「発案者のパスカルさんがそこまで言うなら、是が非でも実験を止めなければいけませんね。例えカーツ氏と」
そこでヒューバートの目線がマリクに流れた。
「戦うことになっても」
――マリクが肉体も精神も強く鍛え抜かれた戦士であることは、指南を受けたアスベルが一番知っている。
だが、カーツはマリクの友人だ。マリクの胸中は。行動は。
こればかりはアスベルにも、マリクを信じるしかできない。
「ねえ、アスベル! これって地図じゃない?」
アスベルはヒューバートとパスカルと揃ってすぐさま執務机の前に走った。
シェリアが示したのは、机の上に乱雑に広げられた略式の地図。
「あ~、なるほど。あそこにあったのか~。――帝都を出てすぐ近くにある流氷の中に隠されてるみたい」
「あんな所に? ここからは目と鼻の先だぞ」
「そんなに帝都に近いと、もし
シェリアの言う通りだ。アスベルの中で、実験を止めなければ、という意思がより強くなった。
「おい、このメモ。日付じゃないか?」
シューイが取り上げた紙を読めば、確かにそれは今日の日付で、しかも実験開始の時刻が記してあった。
「カーツはここを発った後ということか……」
「カーツさんいなくて残念?」
「そうだな。だが……いなくてほっとしている気持ちがあるのも事実だ。実際、どのような顔をしてあいつに会えばいいか決めかねている部分もあったしな」
「教官……」
すると唐突にシューイがアスベルの手からメモを取り、その場に片膝を立てて座り込んだ。
シューイの手に剣が現れる。
「玉帝有勅 神硯四方 金木水火土 雷風 雷電神勅 軽磨霹靂 電光転 急々如律令」
室内であるにも関わらず、やわらかな風がシューイを包んで吹いた。シューイの前には、以前、シェリアの居所を探すために用いた魔法陣が広がっている。
「――
魔法陣が消えるなり、シューイが立ち上がった。
「一面氷で覆われてる大空洞。それに、赤くてでかい石。あれが
「そういえばフェルマー、実験には総統も出張るって言ってたっけか」
「多分だが、実験開始まで時間がない。全力で走っても間に合うか――しかたない」
「シューイ?」
「奥の手を使う。まずは外に出てくれ」
アスベルらが政府塔から出るなり、シューイが無味乾燥と言ってもいい目でマリクを向いた。
「単刀直入に聞きます。マリクさん。カーツさんと戦えますか?」
「――ああ。オレは、いや、オレがカーツを止める。それが、カーツの友であるオレの使命であり、けじめでもあると思っている」
「あたしも! あたしの発明が原因だってわかってるけど、お姉ちゃんを犯罪者になんてしたくない!」
「そこまで聞けば、オレも本気を出せる」
シューイがロングコートの内ポケットから出したさくらカードは、「
シューイはさくらカードを両手で宙へ投げ、剣先で突いた。
すると雪が零れ落ちる勢いで隆起し、アスベルら全員を閉じ込めた。
「削岩しろ、『
ずごん、と大きく沈むような衝撃。アスベルはとっさに近くにいたシェリアを支えた。
「貫け!!」
命令を受けて、岩の鏃は地面を抉り、地下へと向けて沈んでいった。
「お、おい! これ本当に大丈夫なんだろうな!? ちゃんと
「着かせてみせる! 絶対、大丈夫だ!」
しばらくはドリルの内部にいるような衝撃が続いた。
アスベルはシェリアを抱えて耐え忍ぶしかなかった。一人、パスカルだけ「こんなこともできるんだーっ」と目を輝かせていたが。
「抜けるぞ! 衝撃に備えろ!」
アスベルは強くシェリアを抱き込んだ。ソフィはマリクが、パスカルはヒューバートが守っているから心配ない。
土のドリルが弾けたことで、アスベルたちは全員が外へ投げ出された。
「風華招来!」
だが、誰も地面にぶつかることなく、どこからか生じた風がクッションになって皆を受け止めた。
一番に動いたのは、マリク。
マリクは鉈剣を抜いて走り、同じくこちらに走ってきていた重層槍を持つ男と、刃をぶつけ合った。
「マリク……? お前だったのか」
「相変わらずの技の切れだ。さすがだな、カーツ」
「久しぶりだと言いたいが、素直に旧交を温められそうな雰囲気ではないな」
互いに全力で武器を鍔競り合ってあの会話。やはりマリクの実力は確かだ。同時に、全く同じことをしているカーツという男も、また。
「実験をやめろ、カーツ!」
「この実験が成功すれば、我が国の民がどれほど救われるか! 20年前に始めた改革の志が形を変え、ついに成就するのだ! それをお前はやめろと言うのか!」
両者がぶつけ合う武器に、チ、チチッ、と火花が散り始めた。
「教官、俺も!」
「しょうがない人ですね!」
アスベルが剣を抜くと、ヒューバートもほぼ同じタイミングで双剣を抜いて駆けてくれた。こんな時なのに、嬉しかった。
「「でぇやああ!!」」
兄弟でカーツの左右から大ジャンプして剣を斬り下ろすと、カーツは察してマリクから離れ、下がった。
「お前らはそのまま援護頼む! おれたちは装置を停める!」
「任せた!!」
上からのアスベルとヒューバートの斬撃を、カーツは重層槍の二槍流で受け止め、逆にこちらを弾き返した。
一番に立て直したのはヒューバートで、一番にカーツに再び立ち向かった。
「教官!」
「オレは何ともない……! それよりアスベル、士官学校時代の連携は覚えているな」
「はい」
「やるぞ」
「はい!」
アスベルはマリクと背中を合わせ、同じ高さに剣を構え、突進した。
「「はああぁぁ――!!」」
気づいたヒューバートが大きく跳び、アスベルとマリクに道を空ける。
カーツが重層槍を交差して二刀による合わせ技を防ぐが、2対1の威力であれば押し切れる――!
「「おおぉぉぉ!!」」
「がはっ!?」
カーツはついに吹き飛ばされ、地面に転がった。
「強くなったな……マリク……昔は互角だったものを……」
「オレひとりの力じゃない。仲間がいたからだ」
マリクの目はヒューバートに、そしてアスベルに向けられた。そのことがアスベルには誇らしかった。
大きく炎が爆ぜる音がしてしばらく、
シューイらもまた役目を果たしてくれたのだ。