CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~ 作:あんだるしあ(活動終了)
猛吹雪の中、シューイらは向かい風ならぬ向かい雪を掻き分けるようにして、山を登っていた。
「くそ、吹雪強いな…っ」
「とばされちゃう……あー」
「ちょ、ソフィ!?」
シューイはとっさに、吹雪の勢いに負けたソフィの腰に腕を回して、小柄な体を受け止めた。
「ありがとう。シューイ」
「いい。お前の体格じゃ無理もない。また飛ばされそうになったらキャッチするから」
「うん」
ソフィから手を離し、言った通りまた受け止める時のため、シューイはソフィの後ろに付いて歩くことにした。
するとシェリアがシューイの耳に口を寄せた。
「(よかったわね。ソフィと密着できて)」
「(!! あ、あれはそういう狙いとかじゃ……そりゃ確かに、嬉しくなくは、なかったけど)」
頬だけが熱い。さっさと冷ませ、とシューイは吹雪に対してやつあたり同然に思った。
ひそひそと話すシェリアをふり返り、アスベルの気分はどうにもよくなかった。
「アスベル、どうしたの? 変な顔」
「い、いや、別に何でもないよ。雪が強いからちょっと堪えただけだ」
訳がわからないなりに、ソフィに心配をかけないようにと、アスベルは笑顔を取り繕った。
シューイら一行は無事にアンマルチアの里へ着いた。
「何ていうか、独特な感じね」
里に入ってのシェリアの第一声である。
「久しぶりだな、ここ来るの」
「シューイは来たことがあるのかっ?」
「『
「「チョコレートの噴水!?」」
アスベルとシェリアが同時に声を上げた。
これ以上の雑談は切り上げよう。下手に彼らの好奇心をくすぐる話を出して、里の探索をするなどと言い出されては、強行軍でザヴェート山を登った意味がなくなる。
「パスカル。家、連れてってくれよ。これで
「あいよっ。みんな、来て。あたしんちに案内したげる」
かくて訪ねたパスカル宅にて、やはり
「フーリエさんだな」
「うん……お姉ちゃん……」
パスカルにしては珍しく本気でしゅんとしているようだった。
「ええと――シューイはパスカルのお姉さんとも知り合いなの?」
場を明るくするためか、シェリアが若干ぎこちなく尋ねてきた。
「1回だけ会った。この人とは正反対のしっかり者」
「一瞬にしてそのお姉さんの人物像が思い描けましたね」
「多分その想像で間違ってない。……どうした、シェリア?」
「ちょっと、羨ましいなって。私、家族とケンカしたことないから」
「フレデリックだけだもんな。そういえばシューイは結構きょうだいは多いってストラタで言ってたな」
「ああ。でもケンカ相手は双子の弟だけだぞ。姉上も妹も女の子だからおれが本気を出すわけにはいかないだろ? それで弟もおれも、自然とケンカ相手はお互いだけって認識になっていったんだ。姉と妹とは口ゲンカもしたことないよ」
「仲がいいのねえ」
「まあな。結構な粒揃いの、自慢のきょうだいだよ」
思いを馳せる。今、そのきょうだいはどうしているだろう。
エレンピオスへ行った姉の
(姉上は心配要らないんだけど、
その後に訪ねた次代族長のポアソンからの話で、パスカルの姉フーリエが持った研究所の位置を聞き出すこともできた。
シューイらはアンマルチアの里を出て、往路よりは少しだけ弱まった吹雪の中を歩いて山を下りることになった。
「シューイ、いる?」
しばらく歩いてから、ソフィが不意打ちにシューイをふり返ったので、一つだけ鼓動が強くなった。
「ああ、いるぞ」
「うん」
ソフィはまた前を向いて歩き出した。
何故急に、と考え、シューイ自身が「飛ばされそうになったら受け止める」と往路で約束していたことを思い出した。
(おれ、頼られてる? 頼ってくれてるって自惚れていいのか? なあ、ソフィ)
フーリエが責任者として構えた、スニーク研究所。
鋼鉄で空高く組み上げられた研究所の建物の威容は、ヒューバートには軍の営倉を思わせた。
「ここがお姉ちゃんの研究所か~。こんな立派だなんて思わなかったよ。やっぱりお姉ちゃんはすごいな~」
ソフィがパスカルにフーリエの人物像を尋ねると、パスカルは喜々として語り始めた。頭が良くて何でもできて、そんな姉に憧れて。
普段の笑顔とは異なる、愛しい者を語る表情。
とにかくフーリエに会わないことには始まらないということで、ヒューバートらは研究所内に踏み込んだ。
天井が高く広い廊下を歩くが、他の人間とはすれ違わない。極力人件費を抑えたいのか、はたまた、フーリエが一人を好む質なのか。
「フェンデルに入国してかなりの時間を費やしたが、なかなか
「弱気な発言は控えてください。全体の士気が下がります」
兄であろうとあえて強く言う。実質、自分たちのリーダーはアスベルなのだと、ヒューバートも認めていた。
「だが、こうしている間にも、リチャードが苦しんでいる気がしてならないんだ。リチャードの行動には、きっと何か理由がある。あいつが望んだことじゃないと思うんだ」
「言っておきますが、一連の行動の理由がどうあれ、リチャード国王が止まらないのであれば、ぼくが殺してでも止めます。この先の結果がどうあれ」
ヒューバートの宣言にシェリアとソフィが目を見開いている。
「……納得はできないが、お前がそこまで言うのなら、俺が何としてでもあいつを止めてみせる」
アスベルは先より力強く、再び廊下を歩いて行った。そのアスベルにソフィとシェリアが続いた。
(罪はぼくが背負います。兄さんに友人殺しは似合わない)
「ヒューバート」
呼ばれて、ヒューバートは驚いて、自分を呼んだシューイを向いた。シューイが口に出して自分に対して呼び捨てにするのは初めてだったからだ。
「おれはアスベルに半票だ。悪いな」
「半票?」
「リチャードが苦しんでるのは本当だ。けど、望まず行動してるわけじゃない。だから、お前ら兄弟のどっちの意見も正しいと思う。だから、票は二人に半々」
「根拠は?」
「夢に見た」
「……つくづくデタラメな人ですね。そんなもので僕が納得するとでも?」
「しないだろうが、言わないで疑られるのはイヤだったからな。疑惑より変人扱いのがまだマシだ」
シューイがロングコートの内ポケットから一枚のさくらカードを出した。
「
とたんに頭上で何かが抉れた音がした。
ふり仰げば、天井近くの壁の左右から何かの岩らしきものが隆起し、2体の
顧みれば、シューイの手には彼がいつも使っている小剣が。
(デタラメ、改め、侮れない味方、くらいにはしておいてあげましょう)
広大な研究所内を足で懸命に探索し、シューイらはようやく、初めて、施設の中で人間に出くわすことができた。
パスカルと同じ白から赤へのグラデーションヘアを一つに束ね、パスカルと同じ色の虹彩でこちらを見つめるその女性。どこからどう見ても、パスカルの姉妹にしか見えない容姿だ。
「フーリエお姉ちゃん!」
「パスカル。あなただったの。誰かが研究を盗みに来たのかと勘違いしてしまったわ」
3年会っていなかったとは思えないほど、彼女らは滑らかに会話する。どこぞの兄弟にも見習わせたい。
「それで、何しに来たの?」
「フェンデル政府がやってる
「
フーリエの眼光が鋭くなる。
「断っておくけど、あの研究は私が長年かけてようやく完成させたものよ。あなたの研究を下敷きにしたかもしれないけど、そのことで文句を言われる筋合いはないわ」
「文句なんて言わないよ。さすがお姉ちゃんだって思う。あたしは途中でやめちゃったのに。……でもあれ、今のままじゃ完成とは言えない。やっぱり未完成だよ」
「言いがかりをつける気!?」
「そうじゃないんだけど……ん~、説明するより実演したほうが早いかも」
パスカルは近くを見回し、床から豆粒程度の小さな
その
「ここからさらに……ペチペチ……ピシッと。――シューイ! 『
「大事なことは先に言えって、おれ、前に何度も言ったよな!?」
シューイは慌ててロングコートの内ポケットから「
直後、
内側から吹き飛んだ試験管のガラス片と培養液が床の上に散らばったが、それらは視えない境界線でもあるように――実際に「
フーリエが壊れた装置の前までふらふらと歩いて行った。
「何が起こったの……?」
「火の
「あなた――私を馬鹿にしてるの?」
バンッ!
フーリエが乱暴に、壊れた操作盤を叩いた。
「あなたが放棄した研究を完成させるのに、私がどれだけ苦労したと思っているの!? 何でも軽々とこなして、いつも私のやることを真似して先に結果を出して! 私が必死で努力して辿り着いた先に、いつもあなたが先回りをしてる。その気持ちがわかる!?」
「お、ねえ、ちゃん」
――この時、シューイは初めて、パスカルが本気で傷つく姿を見た。
(この人でも、こんな、普通の人みたいに落ち込んだりするんだ)
失礼にも程がある感想だが、そう思わずにはいられなかった。今までの言動が言動だっただけ、よけいに。
立ち尽くしているパスカルの両肩に、シェリアがそっと手を置いて、パスカルを下がらせた。
交替にアスベルがフーリエの前に出て、事情を説明している。
「――、
タイトルがあれであってもオリ主×ソフィのシーンは外しませんとも。
※2017/12/17 結合しました。