CCさくら×テイルズ ~カードを求めて異世界へ~   作:あんだるしあ(活動終了)

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隠さないだけ

 

 ララとのお別れを経てソフィらが宿屋に戻ると、残った仲間は全員が食堂のテーブルに集まって話し合っていた。

 

「ただいま」

「ソフィ。シューイ。お帰りなさい。待ってたのよ」

「わたしたちを?」

「ここ数日で集められた情報を統合しようと思いまして。二人とも座ってください」

 

 言われた通り、ソフィはシェリアの隣の椅子に腰を下ろした。シューイが男性陣側に座ったので、少しシューイと離れる形となった。

 

「今日までザヴェートの住民から集めた話を合わせると、フェンデル政府が大煇石(バルキネスクリアス)の実験を行っているのは本当みたいだな」

「肝心の大煇石(バルキネスクリアス)がどこにあるかを知る人間は、警備兵にもいなかったな」

 

 ララの見舞いに行く合間にも、シューイは聞き込みを続けていたのだと、ソフィはこの時初めて知った。

 

「アンマルチア族の協力を得て実験が進められている、と言った人もいたわ。もしかしてパスカルの知り合いがいるんじゃ」

 

 シェリアが右隣のパスカルを向くが、パスカルは焦れったそうに頭を掻くばかり。

 

「まずいよこれは……まずいまずい、絶対まずいって」

 

 パスカルが浮かべるのは、今までの旅では見せなかった、本気の困り顔。

 

「フェンデルの煇石(クリアス)って他のと比べて特殊っていうかさ。簡単に原素(エレス)が取り出せないんだよ。大煇石(バルキネスクリアス)で実験して失敗しようものなら、とんでもないことになるよ。フェンデル全土が吹っ飛ぶだけじゃすまないかも。帝都に来る途中ででっかい穴が開いてるの観たでしょ? あれ作ったの、あたしなんだ。煇石(クリアス)の力が暴発したんだよ。しかも指先くらいの大きさの。大煇石(バルキネスクリアス)だったらって想像したら、そりゃ焦るでしょ」

 

 パスカル以外の全員が目を瞠り、顔を見合わせた。

 

「ひょっとして、計画に協力してるアンマルチア族の人は、パスカルの技術を使って?」

「大いにありうる。しかもそうだとしたら、あたし、心当たり、一人しか思いつかない」

「誰です?」

「あたしのお姉ちゃんのフーリエ」

「なるほどな。同じ家の人間なら、レポートなりデータなりいくらでも持ち出せるってわけか。それでパスカルの残したものを応用、あるいは転用したと――」

 

 宿屋のドアが乱暴に開け放たれ、フェンデルの兵士が入ってきた。

 

 フェンデル兵はソフィたちのいるテーブルへと来た。

 兵の視線が向いているのはマリクだ。

 

「貴様は一体何者だ! マリク・シザーズという人物はとうに死亡しているではないか!」

「なるほど。そういう扱いになっていたとはな」

 

 マリクがシューイと、それにアスベルにも目配せした。この場を出て逃げよう、とその視線は語っていた。

 シューイもアスベルも肯き返した。

 

 マリクが殊勝に立ち上がる――と思わせ、近くのフェンデル兵に足払いをかけた。

 

「逃げるぞ!」

 

 転んだフェンデル兵を避けて他のフェンデル兵が離れた隙に、全員が立ち上がり、宿屋のドアへ走った。

 

「逃がすか!」

「弟くん、危ない!」

 

 パスカルが弾の射線上にいたヒューバートを突き飛ばした。

 

 結果としてパスカルの肩を弾は貫通した。水色のシャツに赤がどんどん染み出していく。

 

「パスカルさん!?」

「っつ~……弟くん、大丈夫?」

 

 シューイがさくらカードと剣を両手に持って前に出た。

 

「悪く思うなよ。――『雷』(サンダー)!」

 

 室内にも関わらず電撃が生じ、フェンデル兵を全て昏倒させた。

 

「外に出よう。パスカル、動いて平気か」

「ん、なんとか」

「後で治してやるから、しばらく我慢な」

 

 シューイが背をパスカルに向けた。パスカルも心得たもので、シューイの背に素直に負ぶさられた。

 

 ――ずく、と胸が軋んだ。

 

「ソフィ、どうした? 具合が悪いのかっ?」

「アスベル。あのね――」

「兄さん! ソフィ! 一度、ザヴェートを出ますよ!」

 

 見ればすでに、ヒューバート、マリク、シェリア、そしてパスカルを負ぶったシューイが宿屋の玄関を半分出ている。

 

「――なんでもない」

 

 悠長に胸の裡を打ち明けている場合ではないのだと、ソフィにも理解できた。

 ソフィはアスベルと共に、先に行った仲間に追いつき、宿屋から出た。そして、帝都ザヴェートから脱出した。

 

 

 

 

 

 雪原に出るなり、シェリアがパスカルの銃創に治癒術を施した。

 

「傷口はこれで塞がったわ。この程度なら痕も残らないでしょう。どう?」

「んー、ちょっと違和感はあるけど痛くはないよ。ありがと、シェリア」

「……どうしてぼくを庇ったりしたんですか」

 

 ヒューバートの声は低い。

 

「あんなにあなたのことを疑ったのに」

「どうしてって。仲間がピンチだったんだよ?」

 

 仲間、とヒューバートは呆然と反芻した。

 

「やっぱりあんたって人は、どこまでも素直だな」

「まあねえ。だって嘘つくのってめんどいじゃん」

 

 ヒューバートがパスカルの正面に来た。目は、合わせられないようだった。

 

「ぼくが油断したせいで…………すみません」

「気にしないで。弟くん」

「何で笑えるんですか!」

 

 自棄の色の強い目で、ヒューバートはマリクをふり返った。

 

「あなたも! もっとぼくを責めて構いませんよ、マリクさん。調査中にあなたがフェンデル兵に部隊証を見せた時、ぼくがあなたを責めたみたいに」

「君は自らの過ちを認めることができている。その素直さがあれば、二度と同じことはくり返さないだろう。それに、自らの過ちを責めている者を、さらに責め立てる趣味はないのでな」

「マリクさん……」

「皆、無事だったんだ。良しとしよう。なあ、パスカル」

「そうそう。問題なしだよ」

「それじゃあ僕の気がすみませんっ」

「じゃあねえ」

 

 パスカルがヒューバートの両手を強引に握った。

 

「あたしと弟くんは今から友達ね!」

 

 ――まったく。初めて会った時から、パスカルにだけは敵う気がしないシューイだった。

 

 

 

 

 ソフィは、パスカルを微笑ましげに見るシューイを見て、胸を押さえた。

 宿を出る直前と同じ、あの軋みが、強くなった気がした。


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